第24話

せっかくの休日を怠惰に過ごし満足した俺は翌日も筋トレに励む。

『鉱物創造』で作ったbarrage13は無事に使う事が出来た。

そして、日に日に筋肉っぽいものが付いてきている様な気もするが生卵がエッグベネディクトになった程度なので、まだ確信は無い。

それからも同じ内容の訓練が二週間続いた。

これまたアイザックも二週間連続だった為、アイザックのロリウイルスが移ってしまっているかも知れない。

やはり土台作りが大切だそうで、未だに魔法は初歩の物しか教えて貰えていない。

複合魔法とやらが早く使いたいのに…

まぁ、初歩の魔法でも色々アレンジを加えて遊んでいる為まだまだ楽しめるから我慢する。


地下室の宝石だが、既に地下室が埋まってしまった為、取り敢えず華美な宝石箱を作りその中に出来の悪い物はぶち込み、出来の良い物だけ地下室の棚に展示することにした。


だが、現在はある事を思い付き宝石類の増産は止め、今はbarrage13を増産している。

銃のサイズと仕組みはそのままだが、銃に精巧な装飾を施し豪華な作りにしている。

まだ最近作り始めた為、二百丁程しか作れていないが予定では五千丁位作る予定だ。


そんな感じで時間はゆっくりと過ぎていき、訓練も残す所一週間となった。


今日の朝、いつもの様に訓練室に行き部屋に入るとアイザックともう一人別の人物がいる事に気が付く。


「おはよ〜ナナシ」


軽い調子でそう言って片手を振っているのは、三週間ほど前に会ったきり見ていなかったテオだ。


「おは〜お久しぶりです。今日はどうかしたんですか?」


「今日はナナシにお願い、というか相談があって来たんだ」


「相談?」


その後、俺はテオから地上の資源が枯渇している事と上の世界でも資源は調達しているが足りないのだと説明を受けた。

どうやら、地上の資源は2100年の時点で殆ど枯渇しており、残った資源と上の世界の資源で今まで何とか持ち堪えていたがついに近年、需要に供給が追いつかなくなってしまったそうだ。


「えーとつまり、俺には『祝福』で鉱物資源を出して欲しいと?」


「うん、まぁザックリ言うとそういう事だね!勿論タダでって事は無いから安心して良いよ!」


「希少金属一キロ単位につきこのぐらい…」


そう言ってテオは懐から計算機を取り出すと、俺の近くまで寄ってきてわざと隠す様な体制で計算機に表示された数字を見せてくる。


そこに表示された数字を見て俺は驚愕する。

明らかにゼロの数がおかしい!しかし、本当なのだろう。説明を聞いた感じ、金やレアアース等の希少金属が無いと上の世界での防衛にも影響を及ぼし兼ねないそうなのだから。

そう、これは世界の平和を保つ為なのだ!

決してお金の魅力に負けたとかそういうのじゃない!


「へへっ、任してくだせぇ!交渉は成立ですぜぇ、旦那!」


「ふっふっふ、おぬしも悪よのぉ」


そんな訳で月に一度、希少金属を売ることに決まった。売る量は向こうが指定してくれるので俺としては助かる。

テオは作った希少金属を保存する為の場所として倉庫をくれるそうだ。

それを俺に渡すと「じゃあね、訓練頑張って」と言って消えてしまった。帰ったのではなく文字通り消えてしまった。

ちなみに直接倉庫を手渡しされた訳ではなく、『カード君』に似たカードなのだが、これを『自室君』に差し込み部屋に入ると中はかなり広い倉庫になっているらしい。

恐らく、それによって毎月入る収入はとんでもない額になると思われる。

一ヶ月分だけでも俺の今まで働いてきた分の給料を軽く超えているのだから。


ふへへ、大富豪になるのも夢じゃないかもな…


夢を膨らませ頬を緩ませていると、今まで発言していなかったアイザックが口を開いた。


「良かったねナナシ。これで彼女でもいれば良いんだけどナナシは残念ながら使い道が無いね」


「よろしい!ならば、戦争だ」


俺は全て言い終わるよりも先にファイヤーボールを作るとアイザックに向けて飛ばす。


「ふははっ甘い!!」


アイザックはそう言うと手刀でファイヤーボールを真っ二つにする。


少し前までは木の的に向けて魔法を撃って練習していたのだが、ここ最近では動く的、更に生きた的の方が経験が得られると思いアイザックを的にしている。

その方がアイザックも暇つぶしになるだろうし、何よりルカちゃんやラミアの為だ。

この前アイザックが俺の訓練中に『幼女の堕とし方』という本を真面目な顔で読んでいるのを見てコイツはやばいと確信した。


しかし、ここ最近アイザックを的にして来たのだが、不意打ちで魔法を発動してもこのざまなのだ。

正面から魔法を使っても手刀で真っ二つ。

やはり、詰め将棋の様に考えながら使わねばならんのか。


まずは試しにファイヤーボールを飛ばす。更にもう一つ一回り小さいファイヤーボールを作り一つ目のファイヤーボールの背後に隠し飛ばす。

取り敢えずはこれでどうだ?


