燕 海へ行く。

「真夜中の5分前」

という映画のDVDを借りて見た。

主演は三浦春馬、あとはみんな中国人の日本と中国の合作映画らしい。

原作小説は本多孝好。

まだ読んだ事がない。 

監督は「世界の中心で愛を叫ぶ」の行定勲。

世界の中心で愛を叫ぶは、僕は映画版が好きだ。


この映画もかなり僕好みだった。

この映画なら燕と共感できるかもしれない。


ーういしんー


「燕明日休みだよね。」

「はい。」

「うちで、一緒に映画みたい。」

「私日本語で映画無理。」

「全部中国語の映画ある。」

「でも明日天気いい。私外に行きたい。」

「OK。考えておくね。」


急な転回。

さてどうしようか?

夏と言えば…海か。

燕の実家は中国でも朝鮮寄りの山岳地だ。

冬場は寒く、➖20度に達するらしい。

砂浜の海には行ったことがないと言っていたしなー。

で、急いでレンタカーを検索。

さいわい空きがあったので予約。 


そして海に行く!

必殺行き当たりばったり。


「おはよう」


「おはよう。」


「車で行くか?」


「あー借りて来た。」


「どこに行くか?」


「海に行く。初めてか?」


「私行ったことがない。」


「OK。じゃーいこうか。」


「楽しみ!」


水色のデニム地のワンピースに、

白い大きな花がついたサンダル。

お気に入りの黒い皮のリュック

小さな耳に白いイヤホンで音楽を聞くのはいつものスタイル。

幼い顔が一段と愛らしい。


天気は良いがもう8月も後半、

海水浴に向かう車もそう多くない。

燕は窓を少しあけて音楽を聞きながら

、たまに話しかけて会話をする。

風景を眺めながら、

ニコニコと聞いている音楽を口ずさむ。

ドライブを楽しんでいるようだ。

2時間弱車を走らせて

ようやく海が見えて来た。


陽射しがかなりきついが

白い砂浜が見えると二人ともテンションがあがった。

海水浴客はほとんどいないようで、

無料の駐車場もほとんどスカスカだ。


「さぁ着いたよ!」


「早く行きたい。」


と二人でドアを開けた瞬間…。

テンションがやや下がり…。

とんでもなく暑い。

 

「あ・つ・い…」


「わたしさむいだいじょうぶ、あついだいじょうぶじゃない。」


とか言いながら、

砂を洗い流す噴水にまっしぐら!


「ははっ!」


「水かかるよ!」


「だいじょうぶ、だいじょうぶ!」


顔や服に少しかかってもおかまいなし!


「わたし水大好き!」


「そうなの?水着買ってきて泳ぐか?」


「泳ぐ無理!水多いだめ。少ない水大好き」


そういえば以前にもみずたまりにも自らはまりにいってたなー。

と思い返しながら、

彼女の手をとってそのまま二人で砂浜におりた。

で、案の定サンダルのまま波打ち際に向かって行く。


「ちょちょっと待って!」


そう僕は運転してたので、当然靴をはいている。そのまま靴と靴下を脱いで左手に持ち、右手は燕の手を握る。


彼女は僕の手を払って、両手で水をかけてくる、

負けずと僕も足で海水をけりあげる。

びちゃびちゃと波打ち際を二人して追いかけあう。

まるでドラマや映画のような光景。

そんなカップルいないし…

なんて思っていたのに、

自分たちがその当事者になっている事に

笑えてきた。

純粋にとても楽しかった。

ちょっとした防波堤?船着き場?のようなところに上がって水平線を眺める。


「中国はあっちの方かな。」


「中国近い?」


「近くないよ。一緒に泳いでいこうか?」


「無理!」


「冗談だよ。」


彼女はスマホを取り出して自撮りしながら、風景写真を撮り始めた。

珍しく僕との横並びの写真も撮り

そのあと二人の足元だけの写真を撮った。

その写真がまた秘密めいた感じで、ぼくも気に入ったのですぐに送ってもらった。


そして二人でまたしばらく水平線を眺める。

腰に手をまわして、

まわりも気にせず

軽くキスをかわす。

そして何も話さずただただ海を眺めていた。


それは楽しくもあり

そして悲しくもあり

少し寂しい気持ちにさせた。


彼女はどう思っていたか知らないが…。

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