第18話

わーお…アメイジーング…

今の俺には周りの声が全くと言っていいほど聞こえていない。そう、アイザックの股間がヴォルケーノなんて聞こえていないのだ。


まじかよ!?モノホンのダイアモンドではありませんかでございます!


興奮し過ぎて頭の中がワッショイフルチン祭り状態だが気にしない。

それ程にまで俺は興奮しているのだ。


こ、この重さ…軽く一キロはある…!てことはカラット単位で五千カラットは…ふぉぉぉお!?

しかも、それだけじゃない…ダイアモンドの価値を決める4Cの残り三つ、カラー、クラリティ、カットも申し分のない素晴らしさ…

4Cのどれを取っても最高ランク…!!ふぁぁぁぁぁあ!!



「……シ!ナナシ!ナナシ!」


「はっ!?俺は一体…?」


「良かった…やっと戻って来てくれたんだね!その巨大なダイアモンドを見つめ始めてから十数分の間、幾ら呼び掛けても、全く微動だにしなかったんだから焦ったよ」


そう言ってアイザックは安心したように笑うとダイアモンドに視線を戻した。


「それよりナナシ、そのダイアモンドは君の『祝福』で出した物なんだね?」


「あ、あぁ間違いない。魔法と同じ様にダイアモンドをイメージしたら、こう 何と言うか、ぽんって感じでいつの間にか手の上にあったんだ」


「うん、どうやら君の『鉱物創造・支配』はアクティブ系統で間違いないようだね。そして、その能力についてはこれから検証していかないといけないけれど、取り敢えずは鉱石を生み出すことが出来るようだね」


「だな、取り敢えずこのダイアモンドは家に持って帰って俺がじっくりたっぷりねっとり確認するとして、一つ質問なんだが、魔法はマナを対価にして使うが、『祝福』は何を対価にしているんだ?」


「可哀想に…そのダイアモンドはご愁傷様だね。あ〜『祝福』もマナを対価に使うんだけど、『祝福』によってはマナを使わない物もあるからそれについては今から調べよう」


ふむ、『祝福』もマナを対価に使って発動するのか。

基本的にマナは必須な訳ね。


「調べるって、どうやって?」


「ふっふっふ、まぁ既に気がついていると思うけどこちらです!」


まぁ、アイザックの言う様に大体予想は出来ている。

恐らく『〇〇君』シリーズが出てくるのだろう。


「じゃーん!『マナウォッチ』でーす!」


「えぇぇぇ!?『〇〇君』じゃないんかい!?」


アイザックがストレージを使って出したのは、見た目は完全に腕時計であり、時計がある部分がパネルになっている物だ。

しかも複数個出しており、それぞれカラーが違う。


「まぁ今まで散々『〇〇君』って感じの道具ばかり出してきたからね、そう考えるのも仕方が無いよね。簡単に説明すると、製作者が違うってこと。こういった便利な道具を作っている人達は結構居るんだけど、『〇〇君』シリーズは大手ってだけで、他の人が作った道具もあるにはあるって事だよ」


な、なるほど。にしても今日この瞬間まで『〇〇君』シリーズしか見てこなかったから衝撃が凄まじい。


「さぁ、ナナシ。この中から好きな色の物を選ぶと良いよ」


アイザックの取り出した『マナウォッチ』は十八色。

俺は好きな色である白と紫で迷ったが、少しの逡巡の後、紫を選ぶ。


「おっけ〜。ならそれを腕に付けて」


「分かった」


俺はアイザックから受け取ったマナウォッチを左手首に着ける。

するとマナウォッチから音がしたと思うと、先程まで何も表示されていなかったパネルの部分に数字が表示されていた。


【18019/18018】


おぉ?この数字どっかで見た気が…。あぁ!俺のSFM値か!


「うんうん、ちゃんと表示されているみたいだね。そこに表示されている数字はナナシのマナの総量と残りのマナの量だよ」


「へぇ、なんか見た感じマナが一減ってるな」


「みたいだね。恐らく『鉱物創造・支配』を使用したからだと思うよ。にしても、あんなに大きなダイアモンドを出したにも関わらずマナの消費が一しかないだなんて…」


あ〜確かにな。あのダイアモンド一つで家が何個買えるか分からない程の価値だっていうのに、それがたったの一マナで出せるとなったら…

うん、俺もう働く必要なくね?宝石作りまくって売りまくって、それだけで俺一生暮らせそうなんですけど。


「ナナシ、取り敢えずもう一回『鉱物創造・支配』を使ってくれないかい?」


「分かった」


アイザックに言われ、『鉱物創造・支配』を使用する。

今回イメージするのは、朝に『NESTショッピング』のジュエリー欄で見かけた"かなり希少で高価"と言われているブルーダイアモンドをイメージする。

すると、またしてもいつの間にか掌の上に一センチ程の大きさのブルーダイアモンドが出現していた。


「うひょーー!?」


この色!輝き!なんて素晴らしい!これこそ宝石界の王!この一粒に自然の全てを詰め込ん……




「ナナシ!」


「はっ!?俺は一体!?」


アイザックによると、どうやら俺の意識がまたしても十分程度トリップしていた様だ。


「はぁ、やっと戻ってきたね。てことでマナウォッチに変化はある?」


あぁ、そういえばマナの消費を調べてるんだった。

すっかり忘れてましたわ。


【18019/19017】


「うーん、また一減ってる」


「みたいだね、何となく分かってきた気がするよ。すまないけどもう一度『鉱物創造・支配』を使ってくれないかい。ついでに条件として次に想像するのは質量が大きい物で頼むよ」


