10日目 ナンセンス
【登場人物】ルイス・キャロル、レイナ
※残念ながら私には言葉遊びができないのでなんとも言いがたいルイス様。
決まりきってる物語を憂いている?
まったくもってナンセンス!
目の前の男はそう言った。名はドジソン。そうアリスは言っていた。
アリスにとって近所のおじ…お兄さん的な存在であるらしいが人をくったような、または苛だ立たせることに長けているような物言いは、だがしかし、人を惹き付けるナニかを持っている。
「私は自分がしなくてはいけないことをしているのに、何も変えられないことを悩んでいるのよ」
調律の巫女とはいい名で、結局は自由に生きたい、そっちの方が幸せになれるその可能性を強制的に
「何かな?君は人が創った
ハハハと笑うドジソンに私は顔が熱くなるのを感じた。同時に言われっぱなしなのにも腹が立つ。でも彼の出す紅茶とクッキーは美味しく頂く。
「例えばもし、私が介入しなければ死別することのない幸せな結末が待っていたとしたら?」
「そして、その想区は誰もいなくなる」
「…………」
ドジソンはニヤニヤと嗤う。本当にその通りなのだがやはり腑に落ちない。
「でも───」
「喜劇は喜劇として、悲劇は悲劇としてあるから美しい。それはストーリーテラーが誰かを愉しませるために書いたもである。それを何も理解しないのは本当にナンセンスだ」
百々のつまり、私は自分のエゴ丸出しということか。
そう考えているとドジソンはニヤニヤと私の頭を撫でた。
「原典からこの世に放たれた同じような
その代わり、既に成立した世界を自分がどうこうしようと思わないこと。狂った時はちゃんと戻して上げるのが筋ではないかね?
ドジソンのその言葉に私はハッとした。
どんな悲劇が待っていて、カオステラーによって上手く一時の幸せを手にすることができた二人もその幸せを甘んじて受けるつもりは無かったように、決められた世界にあっても彼らは彼らの意志で生きている。
「……そうね。これからも悩むことはあるけれどあまり深く考えないようにするわ」
気に食わない話があったら自分で書いちゃおうかしら。そうしたら新しい想区が…そんなばかな。
「それにしてもなぜ私をお茶会に?」
私は皿に残るクッキーを平らげながらドジソンを見る。ドジソンは満足げに私を見つめている。
「少女はみな素晴らしいからね!」
ぶっ!紅茶を吹き出しそうになる。そうだった。このドジソンと言う男は何かと少女、少女と連呼し、かつ、アリスに対して執拗に構っていたことを思い出した。少し、ゾッとした。ほいほい来てはいけなかったのか、と思っているとドジソンは今度はケラケラ軽い声で笑った。
「そんな警戒しなくても僕は紳士だから安心したまえ」
いや、あんまり安心できないんですけど?
「君は僕のアリスを愛してくれているから少し肩の力を抜いてあげた。それだけさ」
時々口にする「僕のアリス」。このドジソンがアリスにとっての何者なのか。分かりかけてやめた。アリスが物語のアリスだけでなく、実在するアリス・リデルの片鱗を見せたあの時に、私たちのいるこの世界が沈黙の霧に隔てられたものだけではないと、そう思った。
「美味しい紅茶だったわ。ありがとう。もういかなくちゃ」
果てしなく続くこの世界。このドジソンもまた旅をしていると言う。これまでにどんな世界を歩いてきたのだろう。聞いてみたいことはたくさんあるが、それは自分自身の目で見なくてはいけない。
「さらばだ、調律の巫女君。また会おう」
迷うな。進め。
私は心に、立ち止まりたくなりそうになる己にそう言い聞かせ歩き出す。
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