第19話


現在、俺の『祝福』の検証を終え昼食を摂るために食堂へと向かっている所だ。

食堂に向かい始めてから、やけにアイザックのテンションが高いので予想は大体ついているが食堂に何かあるのだろう。


ちなみに検証結果だが、午前の訓練を使って分かった事は以下の事だ。


まず、『鉱物創造』で創造出来るのは試してみた限りだと宝石や鉄なんかは創ることが出来た。試しに野菜を出そうとしてみたが出せなかったので恐らく無機物か鉱石類に限られると予想できる。

更に、創造によるマナの消費量は物体の希少価値に関係無く質量によって変化しレートは質量一kgにつき1マナ消費する様だ。

創造するには創造したい物体をイメージし出したい場所を指定すれば出せるようで、出せる場所は俺が目視する事が出来る場所に限る様だ。

つまり見えない場所には物質を創造する事は出来ない様で、例えば生物の体内に何かを創造したりする事は出来ないみたいだ。もし出来たら無敵じゃね?等と思ったりしたが残念だ。

それに、そんな事が可能だったら今横にいるアイザックの膀胱に尿結石をぶち込みまくっている所だ。


次に『支配』によって可能な事で分かった事はまず、俺の創造した物であれば空中に浮かせたりする事が可能で消費するマナのレートは、質量×一分という計算式になる様だ。

つまり一kg以下の物であれば一分間の操作して1マナの消費になり、例えば十kgの物なら一分間で10マナを消費といった具合だ。

そして、一つ分かった重要な事がある。

アイザックの私物で試した所分かった事だが、俺が『鉱物創造』で生み出した物質は無条件で支配可能だが、自然界に存在する鉱石なんかは俺が一度触れなければ支配出来ないという条件がある様だ。


最後の、分子構造の操作に関しては少し謎だが、ダイアモンドから炭にする検証をもう一度試してみた所、ダイアモンドから炭にする時に消費したマナは1だった。次に炭からダイアモンドにしてみたが、不思議な事にこれも消費したマナは1だった。

普通、炭とダイアモンドでは生成されるのにかかるエネルギーは大きく違うはずなのだが、消費したマナは同じだった為どうやらこれに関してもマナの消費レートは質量によって変化する様だ。

分子構造の操作は、あまり使い道が無いような気がするがそのうち何か良い使い道が見つかるかも知れないのでその時に期待だ。


と、いった感じの事が可能な様で今の所俺には金策以外の使用道が浮かばない。

まぁ、深く考えた所で大した案は浮かびそうに無いので考えるのは止めておこう。



頭の中で今日の検証結果の整理をしていると食堂に着いた様で、丁度昼食時という事もあり人々の喧騒と食欲を掻き立てる香りが伝わって来る。

空いている席を確保し、配膳コーナーへと向かい注文を頼み料理が出てくるのを待つ。


隣を見ると、アイザックのテンションが本日最高潮に達しており手足が忙しなく動き目は開きっぱなしだ。

どうやら何かを待っており、それを見逃さまいとしている様にも見える。


「おまたせしましたっ」


少しして料理が出来たようで、可愛らしい声と共に調理服を着ると言うより着られていると言う方が正しい様に見える少女が俺達の頼んだ料理を厨房から危なげに運びながらやって来る。


「ありがとうルカちゃん!今日もお仕事お疲れ様!昨日のカキフライ定食美味しかったよ、ご馳走様!」


アイザックはルカちゃんから料理を受け取ると満面の笑みでそう伝える。

中身はただの変態だが外見はイケメンである為、この様なイケメンスマイルでそんな事を言われれば大抵の女なら一発で落ちていただろう。

しかし残念ながら相手は"女性"ではなく少女である。


「え…えっと、ありがとうございます?それとどちら様ですか?」


「僕かい?僕はアイザックっていうんだ。よろしくねルカちゃん」


「ふぇぇ!?アイザックってあのアイザックさんですか!?」


アイザックの名前を聞いたルカちゃんは手をパタパタさせながら精一杯の驚きを表明している。


何この子超可愛い。


「うん?良く分からないけど間違いないと思うよ」


「す、凄いです!『剣聖』のアイザックさんですよね!?会えて凄く嬉しいです!私、お父さんから『プレニクス討伐作戦』のお話を聞いて凄く憧れてたんです!」


剣聖…?なんじゃそら?色々と知らない単語が乱発されているがどうやらルカちゃんという少女にとってアイザックは有名人らしい。


「ふふっ…聞いたかいナナシ?今ルカちゃんが僕の事を『強くてカッコイイお兄さん、尊敬します』って言ったよ!僕はこの日の為に産まれてきたんだね!今理解したよ」


アイザックは俺の耳元で嬉しそうに、それはもう嬉しそうに囁いてくる。


「いや、お前の耳はどうなってるんだよ。殆ど違うわ!」


俺がそう返したが、アイザックの耳には入らなかった様で楽しそうにルカちゃんと談笑している。


だけど、気付いているだろうか?そもそも会話の始めからおかしい事に。ルカちゃんは純心な為気が付かなかった様子だがアイザックの最初の言葉は完全に不審者もしくはストーカーの台詞だ。"今日も"なんて言っているが、まるで毎日見ているかの様な言葉だ。いや、事実見ているからこその言葉なのだろう。

名前も一方的に知っているという、明らかに不審な奴だ。


「じゃあね、ルカちゃんまた今度」


「はい!」


ルカちゃんが、あまりお喋りし過ぎると怒られると言っていた為、さほど長く会話する事もなく会話を終え俺達は席へと戻って食事を摂る。


「はぁ…ルカちゃんマジ天使。ルカちゃんに怒こる奴なんて僕が切り刻んであげるのにな…」


アイザックの顔は満面の笑みで頬はだらしなく緩んでいる。


「おーいアイザックさん、サラッと恐ろしい事言わないで?」


アイザックのその言葉にはいつもの軽い調子は無く本心で言っている様なので恐ろしい。ロリコンに加えサイコパス属性まで持っていたのか、恐ろしい奴め。


「ん?あぁごめんごめん、冗談だよ」


その割には目がマジでしたよ?