「俺は全く分からんが、分かった」


んー次は何を出そうかな。

俺は少しの間考え、出す物を決める。


「クリスタルクリエイト!」


俺がそう言うと目の前に俺達の身長の二倍はあろうかという程の物体が現れる。

俺が出したのはサファイアで出来た猫の置物、しかも特大サイズ。


「えっ?ナナシ今なんて言った?クリスタルクリエイト?急にどうしちゃったの?」


アイザックが俺の事を嬉しそうに、それはもう嬉しそうに見てくる。

あ、今になって自分の失態に気がついてしまった…

右手を突き出して技名を言うなんて、完全に中二病です、お疲れ様でした。


「えっと…その…なんか、こう口に出した方が格好いいかな、的なアレでして、はい」


「はははっ!なんてね!そんな事気にしなくて大丈夫だよ、だって僕も技名くらい言うからね。ただ知らないだろうから、からかってみただけだよ」


アイザックはそう俺におどけたように告げると、またしても笑い始めた。


なん…だと!?俺は恥ずかしがって損したわけか…


「基本的に皆、技や魔法を使う時には技名を言ってるよ。その方が使う技のイメージが湧きやすいからね。でも、技名だけでなく、呪文とか唱えてる人は痛い人に見られるから気を付けてね」


「先に言って欲しかったよ」


「やだよ、それだと面白くないでしょ?」


よし決めた、今日も昼飯のおかずを盗む。


「それで?マナの消費はどうなってる?」


アイザックに言われ俺はマナウォッチへと視線を移す。


【18019/17405】


「あ、結構減ってる」


「本当だね、どうやら僕は君の『祝福』である『鉱物創造・支配』の消費マナが決まる条件が分かったようだ!」


「な、なんだってー」


「棒読みは止めてよ…なんか僕が独りで盛り上がってるみたいじゃないか」


「いや、事実そうですし」


「ま、まぁ取り敢えず法則が分かったから説明するね。君の鉱物創造・支配は鉱物をマナから生み出すことが出来て、その消費マナは生み出した物の質量に比例するんだと思う。始めに出したダイアモンドは約一キロ。次に出したブルーダイアモンドは数十グラム。最後に出した、この無駄にリアルなサファイア製の猫の置物は五百キロ以上。つまり一キロにつきマナを一消費するって事だ。一キロ以下でも一マナは絶対に消費するって事だろうね。それで、減ったマナを逆算すれば今出した猫の置物の質量が分かるはずさ」


「なるほど希少価値とか無視で質量によってマナの消費が変わるのか」


金策としては最高の『祝福』だな。


「恐らく、それであっていると思うよ」


「そういえばアイザック、一ついいか?」


「ん?なんだい?」


「さっき出した、この巨大サファイア猫どうすんの?重すぎて運べなくね?てか置く場所無いと思う」


「あ…確かに」


アイザックは面食らった顔をするとすぐにストレージからスマホを取り出すと何かを調べ始めた。


あ、そういえば俺のスマホどこ行ったんだろ。

銀行で死にかけた時は持ってたんだが、病院で起きたら持ってなかったもんな、後でアイザックに聞いてみよう。



「いや〜お待たせ。調べてみたけど多分大丈夫だと思う」


アイザックがスマホで調べ始めてから数分で戻ってきた、どうやら対処法が見つかったようでその顔は安堵の表情だ。


「どうやらナナシと同じ『鉱物創造・支配』の『祝福』を持っている人はいないみたいだけど、『創造』の名前を冠する『祝福』なら幾人か持っている人が居るみたいで、公開されている情報によれば『創造』によって生み出した物体は本人の意思によって消す事も可能らしい」


え、まじか消せるんだ。まぁ出せたんだから消せるって事なんだろうか?それともマナから出来ているからマナに戻す的な?


