第13話
アイザックの教卓スルーという大技により席がお隣さんになった。
色々と言いたい事はあったが藪蛇になりそうなので黙っておく。
「まずは、我々の組織『NEST』の活動方針と目的について。僕達にとって最も重要な目的は人類の外敵であるイリーガル達から重要拠点であるこの本部を守る事。余裕さえ有れば本部から離れイリーガルの討伐だね。討伐は基本一斑 二〜三人のチームで行う事が殆どだ。そしてこの本部が何故重要拠点かというと、本部の中央その最深部に『シームポイント』という上の世界と下の世界とを繋ぐ場所があるんだ。そこをイリーガル達に占拠されると下の世界にイリーガルが押し寄せ未曾有の惨禍が引き起こされる事になる。下の世界の人達はイリーガルを見ることが出来ないからね、きっと凄惨な蹂躙になる筈だよ」
なるほど…
イリーガルと戦う理由は『シームポイント』とやらを守る為だったのか。
「次に行くけど大丈夫かい?質問とか無い?」
「えっと、イリーガルと人類はいつから戦っているんですか?」
「あぁ、それも話さないとね。ナナシ君今は西暦何年か覚えてるかい?」
「それは、まぁ覚えてますよ。今年は2125年ですよ」
「うんうん。たまに答えられない人もいるからね。一応聞いただけだよ。んで、話は戻るけど、今から丁度百年前に事件は起きたんだ。ナナシ君は高校を出ているらしいから百年前の有名な出来事とか覚えてるんじゃない?」
ん…?百年前か。てことは2025年…
なんかあったっけ?やべぇ…歴史とか覚えてない。
いや、待てよ。この前ニュースで百年前の戦争とか何とか言ってた記憶が…。
「えっと…戦争でしたっけ?」
「おぉ!流石だね、ナナシ君。正解だよ。そう今から丁度百年前に第三次世界大戦が勃発したんだ。事の発端は今は亡き国『中国』という国と一部の国が中東で勢力を伸ばしていた過激派組織と手を組んでいたことが発覚して世界各国との戦争になったんだ。戦争の引き金は中国側による主要国に対する同時攻撃だったそうだよ」
あー何となく思い出してきたかも。歴史の時間に子守唄替わりにそんな感じのお話を聞いた気が…
「まぁその出来事が原因で世界規模での戦争が起きたんだ。中国側は数によるゴリ押しで他国は最新鋭の兵器なんかで戦ったそうだよ。戦争は最初から他国側が優勢だったけど中国側が一向に降伏しなかったから泥沼化し罪のない民衆にも犠牲が多く出たんだ。最終的には中国側のトップを潰すことで命令系統をズタズタに終戦へと持ち込んだんだ。その戦争での戦死者は過去最大の十億人となった…」
うんうん、そうでした。思い出しましたよ。確か当時は過去最大の死者を悼み『リハジマの悲劇』なんて言われてたらしいな。
「と、いうのが表向きの歴史で。真実の歴史は別にあるんだ」
まじっすか。高校で嘘っぱち教えられてたのかよ。ていうかニュースなんかでも表向きとやらの歴史を伝えてるって事は世界規模か…
「ほ、本当の歴史は?」
「まず、中国側と他国側の戦争で亡くなったのは一億人程なんだ。その時点で勝敗は殆ど決まっていたんだけどある事件が切っ掛けで再び戦火が拡大したんだ。戦争中にとある報告が多発したんだ。初めは戦いの最中に小人を見た。不思議な生物を見た。空を飛ぶ哺乳類みたいな奴を見た。等と言う者が現れ始めて、最初はそれを聞いた各国の上層部は恐怖心を和らげる為に使用した薬物が原因で幻覚を見ているとして取りあわなかった。そして戦争が終盤へと差し掛った頃、未だにあった報告に変化が現れ始めた。変な生き物に襲われた。「私の部隊の四名が変な生き物がいると言って騒ぎ始めたが、我々にはその様な生物は見えなかった」「部隊が見えない攻撃により半壊した」そして…「空に別の世界を見た」という報告が相次いだ。そして上層部はその報告を読み幻覚などでは無いと認識し。そして、謎の生物を見た者や報告者等から情報を集め共通点に気がついた。