第22話
アイザックから『barrage13』を受け取り、早速装備した俺は自分の姿を見下ろすと頬を緩める。
「ナナシ〜嬉しいのは分かるけどそろそろ訓練の続き始めるよ〜」
そう言われ俺は意識を現実に引き戻す。
「りょーかい。次は何するんだ?出来れば楽しい事で頼む」
「やれやれ、君は訓練を遊びと勘違いしてる様だね。残念ながらこの後は昼まで銃の整備の方法なんかを覚えてもらって、昼からは筋力トレーニングだよ」
うへぇ…つまんなそう。
「ナナシ顔に出てるよ。でも、大切な事だから諦める事だね」
その後、予定通り昼まで銃の整備やメンテナンスの方法を教わった。
それが終わると昼食を食堂で取り、少し休憩を挟んですぐに筋力トレーニングを開始した。
ひたすら腕立てやら腹筋やらをやらされ、俺のマッスルペインが更に加速する。
「ぜぇ…ぜぇ…はぁ…もぅ…無理っす…」
最後の方はフラッフラだったが何とか午後の訓練が終るまで耐える事が出来た。
筋力トレーニングは『身体強化』を多様しても大丈夫な様にある程度筋肉を付けるために必要な訓練らしい。
これをやっておかないと後々大変らしいので我慢する。
なぜなら、折角貰った『barrage13』が撃てなくなるのは辛いからだ。
「お疲れ様、良く頑張ったね。僕の予想ではもっと早くにへばると思っていたんだけど外れちゃったね」
「その予想当ててやりたかったよ…」
そう言ってアイザックは柔らかい生地のタオルと水をを渡してくれる。
「さんきゅ」
俺はそれを受け取ると早速とばかりにタオルで汗を拭う。続けて汗で失ってしまった水分を補う為に水を飲む。
「ふぇぁ…生き返った」
楽な体制で深呼吸を繰り返し新しい酸素を肺に送り込む。酸欠気味だった脳に酸素が巡り思考がクリアになる。
「アイザック〜今日はもう終わりだよな?」
「そうだよー。僕もナナシの筋トレを延々と眺めるのは飽きてたからね」
「俺が幼女じゃなくて悪かったな」
「君が幼女だったら、腕立て伏せの時に重しとして僕が上から馬乗りだよ」
「止めてくれ想像しただけで玉ヒュンするから」
俺達はそのまま訓練室を後にするといつも通り食堂で夕食をとりアイザックとは食堂で別れる。
俺は『自室君』を開けマイホームへと入る。
はぁ、やっぱりマイホームは落ち着くな。
早くもこの部屋を自分の家と認識し、完全に寛げる様になった俺には此処が第二の故郷だ。
玄関で靴を脱ぎ廊下を歩こうとすると足に何かがぶつかりそのまま盛大にコケてしまう。
訓練の疲れで足元の確認が疎かになっていた様だ。
何事かと先程まで自分の足があった地点を見やると、『NEST』とマークの入った段ボールが三箱転がっていた。
それを見て俺はすぐに思い出した。
おぉ!昨日の朝に注文した商品が届いたのか!
