13日目 まいったなぁー

【登場人物】エクス、ファム

※中の人作『私と~』に少しだけ通ずる。微量要素くらい。にわか、かもしれない。中の人の妄想です。シリアス。



 まいったなぁー。


 ファムは乾いた声であっけらかんと呟いた。

 人生で何度も竜巻に合うなんて、しかも飛ばされた先でそうそう五体満足でいられるなんて運がいい。

 町の中にいたはずなのに、竜巻に巻き込まれ、気づけば柔らかい草が生え所々木々の生える草原だった。


「ファム、大丈夫?」


 同じ着地点についたエクスも何度めの竜巻か、身体に付いた砂埃を慣れた手つきで払いながら地べたに座るファムに話しかけた。


「いやー大丈夫ダイジョブ!あちゃー他のみんなは別のとこかな?」


 あ、ついでに帽子もどこいったかな?

 ファムの言葉にエクスも辺りを見回して、他に誰もいないことに気がついた。


「みんなを探さなきゃねー。よっこら……っつ…」

「大丈夫!?」


 立ち上がろうとしたファムが足首を押さえて蹲る。どうやら足首を捻っているらしい。ファムはまた、まいったなぁと苦笑いした。


「エクス君先に見てきて。私はゆっくり行くから」

「そんな、ファムを置いていけないよ」

「ふふ。魔女を侮らないでいただきたいね。大丈夫。すぐ追い付くから」


 眉を潜めるエクスにファムは笑顔で応えた。


「いや、でも……!何でこんなところに!」


「え?」


 その時、草丈の高い茂みからヴィランが現れた。ヴギーではなく、獣型の鋭い爪が特徴のヴィランが二体ファムの方へ早足に歩み寄る。


「まいったなぁー栞、お姫様に預けてたんだった…」


 アハハと苦笑してとりあえずただではやられまいとファムは身構えた。栞を持っていないのはエクスも同じはずだから、自分の身は自分で守らなくてはいけない。

 痛みの走る足を奮い立たせて鋭い爪を振り下ろそうとするヴィランに魔導書を構える。


「うおぉぉぉ!」


 ファムが詠唱するよりも早く、ヴィランの身体に亀裂が入り、靄に帰す。


「………」


 ヴィランの靄の向こうで、エクスが生身で剣を振るいヴィランを薙ぎ倒していく。あっという間に二体とも靄となり消えた。


「ファム、大丈夫だった?……もしかして、僕が生身じゃ戦えないって思ってた?」


 ポカンと佇むファムに、困ったような苦笑いをしてエクスは剣を鞘へ収めた。



『僕だって強いんだからね!』


「あー………」


 ファムの脳内に遠い昔の声が微かに鳴った。


「え?ファム!?」


 足の力が抜け、ファムはその場に座り込む。エクスが近くに駆け寄るとファムの目から涙が溢れていた。


「まいったなー……いや、ゴメン。気にしないで」


 自分でも制御できない涙を拭いながらファムは笑った。笑って誤魔化すことしかできなかった。


「え…でも…とりあえず…みんなを探そう。ほら、背中乗って」


「……」


 無理に触れることも難しいエクスは、背中の剣を前へかけ直し、ファムに背中を向けた。ファムが素直に乗るとは思わなかったが、数秒の後、エクスの背中に柔らかな重みが乗った。


 ファムは目の先に映る、ターコイズブルーの髪を細目に、遠い遠い日に想いを寄せた。



『ファムは僕が守るよ』



 自分と背丈も体格もそう変わらない少年がいた。いつも傍にいて話したり喧嘩したりからかったり。落ち込んでいる時は寄り添って、くれた。よわっちいと思っていたのにある日は野犬から守ってくれた。


───さっきのエクスのように──


 背中の温もりと、規則正しい脈の音が心地よく、細めた目は次第に閉じられる。


 背中に感じる重みが一層増した頃、抜けるような青空を仰ぎエクスは小さく息を吐いた。



「……ファムは僕が守るよ」


 その声は、真か夢か。


 

 

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