感情 並行 この先に…。

 夏の終わりには彼女が国に帰る。

まだ先のようだが、月に2度程度しか休みが合わないので、プライベートで会えるのもあと8回あるかないかなわけだ。


シフトを決めている主任は彼女たちに休みの希望は聞かない。

彼女たちも仕事以外予定はないので希望など言わない。

実際4月は休みが1度も合わない…。


とは言え、

ほぼ毎日職場で顔を合わせるわけだが、

触れられないのがもどかしい。


日に日に彼女の存在が大きくなっていく事に少し不安を感じる。


初めは少し軽い気持ちだった。

離婚したところだったので寂しさもあった。

寂しさまぎらせる為なら

誰でもいいはずなのに…。

あらためて自分の性格を知る。

遊びの恋はできない。

相手が受け入れてくれるほど、

本気になってしまう。


だから彼女が僕を本気で無い事を願う。

このまま2人の想いが強くなれば、

別れが辛くなるだけだから…。


今更ながら初めの頃、彼女の言っていた言葉がよみがえる。

「その先に何が」

一体僕は別れしかないこの先に、

いったい何を望んでいるのだろうか?


「これ冷蔵庫しまっておいて。」

「あー。ドコ?あなた一緒にキテ。」

「あーこっち。」

「ワタシ残業スクナイ。なんで?」

「研修生少し残業多すぎる。」

今ちまたでは、残業の多い会社が問題になっている。

通信会社、引っ越し業者、宅配会社

世の中にはそれでも残業代を頼りに生きている人たちはいる。

不景気な世の中だ。

それを彼女に伝えるのは難しい。

「ワタシ残業スコシ!ワタシクリームつくるスキ。仕事スキ。マイニチ仕事ダイジョウブ!」

「あーわかる。」

言葉が違うと微妙なニュアンスは伝えにくいので、少し話をかえる

「あなたクリーム作る好き!仕事好き!私はあなたが大好き!あなた私の事は?大好き?」

「あーワタシ、アナタ大好き!」

素直ににやける。

うれしい!

嬉しすぎるけど少し悩ましい。   

冷蔵庫の扉がしまる。

彼女の手を引く。


食品会社は数年前の毒入り餃子事件以来、現場監視が厳しい。

至るところにリアルタイムで事務所に映る、監視カメラがついている。

トイレと冷蔵庫以外は…。


彼女を自分に引き寄せて抱き締める。

冷蔵庫は寒いけど、

あたたかい。

作業着越しに体温を感じる。

ほんの数秒の出来事。

そして外から扉がひらかれる。

「あ、仁さん生地冷えてます。」

慌てて離れて、

「あーこれOKだわ。持って行って…。あなたクリーム全部しまっう。OK?」

「アー、OK!」

「じゃ生地持って行きますね。」

「いや俺持っていくわ。次の準備しておいて。」

「はーい。」

再び扉がしまる。

気づかれた?

大丈夫だろう。

顔を見合わせて、二人で微笑む。

何事もなかった様に二人とも別々の仕事に戻る。


このままで…

このままでいいのだろうか?

どんどん彼女に引き込まれていく。

彼女もなのか?それはわからない。

喜びと寂しさが並行して

今日も1日が過ぎていく。

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