台風と花火

昨日からの雨雲が朝の日差しを遮っていた。

明日は県下最大の花火大会。

雨よりも心配なのは、

ゆっくりと北上している大型の台風だ。

僕は今日と明日は2連休。 

花火の為に燕の休みも変更してもらった。

なのに…

台風がまだ通り過ぎない。


燕は今日の夜は0時から仕事。

仕事が順調に進めば定時は朝の9時。

例え生産が遅れても11時には会社を出れるはずなので、17時に待ち合わせをした。


後は天気の問題だ。

天気予報では明日の午前中には完全に通りすぎるらしいが…。

雨は少ないもののその風の強さは凄まじく、飛んでいたコウモリが風にあおられて2度もベランダに落ちてきた。


夜が明けると風は強いものの

青空が雲の切れ間に見えていた!


「よっしゃラッキー!」


と思いながら花火を見る場所をスマホで確認しながら準備して朝から機嫌良く掃除等を進める。

燕が仕事を終わる11時頃に

ーういしんー


「お疲れさま!仕事終わるか?」


だが返事がない。

「まだ終わらないか…。」


その後13時頃に再び

ーういしんー

「寝てるのかな?起きたら連絡してね。」


返事なし。

「さすがに帰って寝てるか。」


だが16時になっても返事なし。

なんとなく不安になる。

まさか他の人と見に行こうとしてる?

僕の事がめんどくさくなった?

自分に自信がないから良くない事をつい考えてしまう。

それでも一応

ーういしんー


「駅で待ってるから起きたら連絡してね。」


「私今仕事終わり…。」


「今終わり?!大丈夫か?」


「大丈夫。私シャワーする。ちょと待って」


「疲れたでしょ。無理しないで!」


「大丈夫。私あなたと行きたい。」


「わかった。ゆっくり来てね。」


「はい。」


まさかの7時間残業。

昨晩の23時から起きてるのに大丈夫なわけがない。

僕はそのまま燕の家まで迎えにいった。


「お疲れさま。本当に大丈夫か?」


「大丈夫。明日休み!」


「人多いよ。具合悪くなったら言ってね。途中でも帰ろう。」


「大丈夫。」


「わかった!」


「昨日夜、人少ない!台風、電車動かない、日本人来ない。今日朝人少ない。」


「そっかそれでか。本当に大変だったね。」


「鈴木さん言う⬅(以前登場した年下の先輩)今日花火に行く。」


「あー大丈夫。人いっぱい。絶対会わない!」


「OK。」


自然と燕の手をとりつなぎあわせ、

駅へと向かった。

チケットショップで往復切符を買い、再び歩き出す。

駅に向かう人の数も今日は多い。

そしてその半分くらいが浴衣姿だ。

最近では浴衣の男も多いようだ。

燕の体調が気になるが、

日本の夏を感じながらニコニコと歩いている。


僕はその燕の笑顔が大好きだ。


駅のホームも人であふれていた。

その影響か少し電車が遅れているようだ。

階段を降りて乗り場に向かうと、突然燕が手をほどいた。


「どうした?」


燕が指差す方向に浴衣姿のカップルが…

鈴木さんだった。


「うわ、仁さん!こんな事ってある?」

「まじか…。」

「仁さん写メ撮っていい?会社で見せびらかすわ!」

「いいわけでしょ!たのむわ。」

燕は黙って僕の影に隠れている。

「じゃー人混みに紛れて消えるわ。」

「はいはい、またねー!」


波乱な幕開け。

とにかく花火は開催される。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る