戦場に見えない敵対生物が存在し、見える者達の共通点は、『死にかけた』『頭の横を弾が通過して死を感じた』『爆撃を受けて何とか生き残った』等の短に死を感じた者という事だった。初めは上層部含め各国は中国側による幻覚症状を引き起こす生物兵器かと考えたが中国側の司令部が謎の生物により破壊されたと聞いて違うと考えた。そしてそれが原因で中国側は降伏したが謎の生物による攻撃は激化し、中国側と戦っている場合ではなくなり終戦。第三次世界大戦は死者一億人を出しつつ三ヶ月で終戦。続けて謎の生物との戦いである、第四次世界大戦へと移行した。不可視の生物との戦いは初め難航したが、次第に見える者達も増え始め、その頃の兵器が敵に通用した事も相まって戦況がこちらに有利になり始めた頃に事は起きた。突如として戦場に現れた巨大生物により軍は大打撃を受け多くの犠牲を出しつつも撃破。と、こんな感じで何処からともなく湧いてくる敵との戦いに終止符を打つ為に調査を行い敵がある場所を中心に湧いている事が分かり、そこから約十年かけてシームポイントに『NEST』を作る事に成功し、以後シームポイントから地上に降りようと向かってくるイリーガルと戦い続けている訳だよ。んで、十年間の戦いで各国は疲弊し、イリーガルの侵攻によって滅んだ国も幾つか存在したし、イリーガルの驚異に対抗する為には国を統合するしかないってなってどの国を主軸にするかでまた争いになりそうだったから新たに国を作り今に至るんだ」
へぇ…本当はそんな感じだったのか。まぁ十年間も戦えばフラグメントなんかの魔法みたいな力にも気づいて人類が優勢になったって感じかな?
まぁ歴史に関してはどうでもいいけど『NEST』は大体九十年くらい前からあるって事か。
なかなか老舗だな。
「なるほど…」
「次はイリーガルについてだ。イリーガルは生命体であり生命体で無いんだ。詳しい事は分からない…というより言えないって事だね」
「それはつまり機密情報って事ですか?」
「そうだよ、確かイリーガルの詳細についてはアクセスキーのrankが11以上無いと閲覧不可能だった気がするよ。ただ、イリーガルは実は違法な実験による人間の成れの果てだ、とか実は良い奴だったなんて事は無いから安心して大丈夫だよ」
「それはつまりイリーガルは人間とは別種の個体で決して相容れない存在って訳ですか」
違法な実験による人間の成れの果てって…
実は敵の正体は仲間だった!みたいな展開は聞くには聞くが、俺は流石にそこまでは勘ぐっていない。
「そうだよ、そもそも奴らに理性なんてものは存在しない。奴らは人間を殺すのが目的だから人間を目にしたらすぐに襲って来るのが奴らの習性さ。そして奴らは個体ごとに強さや大きさが違うんだ。まず基本的にはステージⅠからステージⅤまでの個体がいる。ステージⅠのイリーガルは小型の小動物位の大きさで殆ど攻撃性は無いんだ。一応人間に対する敵対心はある様だけど攻撃が弱過ぎて相手にならないって事なんだ。次にステージⅡのイリーガルだけど、コイツらは一体一体は弱いんだけど集団で行動する様になってるんだ。数の暴力は恐ろしいからね、でもこっちも複数で行動するか範囲攻撃なんかで殲滅すれば楽に倒せるよ。そしてステージⅢ、奴らは一個体が我々の平均戦闘力を上回っている。序列の高い人達なら問題なく戦えるけど序列が低い者達には少し厳しい相手だね。ステージⅣは序列の高い者達が複数人で倒すレベルだよ。ちなみに高位序列者達は個人でステージⅣと同じ位の強さなんて言われてるよ。最後にステージⅤ何だけどコイツらは大きさでは判断出来ないんだ。ステージⅠ〜Ⅳまでは基本的に数字が上がる事に大きくなるんだけどⅤに関してはサイズがバラバラなんだ。馬鹿でかい奴も入れば人間大の奴もいる。だからステージVに関しては強さで格が決まるんだ。弱い方から『マーキュリー』『ヴィーナス』『アース』『マーズ』『ジュピター』『サターン』『ウラヌス』『ネプチューン』となっている。厄介なのはVになると『呪詛』と言って何らかの特殊な能力を発現するんだ。まぁその能力の強力さによって強さが変わるのが殆どかな。強さ的にはマーズまでが一旅団で対処可能レベルでジュピターからウラヌスまでは一個師団で対処可能レベル『ネプチューン』に関しては殆ど分からない。なんせ今までにネプチューンは一度しか現れてないからね。過去に現れた時には『NEST』のほぼ全勢力を投入してギリギリ倒す事が出来たと聞いているよ。作戦内容に関しては不明だけど相当な被害が出たそうだ。ま、イリーガルに関しての説明は以上かな。何か質問はあるかい?」