アイザックはいつも通り避ける事も無くその場に突っ立っている。

いけるか…?


「あまーーーい!」


アイザックは手刀を突き出すと背後のファイヤーボールごと吹き飛ばす。

まじかよ…

まさかの力業である。にしても熱くないのだろうか?


今度は他の魔法も使い、攻撃する事にする。


まずは先程と同じ様にファイヤーボールを作り飛ばす。今回は後ろにファイヤーボールではなく光魔法の『ライト』を作り飛ばす。

『ライト』は手動でマナの量を調節し明るさを変えることが出来る夜や暗い場所で便利な魔法だ。


「うん?同じ手でもう一度試すのかい?」


今回はアイザックがファイヤーボールを手刀で貫いた瞬間を狙い『ライト』にマナを注ぎ込みまくり目潰しを狙う予定だ。


「ならお望み通りに!」


アイザックは先程と同じく手刀でファイヤーボールを貫く。俺はその瞬間を見逃さず『ライト』にマナを大量に注ぐ。


注ぐと同時に訓練室内を眩い光が染め上げる。

まるで室内に太陽が出来たのかと錯覚する程の光量が発生する。


「目が!!目がぁぁあ!!」


訓練室内に俺の絶叫が木霊する。

アイザックが手刀でファイヤーボールを貫く瞬間を確認する為に『ライト』の近くを凝視していた俺は当然その光を直視している訳で、まぁこの結果である。


俺が何も見えなくなった視界に驚愕し辺りを見回していると近くからアイザックの声が聞こえてくる。


「魔法の応用って点では良いんだ。だけど自爆してどうするんだい」


「いや、すっかり忘れてました。それよりどうだ?俺の目潰しは効果あったか?」


「残念ながら僕はすぐに目を瞑ったから効果無しだね。ちなみに目潰しを食らったとしても気配で周りの様子は分かるから問題無いよ」


「まじかー、勝ち目ないじゃん」


俺はまだ視界が戻らない中考える。

気配か…気配ってのは五感とかそんな感じのあれで僅かな音とかで気が付くあれだよな。

だったら三半規管を狂わせれば気配が分からなくなる筈!なんかそんな気がする!


俺はまだ視界が回復していないが、アイザックの声がした方向に向けて風魔法の『ウィスパー』を使う。

『ウィスパー』は別の場所から音を出し相手を撹乱する技だ。

あとは『ライト』と同じでマナを注ぎ込みまくり爆音でアイザックの三半規管を狂わせるつもりだ。


これはいけるぜ!


俺は感覚でアイザックの近くに『ウィスパー』を使うとマナ増し増しで音を出す。


それと同時に訓練室内を聞き取ることの出来ない程の爆音が駆け巡る。


「耳が!!耳がぁぁあ!!」


ああぁぁ!!耳塞ぐの忘れとったぁぁあ!!

視界も回復していないし耳もやられた。もう俺は無理だ。


ちなみにアイザックは耳に風魔法で真空の空気膜を作る事で回避している。


アイザックはそんな憐れなナナシを見て呟く。

聞こえてはいないのだが言わずにはいられない。


「はぁ…ナナシ…君は本当に馬鹿だね。閃きとか発想は良いんだ、だけど自分に対する影響の事を全く考えてない。訓練はあと一週間だけど、僕は凄く心配だよ」


アイザックは考える。ナナシの場合、イリーガルではなく自分の攻撃で死にそうだと。


そして、ナナシの視界と聴力が回復した所で告げる。


「ナナシ、一週間後に試験をするよ。試験内容は僕に攻撃して一発でも有効的な攻撃を当てる事。もし失敗したら訓練期間を延長してあげるよ」


「えぇ?なんて?僕に一発して?何言ってんだ!?」


どうやら、まだ聴力が回復していなかった様だ。


後で改めてその事を告げると「殺す気で頑張る。死んでも知らんぞ」と言っていたので期待できるだろう。

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