最後の夜 二人

一年前の燕に出会った。

一目惚れだった。

言葉の通じない、年も名前もわからない。

そんな彼女と話したくて、中国語の本を買い手紙を書いた。


自分でも考えられないくらい、

積極的で大胆な行動だったと思う。

断られたら仕事しづらいし、

会社にばれたらよろしくない。


一年後に帰るのはわかっていた。

遊びのつもりだった?

と言えば100%否定は出来ない。


だけど今はそんな気持ちは微塵もない。

ずっと一緒にいられるならば、

燕が日本に残るのならば、

結婚だって本気で考える。


だけどもう遅いのだ。

彼女は、残留期間が限られている。

今日言って明日できるものじゃない。


ーういしんー


「私今仕事終わり。」

「おつかさま。」

「今日の夜会えるか?」

「あなたいつ寝る?」

「今から帰って寝るよ。」

「あなた明日休みか?」

「休みだよ。19時で大丈夫?」

「OK!」

「また✉する。」


🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸

朝から同期の仲良しの子に髪を染めてもらった。生まれて初めて髪を染めた。

元は真っ黒だった髪がライトブラウンに染まっていく。


➡中国語です。

「燕は仁さん好きなんでしょ?」


「うーん。しらない。」


「そんなこと言って、好きにきまってる。」


「でも…。」


「ちゃんと最後は伝えなくちゃ。」


「でも私もう帰るよ。」


「だからでしょ。」


私は日本が好きだ。

彼の事も大好き。

でも私には年老いた両親がいる。

父や母にも会いたいし、

それに姉は結婚して家をでている。

私がいなかったら誰が両親の面倒を見るのというのだ。

だから彼には言わない。

わたしの気持ちは伝えない。

多分その方が二人のためによい。

🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹


「おつかれさまです。」


「おぅ。それじゃ行こうか。」


「どこに行く?」


「ちょっと隣の駅まで行くから駅までいこうか!」


「はい。あなたちゃんと寝たか?」


「大丈夫大丈夫!」


最後だしちょっと奮発して、お洒落なお店を…と考えたが、何せ彼女は食べ物の好き嫌いが多い。

ちょっと京都まで…。とも考たえたが、

時間も限られている。

やはり最後は自分の家に誘いたい。

なので地元のちょっと高級な居酒屋にした。



🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸

カウンターに横並びで彼と座る。

私はテーブル席よりカウンターのが好きだ。とはいっても、彼に出会うまで男の人とカウンターでごはんなんか食べた事ない。

でも腕のふれあう距離感がすき。


「何が食べたい?」


「なんでもいいよ。おまかせします!」


「OK。とりあえず、瓶ビールでグラス二つください!」


手慣れた感じで彼が注文する。

🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹

瓶ビールが来ると燕は珍しそうに瓶ビールを眺める。


「啤酒?」 


「そうビールだよ。」


といいながら二つのグラスに注ぐ。


「じゃーおつかさま。」


とグラスを傾けたところで、


「ちょとまて。」

と瓶とグラスをとって写真映えしやすいように配置して写真におさめた。

それから僕をこっそり写真で撮って、誰かに送信している。

で乾杯もせずに飲みだすので思わず、


「おーい!乾杯しようよ!」

可愛く笑う。

「おつかさま。」


「ありがとう。」


「さっき誰に写真おくった?」


「ん、母!」


「母?」


そう言って瓶ビールの写真と僕の写真を見せた。


なんか親に紹介された気分で少しこっぱずかしい。



🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


今日は彼とご飯を食べる。と

母に✉を送る。


「なんておくったの?」


「ないしょ。」


「なんでなんで?」


「いわない。」


お酒を飲みながら、

彼とこの1年間をふりかえる。

初めて声をかけられて、

ご飯を食べにいった。

遊園地にいった。

たくさんのデートをして…。

長くて短い1年間をお酒のあてに、

楽しく飲み交わすじかんも

またみじかく感じる。

会社での1年間も一緒にふりかえると

少しさみしくなってきて…。


「おいおい、泣くなって…。」


「わたしさみしい。」


「私もさみしいわ。」


と彼も目が潤んでいる。


「店でようか。」


「うん。」


「お会計御願いします。」


「家においで。」


「うん。」


店を出て彼の家に向かった。

歩いて10分ほどだけど、

人気の少ない道に入ると

二人でしめしあわせたように、

唇をあわせた。





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