第17話
翌日、何時もより早い五時頃に目が覚めた。
訓練は九時からなのであと四時間もある。
ふと、コタツに入ったまま首だけ部屋の窓の方へ向け外を見ると、外の暗闇が今が夜である事を教えてくれる。
うむ、二度寝しよう…スヤァ…
あれ?寝れぬ。ワンモア…スヤァ…
…うん。寝れない。どうやらこれは起きるしかないようだ。
俺は大きな欠伸を一つすると、仕方なしに上体を起こす。
朝早くから目が覚めてしまいやる事が特に無いのでコタツに入ったまま手を伸ばし棚から飴を取り出し口に放り込む。
しっかし、この俺が二度寝に失敗するとは…
今日は雨が降るのかな?
というか、上の世界って雨とか降るのかな?
そして、何もする事が無いためテレビをつけ早朝特有の通販番組を眺める。
包丁三二本セット…いらね。誰がこんなに大量の包丁買うんだよ。一々食材毎に包丁取り替えるとかめんど過ぎやろ。
テレフォンショッピングねぇ〜
ショッピング?あ、そういえばNESTショッピングなる物があったな。
確か、えーと…あったあった!
それは、リビングの隅に佇むシルバーに輝く長方体。
シンプルなデザインの割に多機能で便利だと名高い『調べる君』がそこにはあった。
早速俺はコタツに入ったまま手を伸ばすが、流石に届かなかった。
しかし、一コタツ愛好家としては此処で外に出る訳には行かない。
という訳で俺はコタツごと移動し『調べる君』の元まで辿り着く。体はコタツに突っ込んだまま『調べる君』を起動する。
前回同様、表面の操作パネルにwelcomeの文字が浮かぶと項目が並べられる。
幾つかある項目の内『NESTショッピング』を選択すると次の画面へと飛んだ。
えーと、どれどれ…
『食料品』『日用品』『武器』『家具』『薬品』
『衣類』『電化製品』『ペット用品』『ジュエリー』
『玩具』『オークション』『その他』
画面にはジャンルごとに色分けされた表示がされておりタップする事で次へと進む事が出来る様だ。
俺は取り敢えず『食料品』と書かれた表示をタップする。
すると、画面が変わり先程と同様に食料品からジャンルごとに分岐した選択肢が現れる。
『酒類』『野菜類』『生鮮食品』『冷凍食品』
『調味料』『菓子類』『惣菜』『パン類』
取り敢えず『野菜類』を選択してみる。
するとまたしても、分岐するようで『葉菜類』『根菜類』…等と多岐に渡っていた。
どうやら相当商品の数が多い様で野菜だけでも画面右側のスクロールバーがかなり小さくなっていた。
うへぇ…これは欲しい商品探す時に苦労しそうだな。
そんな事を考えていると、画面右上に『商品検索』という欄がある事に気が付きタップする。
するとキーボードが出現し打ち込みが可能になった。
せっかくなので検索してみる事にする。
俺はキーボードを操作し『飴』と入力し検索をかける。
すると、すぐに画面が変わり検索結果の商品名と値段、そして商品の画像がズラリと並べられる。
『検索結果7962件』
「多過ぎだろ!?」
検索結果に驚いてしまい思わず口に出してしまう。
だが、無理もないだろう『飴』という括りで検索しただけでこの数なのだから。
つまり注文可能な商品の総数はとてつもない数になっていると予測できる。
いやぁ…えげつないな。資金が潤沢だとは聞いていたが、まさかここまでとは…
『NEST』という企業?組織?の底知れなさを改めて知った俺は細かい事を気にする事は諦め、便利だから別に良いかと思考放棄する事にした。
おっ、この飴懐かしいな〜!どこの店を探しても見つからなかったのに、こうしてまた出会えるとは…運命だな。てことで、購入っと。
あ、すげぇ!『プリンと醤油でウニ味』の飴!?これは絶対に買わないと!
これと…これも!これも!