そう言うとアイザックは 「ふぅ長文喋ると疲れるね」と一言言ってからこちらを待ち始めた。
ふーむ…質問か。取り敢えずステージVの『ネプチューン』が来たら終わりってことか。
あ、一つ気になる事が出来た。
「質問なんだけど、ステージⅠのイリーガルがステージⅡになったりする事はあるのか?」
「おぉ、良い所に気が付いたね。結論から言うとある。我々はステージが上がる事を『進化』と呼んでいる。奴らが進化するには共食いと他の生物つまり僕達人間を倒して食べる事で進化する場合があるんだ。まぁ何らかの原因や自然発生でいきなりステージVが出現する事もあるんだけどね」
「そうなんですか。ならイリーガルについては取り敢えず大丈夫です」
「おーけー。なら次の説明に進むね〜」
そしてこの後は、本部にある『〇〇君』製品の説明や本部の施設の説明など色々な説明を昼を少し過ぎたくらいまで受ける事となった。
「―――といった感じかな。以上で説明は終わるよ」
「はい。ありがとうございました」
という事で座学に関してはこれで終了のようだ。
まさか、『〇〇君』製品にそこまで種類があったとは…
色々と驚愕な事実もあったがなかなか有意義な時間だったな。
イリーガルや歴史に関しても殆ど基本的な部分しか教えてくれてないらしく、深く知ろうと思えば序列を上げなければならないそうだ。
「いえいえどう致しまして。なんだかんだ言ってこれも仕事だからね。ところで僕達は昼ご飯がまだだよね、この後一緒に食堂でどうだい?」
現在、時計を見ると時刻は一時半を少し回った頃でお昼にしては少し遅めだが十分許容範囲だろう。
「そうですね。なら御一緒させてもらいます」
そう言うとアイザックは嬉しそうに頷いてから思い出した様に口を開いた。
「それとナナシ、敬語は使わないで大丈夫だよ。普段通りに接してくれれば良いよ」
「そうか、なら改めてよろしくなアイザック」
「あぁ、こちらこそだよナナシ」
そして俺達は食堂へと着く頃には、かなり打ち解け十年来の友人までとはいかないがそこそこの仲にはなっていた。
「なるほど、横乳とはそこまで奥深い物だったとは!」
「うんうん、分かってくれるかアイザック。横乳こそ至上!横乳は世界の真理と言ってもいいくらいなんだよ」
現在は食堂の席に座り俺の話した『横乳と下乳の素晴らしさ』にアイザックが何度も頷き感嘆している所だ。
この調子ならこの前自宅から回収してきた俺の聖書を貸してやってもいいかもしれない。
ちなみに今は昼食のピークとは外れた時間の為、食堂内は閑散としており、あまり人が居ないので こういった話をしていても特に問題ない。
流石に人が多くいる場所でこの様な浪漫について語るのは気が引ける。というか社会的に終わる。
「いや〜素晴らしかったよナナシ。次は僕の好みについて話そうかな、僕が好きなのは よう―――」
「ナナシさん!!早くそいつから離れてください!」
アイザックの言葉は俺の後から突如として現れた可愛らしい私服に身を包んだラミアによって中断された。
よう…?その先が気になったが、いきなりラミアが割って入って来た為聞く事が出来なかった。
「いきなりどうしたんだラミア?」
そう俺が聞くとラミアは俺の着ている白いシャツの裾を掴んで引っ張ってくる。
「ナナシさん早くその変態から離れてください!」
何この可愛い生物。
変態?この場には俺とアイザックしか居ない訳で、つまりアイザックが変態?
