美琪!

彼の肩に身を任せて電車に揺られた。 

心地良い車窓の光 

イヤホンから聞こえる大好きな王力宏の曲。

私にとっての幸せな時間。


電車を降りるとき、ホームとの間が広かったので、彼が紳士的に手を差しのべてくれた。

優しい彼が好きだ。

駅は工事中のようで、改札口に着くまでかなりの距離を歩いた。

「なんで工事シテル?」

「うーん、8月に花火大会がある。ここの湖で一番大きい。その時は人がいっぱいになるから、行き来しやすいように広くしてるんだと思う。…。多分。」

「また多分。あなた多分大好き。」

「あー多分大好き。」 

こんな会話で笑い合える。

彼といると言葉なんてどうにかなると思えてくる。

私は勉強が好きじゃない。

15歳で学生を終了して以来、研修が決まるまでは全く勉強などしなかった。

学生時代の勉強も楽しいと思った科目は一つもなかった。

でも日本語の勉強は楽しい。

初めて勉強するのが楽しいと思えた。


改札口を抜けると、

踏み切りがなっていた。

形の違うレトロ?な電車。

踏み切りを抜けて駅に入っていった。

「日本電車タカイ!」

とか言いながらいつも電車代は彼がだしてくれる。デート代は全部彼持ちだ。

「あー高いな。中国どれくらい?」

「中国、車買う高い、環境に良くない。でも電車安い、バス安い、タクシー安い。みーんなヤスい。」

「いくらくらいなの?」

「50円くらい?」

「安いな!たしかに。」

「でも中国電車みんなうるさい!みんな話して、みーんな声大きい!」

二人でまた笑う。


「少し歩くよ。」

「何分?」

「15分くらいかな?」

「オッケー!」

狭い道を車が行き交う。

歩道はない。

彼はいつも道路側を歩く。

私を車から、すれ違う人から守ってくれる。

飲食店が並ぶ長い坂道半ばまで進むと、二股に別れた道を右側に進んだ。

学生さんたちが楽しそうに話ながら歩いている。これが日本の日常の風景なのかと、なんでもない事に感動する。

坂道を抜けて大きな通りにでる。

長い信号をわたり、大きなデパートの裏の通りにでると、目の前が広く遠くまで見渡せた。

「もうすぐだよ。」

彼を見ながらうなずいた。

風の匂いがかわった。

あきらかに、車や人の雑沓にまみれた匂いではなく、山々や木々の、それから太陽を浴びた水を含んだ風のにおい。

「本当に湖?」

「そうだよ。そしてここは、湖の中で一番狭い所。もっと奥の方はもっと大きい。」

目の前に広がる景色は海のように広く、

遠くに見える対岸の山々と街並み、

昼から現れた太陽と自然の薫りがする風。

豊かな自然のコントラストを奏でていた。

「美琪!」(壮大)

それ以上の言葉がでなかった。

自分の悩みなんか小さく感じてくる。

心があらわれるようで、

新しい自分と出会えるような気がした。




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