「それよりさっきルカちゃんが『剣聖』とか言ってましたけども?」


「うん、言ってたね。それは二つ名または異名なんて言われてて序列千番内の者に贈られる称号みたいな物なんだ」


「序列千番内…?」


聞き間違いかと思い思わず聞き返してしまう。


「そうだよ?序列156位、周りからは『剣聖』アイザックって呼ばれているよ。あれ?言ってなかったっけ?」


「聞いてないわ!」


え?何、何やねん…全く聞いてないし。

しかも序列156とか化物かよ高過ぎだろ。

二千後半くらいの序列のラミアですらあんなにも強かったのに156って何ぞや…

素手で岩とか砕いちゃうんすか?


「てか、アイザックはなんで二つ名が『剣聖』なんだ?俺的には『真性』とか『紳士』の方が似合うと思うんですけど」


「『紳士』か、なかなかいいと思うよ。まぁなんで僕が『剣聖』かっていうとね、単純な剣の技術に関しては僕がこの組織で最も優れているからだよ」


「へぇ、剣の達人って事なのか。ちなみにどのくらい凄いんだ?」


「うーん、どのくらいって言われてもね。あ、さっきルカちゃんが言ってた『プレニクス討伐作戦』ってのがあって、言葉のまんまだけどプレニクスっていうイリーガルを討伐した作戦なんだ。けどソイツが空飛ぶ相手だってね、僕は剣を使って戦うからなかなか攻撃が当たらなくて空振った攻撃で山を何個か斬った事があるよ」


山を斬った…!?


「お前は五〇衛門か!?」


「まぁ、明確な強さの指標は無いけどそれなりに強い方だと自負してるよ」


あ、自負しちゃうんだ。まぁ山が斬れるって想像がつかないが相当やばいのだろう。


「ま、まぁ、恐ろしく強いって事はわかったよ」


「敬ってくれてもいいんだよ?」


「いや、それは出来そうに無い」


即答した俺にアイザックは「つれないなー」と返してくる。

初めに教えてくれていたら敬ってたかもだが、本性を知ってからは敬えという方が無茶だろう。


「なぁ、一ついいか?」


「ん?なんだい?ルカちゃんのスリーサイズは上から61.47.62だよ?」


「いや、誰もそんな事聞いてねぇよ。ていうか何で知ってんだよ!?って、そうじゃなくて俺が聞きたいのは携帯の事だよ。銀行で犯人に渡して、それっきり何処かにいってるんだよ」


「僕の祝福は『ロリ魔眼』といってね、ロリっ子なら見ただけでスリーサイズが分かるんだ」


「なん…だと!?奇遇だな、俺も実は『チチ魔眼』という女性のバストなら完璧に計測できる祝福持ちなんだ」


「ナナシ…君は度し難い変態だね…軽蔑するよ」


「お前が先に言ったんだろ!?」


「それより、君のスマホの事が聞きたいんでしょ?」


そうそう、始めからそれが聞きたかったのだ。

いつの間にかこんなにも話が逸れているではないか。


「ごめんね?ナナシのスマホだけど、こっちで勝手に解約しちゃった。テヘペロりーん!」


「いや、普通に引くわ」


「結構自身あったんだけど…」


例えイケメンであろうと流石に舌を出してダブルピースの「テヘペロりーん」は強烈過ぎる。


「てか、スマホを解約したとは?」


「いや〜それがね?ナナシが前まで使ってた、地上で使うタイプのスマホは上の世界では全く使い物にならないんだ。だから上の世界では専用の端末が配られているんだよ。さっき僕が訓練室で使ってたアレだよ」


「えーまじっすか?」


なんて事だ、あのスマホの中には俺の夢と希望という名のシタチチウムとヨコチチウムが沢山詰まっていたというのに…!!


「あ〜安心して。その端末の名前は『スマホ君』っていってまんまなんだけど使い方は変らないから。それに色々と便利な機能も付いているからね。ちなみに『スマホ君』だけど、組織の方から近日中には送られてくるはずだよ」


お、そうなのか。なら安心だな。


「それと、ロックの掛かった写真のフォルダの中身……ちゃんとデータ移しといたよ?」


アイザックが口元を手で隠しながらヒソヒソと告げてくる。


「!?」


俺は無言で手を伸ばすとアイザックと硬い握手を結ぶ。

この時程、アイザックを尊敬した事があっただろうか?


その後も、くだらない会話をしつつ食事を済ませると、少しの休憩をとった後訓練室へと戻る。

食べ終わった食器を返す際、ルカちゃんを凝視するアイザックは完全に変態です。

さっきの俺の尊敬はクーリングオフでお願いします。

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