優しい

バスを何回か乗りついだ。

京都は本当に人が多い。

外国人が多い。

お年寄りも多い。


バスに乗るときに、杖をついたおばあさんが段差にとまどっていた。

彼は

「大丈夫ですか?」

と声をかけて肩を貸して支えてあげた。


「ありがとう。たすかったわー。」

「いえいえ。」


彼は笑顔で会釈する。

バスが揺れる度に私の体を支えてくれ、

時々私を優しく抱きしめる。


私以外の研修生、仕事中みんな彼に、

「ワタシトイレいきたい。」

と言う。

本当は行きたくなくても言う。

彼はいつも

「OK。」

他の社員は

「無理。」

みんな嘘言う。


「研修生みんなトイレいきたい。あなたに言う。」

「あーみんな私に言うね。」

「トイレ、時々ウソ。あなた知ってる?」「うん。知ってる。」

「あなた、なんでOKと言うの?」

「そりゃみんな疲れてるの知ってるし、別に変われる人がいればそれでいいしね。」

「あー。あなた優しすぎるよ。」

「そう?」


そう言って彼は微笑んだ。

そんな彼の優しさにひかれていくわたし。


一度京都駅に戻ってきた。

彼に手をひかれて歩きだす。

それだけで幸せな気持ちになる。


「わたしトイレいきたい。」


笑いながら彼は言う。

「本当に?」

「本当に!!」

「OK。こっちにおいで。」


そう言って私の手をひきトイレに行く。

トイレから戻ると再び彼が手をさしのべる。私が濡れた手を見せるとすぐにハンカチをだしてくれる。


「少し歩くよ。大丈夫?」

「大丈夫!」

「しかし暑いなー!」

「暑い。」


もうすぐ16時だというのに、

日差しはやすまず照りつける。

西に傾きかけているぶん、さきほどより眩しい光は暑さを通り越してヒリヒリとする。

彼の優しさと同じくらい。


湿度を含んだ空気をあびて

汗が額をしたたっていても、

彼とつなぐ手は離したくない。

今はそれくらい幸せに思うのだ…。


「もうすぐ着くよ。」

「はい。」

「もう一回聞くけど、本当にいいの?」

「なにが?」

「いや、まっいいか。なんでもない。

暑かったけれど中は涼しいから。」


中?

建物?

ん?


中に入ると薄暗い部屋の正面に、何個かパネルがある。

そのうち2箇所だけ光っていた。

良く見えないので近づいて見ると、


ベット?部屋?

これはもしかして、

爱情旅館?

いやいや彼はホタルを見に行きたいって言ってたような…。


「なんで?なんでここに来る?」

「いやだからホテルに行きたいっていったでしょ。」


ホテル?ホタル?あーやってしまった。


「わたしいかない!」

「やっぱりか…。」

「うん。いかない!」

「絶対無理?」

「無理!!」

「だよね。OKわかった。」

「わたしまちがえた。」

「わかった。大丈夫だよ。むしろほっとしたよ。」

「なに?」

「なんでもないよ。」


しばらくして彼はもう一度、

「私は燕がすごく好き。それでもだめかな?」

「わたし…。だめ!」

「これからもずっと駄目かな?」

「…きょうはむり、だめ!」

「今日は…?」

「…。」

黙って彼の腰を叩く

にやける彼。

「わかった。きょうはやめよう。」

そう言って入り口で少し長いキスをした。


そのまま彼に、手をひかれて再び京都駅に戻った。

長い階段を二人で途中までのぼって、途中からエスカレーターに切り替えた。


「暑いし疲れた!」

「私、大丈夫!あなた疲れた!」

「あー私はいつも運動しない。今日は暑いし、沢山歩いた。体力の限界!って千代の富士を知るわけないか!歳には勝てないよ。」

そう言って彼は笑った。

一番上まで登りきると広い屋上の庭園から、京都の街並みが一望できた。

私は京都タワーを写真でとる。

彼はそんな私を写真におさめる。

そして彼は二人で並んだ写真を撮ろうとしてから一度やめて、二人で並んだ影の写真を撮った。

なんとなく秘密めいた写真は

色恋の奥深さと、

二人だけの秘密のような色っぽさが漂い、

なんとなく哀愁を感じさせた。




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