誕生日と嫉妬。

しくじった。

休みの希望を出しまちがえた。

前からわかっていたのに、彼女の誕生日を休みにしてなかった。

今更シフト変更してと言えるわけもない。

誕生日の日は日曜日なので彼女も仕事だ。

そうすると彼女の休みは次の月曜日か。

夜勤5連発のちょうど二日目だ。

しかたがない。

仕事明けでそのままプレゼントを一緒に買いに行こう。


そんな日にかぎって、トラブルは続くものだ。朝6時定時で帰るつもりが気がついたら8時前だった。

必死に頭を下げて現場を去り、家に帰って風呂に入り、一時間程仮眠を取った。

ーういしんー

「おはよう」

「おはよう。今おわり?」

「いや帰って少し寝た。今から家に行く。」

「あなたもっと寝て。」

「大丈夫。今から行く。」

「あなた明日も夜仕事。寝て。」

「大丈夫。あとで寝る。」

「OK。」


半ば強引に約束をした。

だけどその日の僕の行動は的外れの

無駄だらけだった。

まずプレゼントを買いに2駅先の大きな街へ向かった。


「あなた何が欲しい?」

「うーん…わからない。」

「そう。いろいろお店見てみよう!」

「はい。」


僕のなかでは、一度きりの二人で祝う誕生日なのだから、少し高めのアクセサリーとか、ちょっとしたブランドの財布とか、バックとか、服とか靴とかそういう物を想像していた。

でもそれらは彼女にとってとんでもなく高い物のようで、少しひきぎみな感じだった。

彼女はそういうところがある。

どうせ私のお金じゃないし、高い物買って貰おうという気が微塵もない。

ご飯を食べに行っても、やたら高い店には絶対は入りたがらない。

そういう純粋なところにまた引かれる。

一時間以上、店を巡っても彼女の心を射止める物に巡り会わなかった。 

結局この街では何も買わなかった。 


「私、お化粧品すごく好き。」

「欲しいものある?」

「ある。でも私の家の近くにある。」

「ありゃりゃ。じゃあ帰ろうか。」

「うん。」


そうして地元に戻った。


「あなた誕生日。ケーキ買いに行こう。」


僕にはわりと気に入っているケーキ屋さんがあった。


「近い?」

「わりと近いよ。」

「OK!」

「あなたどんなケーキが好き?」

「クリームいっぱいケーキすき。」

「イチゴは好き?」

「イチゴいらない!」

「OK行こうか!」


沢山歩いて汗ばんだ手を、たまにハンカチで拭きながら店へ向かった。

ところが…

まさかの臨時休業。


「まじか…。」

「大丈夫!」


かなり落ち込んでいると思ったのか、フォローしてくれる。

優しい。

立て続けての失敗は流石に落ち込む。

それでもなんとか彼女の目当ての化粧品を購入して、お昼ご飯とケーキの代わりにハーゲンダッツのアイスクリームを買って。彼女の家に帰った。


そしてこの日最大の追い討ちがかかる。

一緒に買ってきたお昼を食べていたら、 

彼女のーういしんーがなり始めた。

「しゅじん」からだ。


彼女らはあまり打ち込みをしない。

短い言葉を録音して送るやり方だ。

電話ほど長くならず、

声を聞けるのでメールより親近感がもてる。

彼女らの会話はさっぱりわからない。

だけど以前


「今あまり好きじゃない。」


と言っていた 「しゅじん 」

なんだか楽しそうにやり取りしている。

時おり声にだして笑う。

僕は彼女の笑顔が大好きだ。

彼女の声を出して笑う姿もかわいい。

楽しそうにしていたら、僕も楽しい。

でも今は違う。

嫉妬しかない。


一通りやりとりが終わるのにどれくらい時間があったのかはわからない。

でも少なくても僕は長い事おもしろくない時間をすごした。 


きっとふてくされた顔をしていたんだろう。

彼女が


「どうしたの?」


と聞いてきたので、自分の素直な気持ちをスマホで翻訳した。


「嫉妬してた。少し寂しい。」

「あー…。」


と彼女は生返事をしながら

相変わらずスマホをいじっている。

横目で見るとーういしんーの

過去の履歴を消去していた。

何人かの履歴を消して

ーしゅじんーを残して

最後に消されたのは

僕だった…。

わかっていたけどかなり落ち込む。


「燕は私の事好き?」

「はい。」

「いや好きって言ってほしいな。」

「わたしそういうの言わない。」

「そう…。私、帰るわ。」


かなりみっともない。

今思えば仕事の疲れも相まって

少し感情的になっていたのかもしれない。


「あなた何を怒る?」

「いや怒ってないよ。」

「でも…。」

「なに?」


そのまま強引に抱き寄せて唇を合わせる。そのまま上唇と下唇の間から舌をいれて絡ませた。少し抵抗していたが、最後は少しだけからめあう。

唇がはなれると


「あなたわるいひと」

「私は燕の事が大好き。燕が他の男の人と仲良くしてるのは面白くない。」

「あー…。わたし。」 


気持ちを立て直して笑顔で


「ごめん。ただの嫉妬。今日は帰るね。」「はい。帰り気をつけて!」

「うん。また明日ね。」


辛うじて笑顔だったが、

気持ちは泣きそうだった。

帰ってもしばらく眠れなかった。

この気持ちはしばらくひきづった。

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