キスよりも

燕ちゃんには彼氏がいる。

同じ研修生で一緒に日本にきたらしい。

写真も見た事がある。

彼女のーういしんーの投稿欄に

彼女の肩に手を回した写真が写っていた。

おそらくそいつだ。

といっても彼は別の研修先(他府県)にいるらしく、 

当然会うわけでもなく

彼女が言うには

「私マイニチ仕事イソガシイ、アマリ

連絡シマセン。」

だ、そうだ。

まめに連絡もしてないらしい。

それでも彼氏と言うからには

いろいろとしているのだろう。

いろいろと…。


彼女には姉がいる。

会っている最中に良く電話がかかってくる。

そもそもスマホが中国とつながっているのか?というと、そういうわけではない。

SNSだ。

無料通話のついているやつ。

Wi-Fiがとんでいれば、どこでもつながる。

とんでいればだけど…。

便利な世の中だ。

両親からもたまに連絡がある。


彼女は家族から愛されている。


家族から離れた僕には羨ましくもあり、

悲しくなるときもある。


僕には子どもが3人いる。

妻と別れても子どもは子ども。

3人いた。

と言う過去形にはしたくない。


みんな同じように可愛がっていたつもりだが、次男坊は性格が自分に似ていて、つい目を向けてしまう事が多かったように思う。

3人兄弟の真ん中。

境遇も自分と同じだ。

兄に気を使い

弟の様に甘えられず

みんなに合わせて生きている。

兄のお古を着て

着潰すので、

弟は新しいのを買ってもらう。

親にも気を使って

いつもはニコニコ我慢をしてる。

でも本人は我慢してる事に気づいていない。だから陰でこそこそ悪い事をする。

そして自分を誤魔化して

嘘をつく。

そういう生き方を小さいうちからしていると、本当に自分がやりたい事が見えなくなる。

まわりの人に気を使うばかりで、

人に合わせる事ばかりして、

自分がないから、

先の事をうまく考えられない。

彼には自分と同じ人生を歩ませたくない。


離婚して最近ようやく

自分のしたい事が何なのかを、

考えられるようになってきた。


大きな事業を成し遂げる。

とかそんな大それた事ではなく

明日はこの本を読もう。とか

今度あそこのラーメン屋さんにいってみよう。とか

休みの日に好きな映画を見に行こう。とか、

調子悪いし今日は1日寝てよう。とか…。

なんでもない事さえも人に気を使っていた自分に気づかされるのだ。


だから燕ちゃんにも自分の思いは言う。

会いたい時には

「会いたい」と

ーういしんー する。

手をつなぎたい時は

自分から彼女の手をにぎる。

抱き締めたくなったら

引き寄せる。

キスがしたくなったら

彼女に顔を近づける。

そして今日も拒否される…。


でもそれで良い。

自分のしたい事を意思表示する事は

とても大事なことだと思う。

僕はキスがしたい。

彼女はしたくない。

したくないなら仕方がない。

でも僕はいつも聞く

「なんで?なんで嫌なの?」

「ワカリマセン!」

「口くさい?」

二人で大爆笑。

いつもの返し、

いつものやりとり。

けして気まずくならない。

笑いで終わる。


お互いを尊重できる関係。

今はキスよりもそれが心地よいのだ。







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