どういう事かと思いアイザックの方を見る。
「ラミアたん はぁはぁ…」
うん?
「ラミアたんの私服今日もプリティ…ぐへへっ あの蔑みの目…堪らないっ…!これで踏まれでもしたら…」
うん…?えっと…うん?
俺はそっと席を立つと言われた通りにラミアの後ろに下がる。
「危なかったです。危うくナナシさんに奴の病魔が移るところでした。さぁ早く協力して奴を殺しましょう、滅しましょう、消しましょう!汚物は消毒なんです!」
何やらラミアが何処ぞの世紀末な肩パットな人達の様な台詞を言っている。
ラミアがそこまで言うとは相当アイザックの事を嫌っている様だ。
「いや、消すって言われても俺は戦闘力皆無だから。というかなんでそんなにもアイザックの事嫌っているんだ?」
「それはですね、マリアナ海溝よりも深い理由があるんです」
「僕の君への愛もマリアナ海―」
お、おう相当深いな。
「私が初めて彼に会ったのはアカデミーに通っていた頃でした」
ラミアは何かを言いかけた気持ち悪いアイザックを完全スルーして話を始めた。
ちなみにアカデミーは『NEST』が運営している教育機関だそうだ。ちなみに先程アイザックに教えて貰ったのだ。
「当時私にイリーガルとの戦闘の話や外の話をしてくれて、とても尊敬してたんですけど今となっては黒歴史です。最初の頃は凄く良い人だと思っていたんですけどある日見てしまったんです…。私が少し離れている隙に置いてあった私の上着に顔を押し付けて匂いをかぐ姿を…更に『はぁはぁ、やっぱり幼女の香りは素晴らしい』なんて言っていたんです。初めは私の勘違いだと思ってたんですけど…よく観察してみると真性のロリコン変態野郎でした…」
ラミアはそう言い終わると深い溜息を吐いて項垂れている。
なるほど。初めに尊敬していた分ショックが大きかった訳か。にしても幼女の香りは素晴らしいって…
「アイザック!ギルティ!」
「ははっ大丈夫だよナナシ、僕は根っからの紳士なんだ。だから幼女は大好きで大好物だけど、手を出したりは有り得ないよ。紳士は幼女を見て楽しみ、鼻で楽しむといったように五感を使って愛でているだけだからね!」
「いやいや…五感って味覚と触覚は完全にアウトだろ」
「ははっ」
おい、コイツ今笑って誤魔化しやがった!
もう逮捕した方がいいかもしれん…
「まぁ、この話はその辺にしておこう。それよりラミアは食堂に何か用だったのか?」
「え?あ、そうでした。私もさっきお仕事が終わったので少し遅いですが昼食を摂りに来たんです。それでナナシさんが変態と一緒に居たので助けに入った訳で特に用はなくて」
「そうか、なら一緒にどうだ?俺達もさっき食べ始めた所だし」
「ん〜そうですね。今日は特に誰かと食べる約束もしてませんし御一緒させてもらいます。 アイザックはいりませんが…」
言葉の最後に何か聞こえた気もするけど無視する。
その後、料理を運んできたラミアと共に三人で仲良くとは言えないが昼食を済ませた。
アイザックは終始嬉しそうに、ラミアは初め若干不機嫌そうだったが、仕事で頑張ったと話していたラミアを褒めてやると上機嫌になっていたので問題ない。
実に微笑ましかった。
アイザックの俺を見る目が凄かったが恐らく気のせいだ。
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