イヤホンがほしい。

私は音楽が大好き。

というか、中国人はうたうのが好きだ。

なのに…

イヤホンの調子が悪い。


工場の近くの電気屋さんをのぞいてみる。

気に入った商品を手に取る。

3000円…


「高い…。」


しかも聞いてみないとわからないのに。

お試しできない。


そして従業員は中国語は通じない。

仕方がないので100円ショップで購入。


音が全く良くない。

おもわず

ーういしんー

のモーメンツ機能に写真付きで書き込み。


「100円の音しかしない!私は悲しい。」


中国語で書いたのに、5分もたたないうちに彼からの

ーういしんー


「イヤホン、壊れたか?」

「はい。」

「買ってあげようか?」

「でも私ほしいもの、とても高い…。」

「いいよ。今から行こうか?」

「私今日夜仕事。私とても眠たい。」

「近くの電気屋ならすぐに買えるよ。」

「工場近くだめ。研修生に会う。無理。」「じゃあ今度の休みにいこう。」

「あなた次いつやすみか?」

「火曜かな?燕は?」

「私も火曜休み。買い物どこにいく?」

「うーん…京都かな!」

「OK。私も寝る。眠たい。」

「ごめんごめん、おやすみ。またういしんするね。」

「はい。ありがとう。」

「おやすみ。」


そうしてまた彼にあまえる。

彼はきっと私が大好きだ。

遊びじゃない気がする。

私は彼の事…

きっと好きだ。

彼といたら楽しい。

誘われると嬉しい。

でもそれは、

日本にいるから?

彼が私の欲しい物を買ってくれるから?

まわりに私の話を聞いてくれる男の人がいないから?

私が年上が好きだから?

私はいったい彼の何が好きなんだろう?

そう考えるとわからなくなる。


私はあと一ヶ月ほどで中国に帰る。

彼とも会えなくなる。

その時初めて彼の大切さに気がつくのだろうか?


いや中国に帰れば中国の生活があり、つまらない日常を過ごしながら、きっと彼の事も薄れて忘れてしまうのだろう。


なのに…

なんで涙がでるのだろうか…。

私が彼を忘れてしまうより、

彼が私を忘れてしまうのが寂しい。

結婚にあこがれはないが、

私もそのうちみんなと同じように、

結婚して子供を育てて

昔日本で過ごした日々を、

楽しく語る事が出来るだろうか?


「どうした?疲れてるのか?」


潤んだ目を隠して目をこする。


「私、少し眠たい。」


わたしは

「眠たい。」

って言ったのに、

地下に降りる階段で彼が

私を黙って優しく抱き締める。

少しの間、私と彼だけの時が流れる。


「火鍋食べたいって言ってたでしょ。調べたら京都に美味しい店みつけたんだ。」


「どこにある?近い?」


「近いも何も、階段降りたらすぐだよ。」


店のメニューを見ると私の理想通りの火鍋。

でもちょっとお昼にしては高い…。


「高いなー。」


「大丈夫だいじょうぶ!」


そういって店に促す。

愛されるってきっとこういうことだ。


香辛料も薬膳も本格的、お肉も美味しい羊。

あまりにも美味しいので、太春雨と、湯葉を追加してしまったが、彼は満足そうにビールを飲んでいた。 


店を出て家電量販店に向かう。

途中のドラッグストアで、私のお気に入りの化粧品をみつけて、買っても良いか尋ねる?


「いいよ。他に欲しいものある?あっでも家が欲しいとかやめてな!」


などと冗談混じりの会話も楽しい。

私の聞き取りやすいように、だいたいゆっくり話してくれる。


「燕、買い物終わったらホテルいこう。」


と突然耳元でささやく。


一瞬悩んだが…。


「いかない!」


「だよね。わかった。」


嫌な顔ひとつしない。

彼の本心はどうなのだろう。

やはり最終的には体目当ての遊びなのだろうか?

一度許してしまったら、

それまでなのだろうか?

結局本心などわからない。

でもこの帰国間際にどんどん彼にひかれている私がいるのだ。


私はイヤホンが欲しい。


できれば性能良く音が聞き取れるもの。


私はイヤホンが欲しい。


彼の心の鼓動が聞き取れる。 


今私が聞き取れるのは、

優しく抱き締めてくれたときの彼の少しはやくなる心臓の鼓動だけ。


彼は私の日に日に高鳴る鼓動を感じとっているのだろうか?


そして今日も別れ際に唇の感触を残した。

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