俺は早速とばかりに段ボールを全てリビングに運ぶとコタツにダイブし開封作業に勤しむ。
全て開封し終えた俺はホクホク顔で成果を眺める。
百五十種もの飴が今目の前に存在する。
その中には未だ舐めた事の無い未知の飴も存在する。
それを舐めるのが今から楽しみで仕方がない。
流石に机の上に出しっぱなしにして置くのは邪魔なのでキッチンにある食器棚の空きの部分に一旦全て仕舞う。
仕舞い終えると俺は今日舐める飴を取り出す。
その味は、なんと『アンチョビピザ味』だ。
どういった味に仕上がっているのか今から楽しみで仕方がない。
俺は軽い足取りでコタツに戻りテレビを付けると早速とばかりに口に飴を放り込む。
「うへぇ…ピザやぁ」
うぅむ、この何とも言えない味。ピザなのに甘いとはなかなかに革新的。
明日アイザックに食べさせてみよう。
案外あの変態なら口に合うかもしれん。
************************
アイザックはその日、二日に一度のテオへの報告の為事務局へと向かっていた。
いやーまさか『barrage13』を選ぶとはね。
ナナシはああ見えて脳筋なのかもね。
明日も筋トレって伝えたら、嫌な顔するんだろうな。
アイザックはそんな事を考えながら苦笑する。
くだらないことを脳内で考えていると執務室に着いたようなので、扉をノックする。
「どーぞー」
アイザックが来る事を予期していたのか、すぐに返事は帰って来た。なので早速扉を開け入らせてもらう。
アイザックがソファに腰掛けると早速テオは質問する。
「んで、どうだった?この二日間は?」
テオの目には明らかな興味の色が見て取れる。
恐らく、ナナシの『祝福』の事を早く知りたいのだろう。
「えぇ、報告すべき点が幾つかあります」
「へぇ、その様子だと何かあったようだね」
アイザックはナナシの『祝福』の事を話すべきか迷ったが、隠した所で何れバレる事なので離してしまうべきだと判断し話し始める。
「なるほどね〜それはまたとんでもない能力だね…」
全てを聞き終えたテオは口元に手を添えると悩まし気な声を出す。
「想像以上だよ、まさかどんな希少な金属や鉱石ですら同じレートで創造出来るだなんて…」
「そうですね、本人は馬鹿なのでまだ気が付いてない様ですが、悪用すれば市場経済その物を破綻させる事も可能です」
「さり気なく酷い事言うね。でも、地上では今アバンの外は殆ど立ち入る事が出来ないから希少金属なんかが不足してるんだよね」
「ですね、一応僕達のいる上の世界でも資源調達はしてるんですよね?」
「してるよ〜。まだ未開の地が多いから資源は沢山眠ってるんだけど、イリーガルが居るからねなかなか思うようには行かないんだ」
なかなか、上手くいかないのだなとアイザックは他人事の様に思う。
しかし、今の生活を保つ為にも機械の部品や製造等に必要な希少金属は必須な訳でこの事態に指を加えて見ている訳にもいかない。
「じゃあ、ナナシに頼んで創造して貰えば良いのでは?」
「うーん、それが一番手っ取り早いんだけど彼が納得してくれるか…」
「大丈夫ですよ、ナナシが勝手に宝石なんかを作って売りまくる前にこちらで販売先を指定しとけば良いだけです」
「そうだね、下手な事をする前に手を打っておこうか。ならこの件は今度僕の方からナナシに頼んでみるよ」
テオはそう言うと嬉しそうに笑う。
この話を受けるかどうかはナナシ次第だが、僕としても良い話だと思う。
ナナシが『NEST』経由で希少金属等を売ればそれだけで相当量の金額が入る筈だ。
その収入だけで恐らく一生働かずに過ごす事が出来るはずだ。
恐らく、いや間違いなく自堕落なナナシの事なら働かなくなり鉱物を売り捌くだけの生活に身を投じるはず。
「えぇ、お願いします。きっとナナシの事だから喜びますよ」
「お金は魔性のアイテムだからね」
そう言ってテオは苦笑する。
確かにお金は魅力的だ。何故か必要無くてもついつい集めてしまうのだから。
「祝福に関しては以上です。次は『マッスル』と銃の件ですが…」
アイザックから話を聞き終わったテオは声を出して笑っていた。
「いや〜流石ナナシ君だね!マナを躊躇無く使って行くとは!でも、なかなか悪くないスタイルだね。仲間がいる乱戦時には危険過ぎて使えないけどソロで討伐なんて時には雑魚を一掃できて便利かもね」
「そうですね。『魔弾』のリナさんみたいな戦闘スタイルに育つかも知れませんね」
「だね〜。彼女のオールレンジ攻撃は見物だからね。それもまた面白いと思うよ」
アイザックもまた彼女の圧巻なまでのオールレンジ攻撃を脳裏に浮かべ「ですね」と返答する。
「取り敢えず、報告すべき点は以上ですね」
「うん!報告お疲れ様!」
「では、失礼します」
アイザックは執務室を出ると自分の部屋に向かいながら思う。
テオ、彼は一体何を考えているんだ?
もしかすると別に何も企んでいないのかもしれない。
ただ期待の新人を見守る大先輩といった感じなのかもしれない。
しかし、気掛かりだ…
アイザックは溶けることのない疑問を忘却しようと試みたがやはり気になり、そのまま頭を悩ませながら自室へと帰って行った。
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