そうだ。京都へ行こう。

「仁さん13日休みな。」

「ん?なんでですか?」

「いや俺シフト組間違えた。そのかわり、この日夜勤で出勤して。」

「了解でーす。」


急な休み。

でもたしかその日は燕も休みだ。

どっか連れて行ってあげようかな。

などと仕事中に考えていたら、


「じんさん、機械悪い!」

「はいはい。」

「しゃいーん、粉がない。どこ?」

「あーちょっと待って。」

「じんさん、私ここ無理。」

「無理じゃないがんばって!」

「すみませーんワタシトイレニいきたい。」「はいはい。」


あーもう!!

聖徳太子じゃあるまいし、

いっぺんに話しかけるなー!

忍者になりたい。

分身の術を覚えたい。

体があと3個くらいないと対応しきれないわ!


浮かれた事考えていたらこんな始末だ。

そんないくつもの雑務をなんとか一つずつ、こなして一段落したら急に思いついた。


「そうだ、京都に行こう。」


「なんか言いました?」

「いや、なんでもないです。」


というわけで彼女を京都に誘ってみる事にした。


ーういしんー

「まだ仕事?」

「今家。」

「お疲れ様。燕明日休みだよね?」

「はい。」

「京都に行きませんか?」

「OK、京都で何をする?」

「観光地まわる。お寺とかかな。金閣寺知ってる?」

「あーわかる。」

「じゃあ明日9時に迎えにいくね。」

「OK!」


京都までは電車一本で行ける。

その後が問題だ。

市内観光は、市バスを利用するのが便利らしいがいまいち路線図がわからない。

スマホに頼るのみだ。


余談だが

元妻は調べ物にスマホを使うのや、車のナビを使うのを極端に嫌がった。

彼女いわく、

機械に頼りすぎて考える力がなくなり馬鹿になる。

お父さんがそんなだと、

子供たちも真似する。

子供たちがそういう子に育ったら困る。  

だそうだ。


わからなくもないが、極端すぎる彼女の言動にはいつもつかれていた。


まぁ今はそんな事はどうでも良い。


ある程度行き先をシュミレーションして、彼女の家にむかった。


「おはよう。」

「おはよう。眠い?」

「大丈夫!京都行く、遠い?」

「遠くないよ。」

それから見かけていたドラマを消して、

めずらしく早く仕度を終えた。

家で一緒に過ごす時より、外に遊びに行く時の方がやはり楽しみなようだ。


「京都はいった事ある?」

「ない。東京から、新幹線で京都おりる。私、今住所来ました。それだけ。」


彼女たちは仕事に付く前に東京で一月程、日本語の勉強をしてくる。それから職場のある現地に配属されるのだ。


前回出掛けた時もそうだったが、彼女は電車に乗る時すごく体をくっつけて甘えてくる。

自然と腕を絡めて手を繋ぐ。

頭も肩に寄せてくる。

平日とはいえ混み合う車内が二人の距離を近づけて、からめた腕をはずして抱き合う形になる。

そういう恋人感がとても心地よい。

僕の気分もとても高揚する。


長いトンネルを越えると京都駅に着いた。

トンネルでおかしくなった耳を唾を飲み込んで治すと、彼女も同じ事をしていたので、お互い顔を見合わせて微笑む。

そんな単純な事ですごく楽しくなる。


わりと近い京都だが、

実はあまり行った事がない。

行きたい所は、

「あそこは観光客が多すぎて疲れる」とか

「昔の彼氏と行った所だから嫌」とか

言われ、だいたい却下されてきたし、

行ったとしても相手の方が良く知ってたので、自分からリードして行くのは初めてだ。

なんだかそれも楽しいのだ。


僕は彼女の手を引いてバス乗り場へむかった。

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