打ち上げ花火 下から見るか?横から見るか?じゃなくて本当に大事なのは誰と見るかだな。

初めて見た打ち上げ花火は中学生の頃だ。

当時の僕は彼女などいるわけもなく、仲の良い男友達と見に行った。

この時の本当の目的は花火ではなく、偶然クラスの女子に出会う事で、見上げるどころか二人で人混みに必死で目をやっていた。

まぁ結局誰にも会えず、花火半ばで男同士の馬鹿話に花を咲かせた。


その後20の頃に、初めてできたて彼女とその友人カップルとダブルデートで横浜の花火を見に行ったが、その時も花火よりも雰囲気にのまれて純粋に楽しむ事ができなかった記憶がある。


最後に見たのは別れた奥さんと、出会った頃に…。

まぁこの人は周りの非常識な言動が気になる人だったので、やはりあまり良い記憶がない。


だから僕は花火にあまり感動を得た事がないのだ。


「中国は花火大会ある?」

「ある。でも夏ない。」

「じゃあいつやるの?」

「冬。正月…新年、あー……旧正月!」

「あーなるほどね。」

「夏、花火ない。暑い!」


などと言いながら、さっき出店で買ったフランクフルトをほおばっている。

なかなか可愛い。


「燕は食べている時が幸せそう!」

「あー私食べる一番好き!」

「二番目は?」

「寝る!あなた三番目に好き。」

「いいよー三番目で!」


僕にとっては十分過ぎる言葉だ。


「大丈夫?眠たくない?」

「ちょと、眠い。」

「そうだよね。少し早めに帰ろうね。」

「うん。」


人混みをぬってちょっとしたすきまを見付けて入り込む。

少し大きな木があって見え辛いが、ギリギリにきたのでぜいたくは言えない。

しばらくしてまわりも人で埋まって来た頃、ギリギリにも関わらず何故スペースが開いていたか気がつく。

簡易トイレの真横だったからだ。

しかし時すでに遅し。

今更他の場所に移る余裕などない。


まぁ花火が始まればそれほどトイレに行く人などいないだろう。

などと思っているとついに第一砲がうち上がった!


「うわぁー!」


先程まで眠そうにもたれていた燕の目が輝いていた。

これだけの大衆の中で、すごく近い位置で彼女の吐息まじりの歓声が耳元に響いた。

素直に感動する彼女の声に安心と喜びを感じて、僕も花火に目をやる。


「すいません…」

ん…。

「ちょっとすいません…。」

人ごみを抜ける人が…。

「おっと、ごめんなさい。」


ぴゅー………

だぁーん‼‼

だっだっだっだっだーーん‼‼ 


「うぉー!」

「きれー!」

「すごいねー!」

「あと少し木がなければ良く見えるのに。」


次々とうち上がる夏の夜空を彩る花!


「すいませーん。」

「……。」

「トイレ空いてます?」

「あー多分。」


次々と押し寄せるトイレへの人だかり…。

たかだか2時間。

僕もトイレは近いほうだ。

だからこそこんな時はそれなりにトイレに行かない努力はする。

始まる前にデパートのトイレに行き。

こういうときは水分の摂取はなるべく控える。

でもトイレに行き交う男性は大概酒くさい。子供はともかく大の大人が、トイレに押し寄せるなんて…。

何をしに来てるんだか…。

決して良い環境ではない。


「わたし、今日、仕事で疲れて、でも花火見て、少し元気でたよ。」

「そうか!私も一緒にこれて良かったよ。」


一瞬イラっとしてしまったが、

よく考えれば僕も人に苛つきに来たわけではない。

純粋に燕と花火を楽しみに、

燕に楽しんでもらえるように、

そんな燕を見に来たのだった。

まわりの人は関係ない。

そう思うと環境が良くない事など、

どうでも良くなってきた。


そのまま燕を後ろから抱きしめた。

燕も僕に身を任せて寄りかかる。

そして燕の耳元でささやく。


「きれいだね。」

「うん。」

「燕がね!」


斜め後ろの僕の顔を見上げて微笑む。

そして手をギュッと握った。

僕もそれに答えた。


打ち上げ花火は

下から見るか?

横から見るか? 

ではなく誰と見るかだと思う。


花火だけじゃない。

映画もそう。

絵を見るのもそう。

買い物でも、

散歩でも、

ご飯を食べるのでも、

部屋で過ごすのも、

なんでもそうなんだと思う。

きっと何だって良いのだ。

色々な事を共感出来る。

それが人を好きになる事なんだと思う。


半年前ほとんど言葉のコミニケーションが難しかった二人が、(言葉の面で努力してるのは燕だけだが…。)今これだけ色々な事を共感出来てる事に幸せを感じた。


今までで一番純粋に花火を楽しめた。

そして最後の花火が終わる。

二人にとって最初で最後の花火デート…。

僕達にとって全て出来事が最初で最後。

こうして季節は過ぎ去って行く…。


疲れた燕を早いとこ送って帰る為に、余韻に浸る間もなく、帰路に向かうが……。

みんな考える事は一緒だ。

一斉に人が駅に向かい歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る