9日目 アンタの物語

【登場人物】エクス、ルートヴィッヒ・グリム

※中の人も上手く表現できない表記があります(創造主からみた空白の書の人物の存在)

※エクスはルートヴィッヒが創造主とは知らないまま

※エクスはルートヴィッヒに対して敬語使いそうだから使ったらお前誰だよになった




 俺は描くの専門だから。書くじゃなく描く。そう、絵を、挿絵を、兄さんたちが語る物語の人物を描くのが仕事。


 姿形、性格は兄さんたちが設定しても、具体的にヴィジュアル化するのは俺だから、内心では勝手に俺の子どものように思っている。

 そんな可愛い娘の一人、シンデレラが、フワフワした気持ちで、赤ずきんがルンルンした気持ちである男を見ている。



「あのー…えっとー…ルートヴィッヒさん、この子たちは僕の知っているシンデレラや赤ずきんちゃんじゃないんですよね?」


 男はたしかエクスと言ったか。俺たちが。物語における必ずある空白の部分。これまでいくつもの想区を旅してきたと言うが、お節介が売りのお人好しらしいことは聞いている。旅先でもことあるごとにお節介を焼き、何故か好かれることが多くそれが俺の子どもたちだと無性に腹が立つ。これが父親の気持ちってやつなのか?


「…ああ、そいつらはイマジンだよ。一時の存在。物語に縛られているようで縛られていない。アンタとも会ってないみたいなのにおかしいな」


 ニコニコ笑顔な幸せそうなシンデレラ。おいおいお前にはちゃんと王子様がいるんだよ?


「すごいなぁ。本当にあなたは一体何者なんですか?」


 赤ずきんが、「お兄ちゃんお兄ちゃん」とエクスの腕をブンブンしている。こいつがロリコンだったら危険だぞ!


「いや、別に大したもんじゃないよ。兄さんたちはすごいけど」


 暇潰しにシンデレラと赤ずきんを描いたのは間違いだったなと後悔したけど、まあ、ま・あ、二人が楽しそうだからよかったかな?こいつも悪いやつじゃないし。だがそれ以上の接触は断じて許さない。


「お兄さんがいるんだー。羨ましいなぁ。僕は本当に何もないから」


 空白の書の持ち主は自分の存在意義がないと思ってる。決められていない人生。でもそもそもそれがなのにな。想区出身だから苦しんでるんだな。可哀想に。俺は少し哀れに思ったのかもしれない。


「アンタの話、何か形に残すんだったら挿絵描いてやってもいいよ」


 自分でも何を言い出したのか、ちょっと恥ずかしくなった。エクスも目を丸くしている。ってか、おい、シンデレラ。キラキラした目で俺を見るな。コイツの話に出演したいのか?


「ははは…僕の話なんてつまらないし。でもルートヴィッヒさんの絵好きだからいつか、また、会った時にお願いしようかな」


 コイツは今出しているイマジンが、実際の物語でも俺が描いていることは知らない。言うつもりもない。

 コイツが語り部としての能力があるとも思えない。

 でも何か、コイツが内包するものを描きたい。そう思った。


「じゃあ僕はそろそろ戻ります。ありがとうございました」


 そういって一礼したエクスに、俺も軽く手を振った。

 コイツの、エクスの物語はまだまだこれから。


「また、会う日まで」



ちゃんちゃん♪

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