『カート156件』
気が付けば一時間近く経過しておりカートの中の商品数も凄い事になっていた。
ふぅ…なんて便利なんだ『NESTショッピング』
まさか、ここまで俺を満足させるラインナップを取り揃えているとは。
取り敢えず、今カートに入れている飴だけでも購入しておきたかったのでカートのマークをタップし会計に進む。
『合計金額23650円』
支払い方法は銀行引き落としを選択し、口座の番号などを入力する。
ちなみに、支払い金額に関しては全く問題ない。
理由は簡単、女性に使うお金が0だからさ!ハハッ
という事も含め、高校卒業から使う事が殆ど無く貯め続けられて来たマネーが潤沢に口座に入っているためなんの問題もない。
発送は当日で、到着は明日の午後だそうだ。実に便利だな。
取り敢えず、現在必要と判断した物は購入完了した為、時間を潰すために他のジャンルを覗いてみる。
食料品や日用品は興味が無い為スルーし、『ジュエリー』を選択する。
俺は輝く物、特に宝石類が大好きな為見ているだけでも時間が潰せる。
まずは、宝石の欄を開き並べ替えを使い『値段の高い順』にする。
すると、画面には大粒のダイヤモンドをこれでもかと使ったネックレスや大粒のルビーの指輪、俺が今舐めている飴玉よりも大きいであろう真珠の髪飾り等、俺の心を掴んで離さない光景が広がっていた。
「ビューティフォォォォ!」
見ているだけでも十分に満足だが、欲を言えば実際に手に取り、画面越しではなく実物を自分の目で自分の手で楽しみたい。
だが、お値段は軽く数十万はする為、俺の懐具合では少々…いや大分厳しい。
その後も安い物から高い物まで幅広い範囲で宝石類を堪能し、気が付けば外が明るくなり室内の時計の針が八時を少し過ぎたことを示していた。
あれ?もうこんな時間か、そろぼち訓練に行きますかね。
俺は後ろ髪を引かれる思いで、いや引かれるどころか引きちぎられそうだったが、何とか耐えコタツから脱出する事に成功する。
ふぅ流石コタツ様、凄まじい吸引力だった…
顔を洗ったり、着替えたり等と準備を適当に済ませるとアイザックが待っていると思われる訓練室まで足を運ぶ。
俺の事を待ってくれているのが、素晴らしい横乳の持ち主の美女なら足取りが軽くなるのだが、現実は犯罪者一歩手前どころか踏み止まる事無く直進中の残念イケメン野郎の為、俺の足取りは千鳥足だ。
決して、『調べる君』を見る体勢のせいで足が痺れたとかそんな事は無い。無いったら無い。
千鳥足で奇怪なダンスを踊りながら歩く事数分、漸く訓練室に辿り着く事が出来た。
昨日訓練をした部屋がある扉の方向へ向かうと、其処には、既に残念ロリザックが待っていた。
「やぁ、おはようナナシ。なんだかフラついてるけど大丈夫かい?」
「おはよ〜ダークフレイムロリザック。いや、ちょっと『シタチチウム』が足りてないみたいで…」
「朝から突っ込み所しかない挨拶をどうも。そして僕も『幼女エキス』が足りないみたいだ」
「幼女エキスって何だよ!?」
「ハハッ!てことで訓練始めるよ〜」
毎度の事ながらアイザックは笑って誤魔化し訓練室へと入って行く。
俺も諦め、訓練室へと足を運ぶ。
「さてさてさてさてさてさて、今日は早速『祝福』を使ってみたいと思いまーす!」
「さて が多い。そして朝からテンション高めだな」
「まぁね〜!それより『祝福』の説明をするよ?」
「どぞー」
俺がそう告げると、アイザックはわざとらしく咳払いをしてから説明を始めた。
なんで今日はそんなにテンション高いんだよ…
「まず、『祝福』は誰もが持っている訳では無いんだ。『祝福』はその人の個性を表す物が多い傾向にあり、その所有者は特異体質者である『見える者』全体の約一割程度と言われている。そして『祝福』には様々な種類が存在しその能力も多岐に渡るんだ」
「例えばどんな『祝福』があるんだ?」
「ん?えーとそうだね。例えば『火耐性』とかがあるかな」
火耐性?そのまんまだけど火に強いとかなのかな?
