第21話
次の日、目が覚めるとすぐに身体の不調に気が付いた。
なんだ!?身体中が痛い、それにこの倦怠感…まさかっ!?
そう、昨日『身体強化』の練習をした時にアイザックから副作用の話を聞いたというのに、すっかり忘れて『身体強化』を使いまくってしまったのだ。
俺の身体が悲鳴をあげる原因、それは紛れもなく"筋肉痛"である。
「うぁ〜だるぃ〜もうやだ二度寝する…」
時計を見るとまだ七時であり、訓練まではまだ時間がある為、少しでも身体を休めようと思い二度寝する。
「はぁ…だるいわ〜」
結局、二度寝した所で身体の倦怠感は取れず、俺は重い足取りで訓練室を目指す。
「おは〜ナナシ。おっ?その様子だとマッスルペインだね?」
「そーだよ、もう怠くて敵わん」
「ははっ自業自得だよ!昨日あんなにも『マッスル』を使ったんだ。君の肉体には相当な疲労が溜まる筈さ」
「分かってたんなら教えて欲しかったよ」
「教えたのに忘れたのはナナシだよ?」
「そうでした…」
俺はその事実を思い出し諦めて訓練室へと入る。
「んで、今日はなんの訓練なんですかぁぁ…」
「僕までやる気の抜けてしまいそうな喋り方だね。それより今日は銃器の取り扱いについてだよー」
「お〜遂にか。遂に銃が使えるのか」
やったぜ!前から銃を使ってみたいと思っていたのだ。地上では『銃刀法違反』という法律があって銃や刀といった危険物の所持が禁止されておりライセンスを持った人しか所持が禁じられていたからな。
「イリーガルにも一応銃は通用するからね。マナの節約の為に銃を好んで使う人もいるんだよ。外に調査や討伐に出た際、マナの枯渇は死活問題だからね」
へぇ、そういうものなのか。
え?じゃあ、もしかして魔法っていらない子?
「でも、あくまで一応通用するだけだから。ステージⅠ〜Ⅱには問題なく通用するんだけどステージⅢ以上のイリーガルにはあまりダメージは入らないから気をつけてね」
はぇ〜そうなのか。魔法が必要な子で良かった。
「てことで早速ナナシには銃を選んでもらいます」
そう言ってアイザックはストレージを使い、何も無い空間からゴロゴロと銃器を取り出す。
そして地面に並べられたのは、ハンドガンやアサルトライフル、スナイパーライフルもあり様々な種類の物だった。
「さぁ好きなのを選んでいいよ〜」
「え?これ貰えるの?」
「うん、これも本部からの支給品だから」
「えっと…ライセンス無くて大丈夫なの?」
「ん?あぁそういえば地上ではライセンスとか必要なんだってね。でも大丈夫、本部で発行される『カード君』には銃刀類の所持ライセンス及び自動車運転免許等の様々な効果があるから。まぁ有効範囲は上の世界だけなんだけどね」
まじかっ!『カード君』万能過ぎかよ!
ひゃっほい。なら早速銃を選びますかな〜!
うーん、いざ選ぼうとしたのは良いがどの銃が良いのか分からんな。
「なぁ、どれがオススメなんだ?」
「うん?そうだね。ナナシは『マッスル』無しの場合非力だから軽い物か良いんじゃないかな?だからオススメはこれなんかどうかな?」
そう言って手渡されたのはセミオートマチックのハンドガンだ。ミリタリーに詳しい訳では無いのでこの銃の名前は分からないがシンプルなデザインで結構好みだ。
アイザックに銃の構え方や撃ち方の説明を受け、いざ実射となった。
アイザックの用意してくれた木の的に照準を合わせる。
初めての実射という事もあり若干緊張し、呼吸が乱れる。照準が呼吸でブレるため息を止め狙いを定める。
集中している為か心臓の鼓動が明確に伝わって来るのが分かる。
引き金を絞ると腕から方に伝わる衝撃、思いのほか衝撃は軽く狙いが大きく逸れることもなく的の中心より少し右に逸れた場所に着弾した。
「おぉ、凄いな。なんか…うん凄い」
なかなか感想が出てこないが、取り敢えず凄かった。
こういう時に自分の語彙力の無さを実感する。
「うん、最初にしては良い感じだね。どう?その銃にする?」
「うーん、もう少し撃ってみても良いか?」
「どうぞどうぞ〜」
アイザックから許可を貰った為、再び的へと向き直ると弾倉が空になるまで撃ち尽くす。
「ふむ…」
十三発中一発は的から外し残りは的へと命中した。
中心に当たったのは一発だけとまずまずの記録だ。
「どう?それにするかい?」
「うーん、使い易くて良い銃なんだけどな…。もうちょい威力が欲しいと言うか…なんと言いますか」
