無音と空白
一人になりたい。
でも一人はさみしい。
青い空
緑の木々
赤く燃える炎
大地が香る土の色。
闇夜を照らす黄色い月
世界から全て色が消えた時
人は何を思うのだろう。
田畑を抜ける風
闇雲に降る嵐のような雨
街道を走る車
よせてはかえす波
規則的な機械音
高架を抜ける新幹線
世界から音が消えた時
人は孤独に負けてしまうだろう。
人は一人では生きて行けない。
どんな人でも究極の無音空白に耐えられる者などいないではないだろうか?
夏の日差しにさらされて、
汗をかきながらも
人の温もりに触れたくなる。
毎日の生活に色や音を宿しているのは、
やはり人間の温もりなのだと思う。
突然与えられた3連休。
とりあえず見たくもないテレビを一日中つけて、だらだらと1日を過ごす。
溜まっていた洗濯物を全て片付けて、
朝から風呂に浸かると、
血の巡りがよくなったのか、
突然部屋の掃除に火がつく。
ガスコンロを全部はずして、
水回りをふきたおし、
ベランダの掃き掃除をしながら、
窓のサンが急に気になり、
汚れた布巾をおろして掃除にあけくれる。
せっかく朝から風呂に入ったのに
額からは汗がとまらない。
全てを終えてもう一度風呂場で汗をながし、
扇風機をの風をあびながら、
買っておいたビールを昼間から飲む。
窓の外から聞こえる雑踏と、
心地よく入る風に急激な眠気がおそう。
白昼夢。
燕と旅行に行く夢。
遠い遠い行き先のわからない道を
赤い車でひたすら走っている。
カーステから流れる
クリスハートのカバーアルバム。
今から向かう温泉について楽しそうに話す燕
信号の度に触れあう手
そんな単純な幸せを感じながら
わかっているはずの目的地が
いったいどこなのかを必死で考えている。
突然、燕が僕の長男の夏休みの宿題の事を話し出す。
それをなんの違和感もなく聞き入れる。
爽快に走っていた道が帰路を目指していることに気がつく。
隣に座っているのは燕ではなかった。
先程まで楽しかったドライブは、
重苦しい空気につつまれて、
車内は終始無言のままだった。
高速をおりると、
街並みが白黒になり
カーステの音はおろか、
車のエンジン音さえ聞こえなくなっていた。
ぶーぶー
ーういしんー
「あなた明日やすみか?」
スマホのバイブの音で目が覚めた。
過去と現実を行き来して、
これからと向き合う事を一先ずおいておいて
ーういしんー
「やすみだよ。燕はやすみか?」
「はい。わたし焼肉食べたい。」
「いいよ。明日いこうか!」
「ありがとう。」
とりあえず彼女が今の僕に、
色と音をあたえてくれているのは間違えないと思う。
心のどこかで過去にとらわれているのはわかっている。
あと2ヶ月で色彩豊かな生活が色を失う事も明らかなわけで…。
そう思いながらも、
結局ふらふらと自分の色を決められないのも、自分の弱さじゃないかと気がつくのだ。
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