第3話 ヨシヲと武具店とあと八百屋

 どこにでもいる平凡な見た目の平凡な高校生だった俺ことヨシヲ。なんやかんやで異世界で勇者をやることになった訳だが、俺はようやく冒険に出ようとしていた。



俺の新たな仲間....


パンイチ

 俺は絶対にこいつの事を山ちゃんとは呼ばないつもりだ。まず存在が邪悪過ぎる。こいつ頭からマント被ってるビキニパンツのモンスターの親戚か何かじゃないのか?そもそも何故捕まらない?こいつを文字通りの呼び方したら俺やこいつを創造した神々作者が名誉毀損で訴えられかねん!


山出

 多分常識人枠だが影が薄くてもう名前すら思い出せない。線が細いし冒険とか大丈夫なのか?もしかしたらバスケさせたら大成するやもしれんな


田中

阿◯寛、人格者


 この三人と共にいよいよ冒険に出るのだがまずお互いの目的を確認する必要がある。俺は勇者が必要とない位平和な世の中で、一応は請われて勇者になった訳だし元の世界にも帰りたい。恐らくだが魔王を倒せば帰れるとかお決まりの展開だろう。


 だがそうなると彼らの冒険の目的は何なんだ?こんな平和な世界で何故冒険する必要がある?魔王を倒す志がある少数の奇特な人間と考え様にも、田中はともかくとしてパンイチの発言には崇高な大義だとかがある様には到底思えない。


「確認したいのですが....僕は魔王を倒す為にこの世界に呼ばれ、王様に正式に魔王討伐を請われているんです。今は平和な世の中です。あなた方も魔王討伐の為に旅をするつもりなのですか?それともまた別の目的がおありなのでしょうか?」


 この問いかけに各々顔を見合せ自己紹介の時の様にパンイチから順に答えた


「俺は魔法使いを捨てる為にだ!」


「私は遠く離れた異国で頑張っている幼なじみの商人の方に会う為です。」


「私は視野を広げたい。このまま平凡に生涯を終えるよりは外に出ていろいろな物を自分の目で見て、触れて、経験し、そして世界を踏破したい!そう考えたんだよ。」


 まずパンイチ....予想通り過ぎるクズだなお前。もう期待通り過ぎるというかこいつ最初にモンスターと遭遇した時に一緒に葬った方が世界が綺麗になるんじゃないだろうか?


 次に山出....普通。普通だがこいついい奴っぽいな。まあパンイチと同属性の魔法使いだろうがこいつは守ってやろう


 田中....さん。いい笑顔ありがとう。だけどさ、あんた一々壮大だしなんかデカイんだよ!身長も存在感も!山出を見習ってもう少し存在と顔の濃さを薄くして頂けないだろうか!


「分かりました。それでは改めて皆さん。これからよろしくお願いします。」


 目的は物の見事にバラバラだ。だがこの目的なら無能そうなパンイチが真っ先に抜けそうだし悪くない目的ではあると思える。しかしなんて個性的な連中なんだ。とりあえずパンイチは死んでいいと確信した。


 これでお互いにの目的も確認出来た。後はこれからの旅の為に準備をするだけだ。王様からは300G貰ってるし最低限の装備は出来るだろう。


「すみません。旅に出る前に装備等を調えたいのですが武具店に案内して貰えますか?」


「仕方ないな。」

「構いませんよ。」

「まあ当然だな。」


....まあ悪い人達でない事は確かだと思う



「おう、兄ちゃん達。冒険への準備かい?何か買って行くならいろいろ教えてやるぜ?」


 武具店に着くと威勢のいい店主に声を掛けられた。俺は愛想よく笑い返し


「少し見させて下さい。」


 と一言返事を返す。店主は構わないといった風に笑い返し腕を組んでこちらの様子をニコニコな顔で見守っていた。まあ『こん棒』位は買えるかと思い商品を覗いていく....が、そこで俺は絶句した。


 どの武器も防具も万単位のGを必要としていた。唯一例外の修学旅行土産の『ひのきの棒』ですら2000Gするのだ。どうなってるんだ?300Gだと隣の八百屋の高騰しているらしい葉物野菜買ったら完全にお無くなりになる程度なんですけど?これ宿代どころか生きていく事すら出来ないんじゃないか?

しかもやべぇ!なんか八百屋の店主鉢巻まいたおっさんと学園ラブコメなら恋に落ちるTo Loveるレベルで目があっちまった!お互い露骨に目を逸らしたのが余計に気まずい!ってか今それどころじゃないのに横目からチラチラこっちめっちゃ見てるよ!違うからッ!俺そういうんじゃないからッ!だから少しづつこっちに来ないで下さい!!


 値段を見て目の前にある現実と、僅かににじり寄って来る八百屋の店主に震えている俺に、武具店の店主も仲間も怪訝な顔をしてこちらを見ていた。俺の様子がおかしい事を気使ってか田中が俺に尋ねた


「ヨシヲ君、王からは幾ら準備金を貰っているんだい?」


 俺は振り向く事も出来ず下を向いたまま、そして震えながらボソリと答えた


「....300Gです。」


・・・・


 三人は止まった。

武具店の店主から笑顔が消えた。

こちらの様子を見ていた八百屋の店主は何故か悲しい顔をした。

近くを歩いていた通りすがりの人達も不自然な位置にいた八百屋の店主が気になり聞き耳を立てていたのか足が止まった。


 おい、そんな憐れそうな目でこの世界のビギナーさんを見るのは辞めて差し上げろ....

俺が豆腐メンタルなら今日が終わるまでに手首でバイオリンソロリサイタルを開催するか新しいぶら下がり健康法を編み出してしまうレベルの痛さやぞ....

ってか八百屋!てめぇ関係無いのに俺のダメージ余計に増やしてくれるな!



そして頼む....誰か何か言ってくれよ....

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