幸せな距離感

駅までは歩いてそうかからない。

彼女の手をとり

自分の手とつなぎ合わせた。

彼女の方から手をつなぎなおし

指と指もからめてしっかりとつなぐ。

いつも温かい彼女の手。

外気が暖かくなってきたので、

自分の手も温かい。

すぐに汗が出てくる。

この街はけして広くない。

別れた家族とも出会う可能性はあるし、近所の住人とか学校関係者と出会うかもしれない。

当然離婚は公にしていないので、もしも見られたらあまり良くはない。

でも今は彼女とつないだその手を離したくはなかった。


最近会社で働く日系ブラジル人の派遣さんが

、病気の為退職した。見た目は老けているが、まだ30歳前半だった彼は4月の定期健康診断で癌がみつかったのだ。

余命3ヶ月だそうだ。

他人事には思えない。

僕は今回の診断は血糖値が少し高いのと尿に血液が少し混ざっているくらいだったが(多分ストレス)

実の母は大腸癌で他界している。

そう思うと自分の人生毎日を大切に、悔いなく生きたいのだ。


とは言ってもやはり周りが気になる。

当然今の会社の従業員さんと出会う可能性もあるわけだ。最近噂話が絶えない…。


チケットショップで、6駅先の切符を往復で二人分購入して駅構内へ入って行く。

その辺りから彼女はつないでいた手を、するりと離して、腕を絡めてきた。

汗が気になるのかな?なんて考えていたら、ホームについたら柱の影で身を任せてきた。

「トオイ?」

「遠くないよ。電車で20分くらい。」

恋人同士のようなこういう感じ、

久しぶりというか初めてかもしれない。

いつもは人前でいちゃつくカップルに、

心のなかで、「バカじゃないの?」

と思っていたくせに…。

誰にも迷惑かからない。

きっと僕はひがんでいたのかもしれない。

などと都合の良い方に解釈して

自分を納得させる。

前に遊園地に行った時とはあきらかに違う距離感だ。


各駅しか停まらない駅を目指すので、快速列車を一本見送った。

昼間の各駅はそう混んでいない。

扉が開くと空いているボックスシートに隣り合わせに座った。

組まれた腕を一度ほどいて、

座ったあともう一度彼女の方から腕をさしこむ、さらに指をからめて手をつないだ。

そして彼女は僕の肩に頭をのせて、

イヤホンで音楽を聞きながら目を閉じた。

こんな幸せなを感じた事はなかった。

愛されている実感というか、

一方的じゃないというか…。

幸せ過ぎて少し泣きそうになった。

彼女が心地良いように、

少し低め座ったので、

少し腰が痛かったが、

そんな事はどうでも良かった。

いつもと違う窓の景色を見ながら、

今までで一番幸せな20分を過ごした。


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