俺がそう答えるとアイザックは地面に置いていた銃を七割近くストレージにしまい、新しい銃を幾つか取り出した。
「威力が高い物となるとこの中から選ぶ事になるね」
そう言って地面に置かれたのは、対物ライフルやよく分からないゴテゴテした銃等重そうな物ばかりだ。
その銃達を一つずつ見ていると一つ良さそうな物を発見した。
形状とサイズは先程使っていたハンドガンと同程度の物で、銃口が縦に並ぶタブルバレルになっており、グリップには弾倉が存在せず中折式になっている。
機構は完全に上下二連ショットガンだが、銃身をギリギリまで切り詰めた形状をしている。
見た目は完全に上下二連のハンドガンである。
しかし、銃口から使用する弾丸はハンドガン用の物では無いと察する事が出来る。
「これは?」
「んー?それはハンドガンというより定義的にはショットガンに分類される銃だね。使用する弾丸は十二ゲージ弾で中の鉛玉は全部で二十発の散弾銃だね。装填数は二発でダブルバレル、合計四十発の鉛玉が炸裂する銃だよ。射程は凄く短くなるけど、面における殺傷力と制圧性はかなりの物だよ」
「へぇー威力高そうで素晴らしいな」
俺は許可を貰うと早速、的へ向けて撃ってみる。
「うわっ」
炸裂音と共に強烈な反動が腕を襲い、銃を手放してしまう。
「ははっ、やっぱり凄い反動だね」
「うへ…まじビビったわ」
にしても腕が持っていかれるかと思った。ハンドガンくらいの大きさの銃だから行けると思ったが、よくよく考えてみると使う弾丸によって反動は変わるんだった。銃のサイズ関係無かったわ。
しかし銃の威力は申し分無く木製の的が砕け散っている。
あ、反動凄いんなら『身体強化』使えばええやん!
「アイザックもう一回撃ちたいから弾ちょーだい」
「んー良いよー?次は吹っ飛ばさない様にね」
俺が銃に弾を込めている間にアイザックが新しい的を用意してくれる。
弾を込め終わると早速全身に『身体強化』を掛ける。
保険として少し強めに掛けておいたので恐らく大丈夫な筈だ。
的に向かって引き金を絞ると再び衝撃が腕を襲うが今回は違う。強化された肉体によって銃の反動を受け止め切る。
「おー!やった!今回は吹き飛ばさずに済んだな!」
新しい木の的は粉々に砕け散り結果は上々だ。
「良かったね、と言いたいけどナナシ『マッスル』使ったでしょ?」
「え?なんか不味かった?」
「いやー不味くは無いんだけど、銃を使うのはマナの節約ってのが大部分なんだ。なのに銃を使うのにマナを使ったら勿体なくない?」
「あー確かに。でも良いじゃん!俺この銃気に入ったし!」
「うーん、まぁナナシが気に入ったんならそれで良いけど。それにナナシはマナの総量も多いし問題無いか」
「そうそう、つまりそういう事だよ」
「おっけー。ならナナシの銃はそれで決定ね。何か他に要望はある?それと、もし他の銃にしたかったら『NESTショッピング』の武器の欄に売ってるから」
「『NESTショッピング』ね、了解。要望か…一つだけあるな」
「なんだい?」
「いや、さっき『身体強化』を掛けて撃ってみたら片手でも撃てそうな感じだったからデュアルにしたいなって思って」
俺は閃いたのだ。一発の薬莢に鉛玉が二十発ダブルバレルで四十発。デュアルにすれば八十発。
最強の弾幕が張れるではないかと。
「いやー流石ナナシ馬鹿だね。でも、そのマナの節約を一切考えないスタイル良いと思うよ」
そう言ってアイザックはストレージから同じ銃を取り出すと渡してくれる。
更に腰に付けるタイプの鞄とホルダー、十二ゲージ弾を百発くれた。
今回は本部からの支給品扱いになるそうだが、今度からは自分で購入しなければならないらしい。
しかし、後で本部で経費として落とせるらしい。
「あ、アイザックそういえば、この銃の名前聞いてなかったんだけど何て名前なんだ?」
「それは『barrage13』って銃だよ〜」
ふむ、まんまだがかっこいい名前だ。
俺は早速、貰った鞄を腰に付けると薬莢を全て放り込む。次にホルダーを両脚の太股の横に付け『barrage13』を収める。
なんだかカッコ良くなった気がする。
アイザックに自慢しようと思いアイザックの方を見ると、アイザックは両手でガトリング砲を構え肩には弾帯を掛けポーズをとっていた。
「かっこいい…」
くっ…負けた。ガトリングに弾帯なんてカッコ良過ぎんよ!
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