取り敢えず消せると分かった為早速巨大なサファイア製の猫を消すことにする。そう消すことにする。


「け、消すよ?」


俺がそうに問うとアイザックはにこやかな笑みで返してくる。


「うん、いいよ」


け、消したくないっ!だってすっごいキラキラしてるもん。こんなにも俺の事をつぶらな瞳で見てくるヌコさんを俺が消せるだろうか、いや消せるはずがない。


「パパ…家でヌコ飼ってもいい?」


「ダメだ!家は集合住宅なんだから、周りの家に迷惑がかかる!それに世話だって大変なんだぞ!という事だから居た場所に戻してきなさい」


俺のボケにわざわざ口調まで変えて応えてくれるアイザック、流石です。

今のを要約すると「消せ」という事だろう。

仕方ない、まぁマナさえ消費すれば出せる訳だし今度小さめの奴を作ろう。


そんな訳で俺はサファイアヌコを消すことを決意する。


「ごめんよヌコさん家では飼えないって…ごめんよ…」


小芝居を挟みつつサファイアヌコに意識を集中させ消える様にイメージする。

すると、まるでソコには始めから何も無かったかの様にヌコは消えていた。


「あ、消せたみたいだね。よかったよかった」


あぁヌコさん…さらばヌコさん。


「それで、まだ試さないといけない事があるんだけど良いかい?」


「ん?いいけどなんかあったっけ?」


「あるよ〜、もう忘れちゃったのかい?君の『祝福』は『鉱物創造・支配』だったよね?で、さっきまでの宝石を生み出す能力は恐らく鉱物創造だよね?てことはまだ『支配』は使ってないわけさ」


「あっ、確かに…そうだな。と言われてもな『支配』ねぇ…何が出来るんだろな?」


「うーん、ちょっと待ってね検索してみる」


するとアイザックは先程使っていたスマホを取り出すと調べ始める。


「おっけー。今回はあっさり見つかったよ」


「んで、どうだったんだ?」


「えっとね、検索したら色々出てきたんだけど、その中でも『気体支配』ってのが最も近いと思うんだ。能力は気体を自在に操作する事が出来て、比重や分子構造すら支配し操作する事が可能らしい」


まじか…『気体支配』強よくね?

おっと、これ以上はアイザックに感ずかれるから止めておこう。


「てことは、俺も鉱石を弄ったり操ったり出来ると?」


「その可能性はあるかな」


「まぁ、取り敢えず試してみますか」


早速俺は少し前に生み出したダイアモンドをポケットから取り出す。

ポケットがダイアモンドの大きさのせいで膨れ上がっていたが仕方ない。

そのダイアモンドを地面に置くと俺はイメージする。

ダイアモンドが重力に逆らい浮遊する想像を。


「う、浮いてる!」


結果は成功の様で、ダイアモンドが独りでに浮くという奇妙な光景が出来上がっていた。


「ナナシ!マナウォッチを見ないと!」


アイザックに指摘され俺はすぐにマナウォッチへと支線を向ける。


【18019/17404】


【18019/17403】


あ、減った。


それから少しの間、マナウォッチを見ていた所どうやら一分間の操作でマナを一消費している様だ。


俺がその事をアイザックに告げるとアイザックは少し考えてから口を開いた。


「やはり、操作するのにもマナは必要な様だね。ここからは完全に僕の予想なんだけれど、恐らく操作する物の質量によって消費するマナも変わってくるんだろうね」


「多分そうだろうな。何となく俺もそんな気がする」


その考えの検証のために先程消してしまったヌコさんが居れば良かったのだが、時既にお寿司である。


「ま、その検証はいつかするとして次は分子構造を操作?出来るようならしてみようか」


「分かった」


のだが、分子構造を弄れる…か。

それを聞いた俺は一つ試したい事が出来た。

聞いた事は無いだろうか?ダイアモンドと炭は同素体であり、分子構造が違うだけでどちらも同じ炭素から出来ていると。

ダイアモンドの場合、炭とは分子構造が違い更に高温高圧な状況やら色々と条件が必要なのだが、そういった部分がどうなるのか知りたいのだ。


ということで早速試してみる。

まずは浮いているダイアモンドを地面に下ろす。

そしてダイアモンドの分子構造を思い出し、その分子構造が炭の分子構造へと組み変わるイメージをする。

ダイアモンドの分子構造は立体で、炭の分子構造は平面である。立体から平面へと、まるで建物が崩壊するかのごとく組み替えていく。


「おぅ…ジーザスディアマンテ」


「わぁ凄いね、真っ黒になったね」


落胆する俺とは違ってアイザックはダイアモンドが炭の塊になってしまった事に嬉しそうだ。

成功した事にはしたのだが、ダイアモンドがただの炭になってしまったという事実は俺には少々衝撃が強すぎる。


すぐに対処しないと俺のメンタルが砕けてしまうので早速、先程と逆の事が出来ないか試す。


今度は平面から立体へと、先程崩してしまった建物を立て直すようにイメージする。


「おぉ!やった!」


先程まではブリリアントカットされた炭の塊であったが、気付けば我が愛しきダイアモンドへと返り咲いていた。


俺はすぐにダイアモンドへと駆け寄ると、割れ物に触れる様にそっと手に取ると頬擦りをする。


おぉ、良かった。無事に帰って来てくれたんだね!


「きもっ…それよりマナの消費はどうだったんだい?」


「そんな事より愛しのダイアモンドが帰って来てくれたんだ、その事実だけで十分じゃないか」


「やれやれ、君は本当にカラスみたいな男だね」


「幼女を凌辱するのが趣味な男にそれだけは言われたくない」


「それより検証の続きをするよー」


あ、コイツまたしても露骨に話題を逸らしやがった。



その後、約一時間程俺の『祝福』の能力の分析の為検証を続けた。

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