旅立つ燕に

あの日

僕たちは結ばれなかった。

部屋にあがりソファーベッドで、

二人で抱き合うように寝転がる。

電気もつけずに

愛を確かめるように

何度も口づけを交わしあい、

体のラインを優しくなでる。

けれども、

黄色いシャツの中に手をのばすと

彼女はするりと体をかわすのだ。


「だめ。」


「なんで?」


「わたしいましたくない。」


「私はあなたがほしいよ。」


「うーん…。」


「わたしとはしたくないか…。」


「ちがう。わたし…ちょと好きじゃない。」


「…私がか?」


「ちがう!ちがう!」


「うん?わからないなー」


「わたし、いまあなたがしたいこと、好きじゃない。あーでもずっとじゃない。ほしいときもあるとおもう。でも、でも…いまじゃない。わかる?」


「わかる。でも燕は明後日に中国に帰るよね。会うの今日が最後かもしれないよ。」


「あなたにもう二度と会えないか?」


「わからない。でも…」


「私はまた会いたい。あー…日本にもまた来たい。だから最後に…あなたが今したい事、したくない…。」


「わかった。わかったけど、燕はあまり私に好きと言ってくれない。燕はわたしの事…」


「わたし言わない。」


「言ってほしい。」


「なんで?」


「言わないと私はわからないよ。」


「あいしてる…大好き!だからさみしいよ。」


「ありがとう。私も燕が大好き。」


「中国語で言って?」


「我爱你!」


「よくできました!」


そのまま唇をあわせた。

終電の時間まで体を寄せて、

月明かりの静寂をすごした。



「さぁ家まで送るよ。」


「はい。」


「必ずまた日本に帰ってきてね。」


「あなたは中国来ないか?」


「そうか…。そうだね。お金貯めて燕を迎えにいくよ。」


「OK!」


「燕、私があなたを迎えに行って、あなたが日本来たら、その時は結婚してほしい!」


「…わたしまってる!」


「燕の中国の家まで時間かかるか?」


「日本から、飛行機で大連一時間半。」


「近いな!」


「でも私の家まで大連から電車で11時間」


「はっ11時間?」


「あー…一番やすい電車で11時間。一番高い電車なら4時間くらい!」


「高いのっていくらぐらい?」


「一番安い2千円一番高い5千円くらい。」


「安いわ!」


楽しい時間とは本当に短い。

あっというまに燕の家まで着いた。


涙はさっきおいてきた。


最後にしたくないけれど、

いづれにしてもしばらくの間会えない事にはかわりない。

でも最後は笑顔で別れたい。

そう思いながらも何度も何度もキスをした。


最後に長く唇を合わせて、


「また必ず会おうね。」


「あなた中国まで迎えに来てね!」


「OK。じゃあね!」


「ばいばい。」


何度もふりかえって彼女を見る。

いつまでも手をふる燕。


そして燕は飛び立った。 



燕と言えば

会社帰りにいつも寄るスーパーの軒下に春先に巣を作っていた燕たち。

巣作りしてる時からずっと気になって何となく観察していた。

夏前には沢山の雛が元気に鳴いていた。


その燕の子たちもすっかり見る事がなくなった。

暖かい場所を求めて越冬するために、みんな巣だっていったのだろう。


僕もこれからいろんな意味で冬を越えなければならない。

それでも燕が暖かい場所を求めていつ帰って来ても良いように、部屋を暖めておくことにしようと思う。



            End




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