「効果は?」
「確か、ある程度の熱量までなら全くと言っていいほど熱さを感じないとかだったかな?あ、でも常時発動してるからサウナとか楽しめないらしいよ」
うわ〜これまた微妙な効果だな。ある程度か、ファイヤーボール食らっても熱くないんなら多少は使えるかもだけど…
「あ、ちなみに上位互換に『火無効』ってのがあって、そっちは熱量は完全にシャットアウトらしいよ。溶岩遊泳も可能とか」
えぇ完全に火耐性産廃乙!そして火無効最強過ぎる。
熱量完全無効とか自分に火を着けて突撃すれば強そうだな。
「あ、どうせナナシの事だから火達磨で突っ込めば最強!とか考えているんだろうけど、答えは残念。昔に火無効持ちの馬鹿がそれを試したらしいんだけど普通に酸欠で倒れたらしいよ」
「なぜ分かったし!?」
そうか〜火達磨突貫作戦は不可能なのか。強そうだと思ったのにな。
「まぁ、その話は置いておいて、説明を続けるよ。『祝福』は人によって強力な物だったりそうじゃなかったりするけど、フラグメントとの組み合わせ次第ではとても強力な物になる事もあるんだ」
「へぇ〜例えば?」
「そうだね、例えばだけど『麻痺眼』っていう『祝福』があって一定時間見た相手を痺れさせる魔眼なんだけど。それと基本形の魔法なんかを使えば相手の動きを封じて一方的に魔法で攻撃、なんて事も出来るんだ」
「まじか」
何それかっけー!最強やん。勝ち目ないっしょ…
「でも、弱点としては一定時間視界に入れてないと効果が出ない所なんだ。敵の動きが速いと視界に捉えるのが難しかったり、ドライアイの人なんかは目が乾燥して目を開き続けることすら難しいからね」
ドライアイ…
結構魔眼もシビアなんすね。
あ、でもセロハンテープで瞼を固定すればいけるかも。
「あ、どうせナナシの事だから、テープで固定すれば余裕っしょ!なんて考えてるんだろうけど、答えは残念。昔にドライアイの魔眼持ちの人が強力なテープで瞼を固定したんだけど、テープを剥がす時に眉毛が消失してショックで塞ぎ込んだらしいから」
「デジャヴ!!そしてなぜ分かったし!?」
どうやら、アイザックにはナナシ検定二級を授けなければならん様だ。
そして、火達磨野郎といい眉毛消失野郎といいこの組織には馬鹿しか居ないのだろうか?
「と、まぁ『祝福』についての説明はこんな物かな。質問とかある?」
「なら、アイザックは『祝福』持ってないのか?」
「ん?僕かい?一応持っているんだけどね…ちょっと使い道が無いと言うか、微妙過ぎてね」
アイザックはそう言って苦笑する。
お?これはもしや?産廃乙なパティーンですか?
「ほぅ?どんな『祝福』なんやい?」
「僕の『祝福』は『魂の系譜』って言って対象と魂のパスを繋げる事が出来るんだ」
「どういう事だってばよ」
「うーん、使い道が無くて僕も殆ど使わないからよく分からないけど簡単に言うと、相手と魂レベルで同調する事で相手の考えや過去を覗く事が出来るんだ。逆に相手は僕の過去や考えが覗けるって訳さ」
「変態御用達の『祝福』ですね、分かります。というか、その『祝福』は何に使うんだ?」
「今の所の使い方としてはどうやっても口を割らない相手へ使って情報を探ったりするくらいかな」
なるほど、戦闘には全くと言っていいほど役には立たないけど、そういった面では有用な訳か。
「さぁ、説明も済んだし早速ナナシの『祝福』を使っていこうじゃないか!」
どうも、アイザックのテンションが高いが、気にした所で無駄なので放置だ。
それよりも自分の『祝福』がどの様な物なのか気になる為、早速使う事にする。
「と、いってもどうやって使うんだ?」
「あぁ、そうだったね…教えてなかったよ。耐性系や身体の一部を変異させる『祝福』なんかはパッシブ系統といって常時発動する物なんだけど、それとは別に魔法なんかと同じで意識しないと使えないアクティブ系統があるんだ。恐らくナナシの『祝福』はアクティブ系統だと思う。だからイメージだよ?ね?」
アイザックはそれだけ言うと、目で早く使ってみろと伝えてくる。
また、説明が雑だなぁ。出来れば具体的に何が出来るか教えて欲しかったけど、『祝福』を持っている人が一割しか居ないし、更に俺と同じ『祝福』を持っている人が居るとも限らないから、そういう物なのだろう。
取り敢えず、俺の『祝福』は『鉱物創造・支配』という事なので鉱物が創れるのだと思う。
という訳で、掌の上に拳大のダイアモンドをイメージする。形は勿論、ラウンド・ブリリアント・カットだ。
「うわっ!?」
頭の中でダイアモンドをイメージした瞬間、掌の上にズッシリとした重みを感じ、いつの間にか其処には眩い輝きを放つ、精巧にカットされたダイアモンドが存在した。
「わぉ…成功おめでとう…と、言いたいけど、凄い物を見てしまって僕は驚きのあまり股間のキャンプがファイヤーヴォルケーノだよ」
そして、この瞬間に世界一大きなダイアモンドが誕生したのであった。
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