第12話


登録は無事に終わり、この家は正式に俺の物となった。

いやー今まであんなにも狭いアパート暮しだったからなぁ。こんな広い家夢の様だ。


先程パネルに表示されていた『NESTショッピング』と『メッセージ』等についてラミアに聞くと、どうやら『メッセージ』という項目をタップすると届いたメッセージを読むことも出来るし逆にメッセージを送ることも出来るそうだ。いわゆるSNS的な物らしい。

次に『申請』だが、この項目から本部の色々な施設を使用する為に申請しなければならないらしい。

他人の部屋に入る際も申請が必要なそうだ。犯罪を防ぐ為なんだとか。

そしてもう一つ『NESTショッピング』というのは項目をタップすると商品名がズラリと並んでおり好きなものをカートに入れる事で注文し発注の項目を押せば二日以内には商品が届くという物だそうだ。

いわゆるネットショッピングだな。

支払いはカード払いも現金引換も行けるらしくとても便利だ。

何ここ何不自由無く暮らせるんですけど。快適すぎてやばい。


取り敢えず今の所は『調べる君』に用はないので電源を落とし、持ってきていた荷物を閉まっていく。

といっても飴の入った瓶を棚に置き鉱石コレクションを棚にしまって服をしまうだけで終わってしまう。


「なんかあっさり終わっちゃいましたね」


「いや、楽なのが一番だよ」


「それもそうですね。あ、もうこんな時間ですね。この後一緒に夕食でもどうですか?」


ラミアはスマホで時間を確認するとそう聞いてくる。

俺も特に何か用事がある訳でもないので了承する。


そして部屋を出て食堂に向かう途中偶然にもルシアと遭遇し、ルシアも食堂に行く途中だったようなので一緒に行くことになった。


食堂に向かいのんびり歩いているとルシアが突然思い出したように声を出した。


「あ、そういえばナナシ君がいつから働くか決まったよ」


「あぁ、そういえばその辺の説明も聞いてなかったですね。それでどういう予定になるんですか?」


なんだか殆ど説明されずに此処に来たし色々と説明不足感が否めないな。


「まずは回復魔法で身体能力は元に戻った様だから、明日一日座学をして貰って、その後に約一ヶ月間戦闘訓練。ちなみに訓練期間の休日は一週間に一度のペースだ。それが終わると実際に外に出て実戦という流れになってるんだ」


うーん訓練が一ヶ月で実戦か。早いような気もするけどそんな物なのだろうか?まぁいいや。


「場所は座学は事務局。戦闘訓練は訓練所。実戦の際はその時にまた指示がある筈だよ」


「分かりました」


その後三人でたわいのない話をしながら食事を取りルシアとは食堂で分かれ、ラミアとは『自室君』のある廊下で分かれた。



部屋に戻り俺はコタツに入ると少し大きめのため息をつく。


「はぁ、戦闘か…俺生き物とか殺したこと無いし大丈夫かな?でもイリーガルってのは化け物?とかって聞いたし大丈夫かな?まぁ対人戦じゃないだけでもましなのかねぇ。上手く戦えると良いけど…まぁ頑張りますかね」


別に誰かに向けて言ったわけではないので返事が無くて当然なわけだが俺はそれで構わない。

ただ不安な事を口に出せば少しは気が紛れるってだけだ。


それにしても、今日は一日ラミアと一緒だったな。

何だか妹が出来たみたいな気ぶ……………妹?

はて?何か忘れている様な。まぁそんな事よりラミアの口調が段々と敬語から素の物へとなっている気がするので、多少なりとも距離が縮まっているのなら嬉しい事だ。

早く知り合いを増やさないとな…流石に職場ボッチは辛いからな。


その後は大きな風呂を満喫しベットではなくコタツでテレビを見たり聖書を見ながら眠くなるまでだらけまくった。

はぁ一生怠惰に過ごしたい。



翌日コタツで朝を迎え時間を確認する。

現時刻は朝の八時を過ぎた位だ。座学は九時から始めると聞いていたのでそろそろ向かっていれば良い時間に着くだろうと思い部屋を出る。

早朝なので寝起きで眠そうな表情をした人達が『自室君』からぞろぞろと出てきては食堂の方角へと向かっている。

ちなみに俺は朝が弱く高校時代に朝食なんて食べる暇がなかった為、癖でいつも朝は抜いて昼と夜しか食べない。

なので食堂とは逆側のゲートのある西側から事務局に向かう。

事務局に向かっていると、ふとある人達が目に入ったのだが彼等は腰に剣らしき物を下げていたり背中に大剣を背負っていたりしていた。

服装は自由な服装だが頑丈そうな金属製の胸当てや篭手をしている者もいる。

腰には短剣や投げナイフの様な物まで装備している。


え…なんかめっちゃ武器持ってますやん。

てか剣?今の時代は銃を武器に戦うのが基本って学校では習ったけど…?しかも本物っぽい…

剣なんかで戦ってたのは百年以上も前だったはず。


俺が武装した四人の男性グループを凝視していると、その内の一人が俺に気づいたようで話しかけてきた。


「よう、兄ちゃん!ジロジロ見てどないしたんな?そんな見つめられても俺は落ちへんで!」


「え、いや座学を受けに事務局に向かってる途中なんですけど…」


なら頬を朱に染めるな。

そして誰もお前みたいなオッサン落としたくねーよ、と思ったが口には出さない。

だって武装してて顔も厳つくて怖いもん。


「おぉ!そうかそうか!座学ってことは新人か!なるほどそれで俺達の格好が珍しいと」


俺が最後まで言うよりも早く言いたかったことを理解してくれたようだ。

男はうんうんと頷いている。

他の三人も思い思いの反応をしている。

ちょっと身体の角度を変えて武器防具が格好良く見えるように体制を変えている奴までいる。

先輩風を吹かせたいのだろうか?


「えぇ、二日程前にここに来たんですけど皆さんみたいに武装した人達は見たことがなかったので」


「あ〜なるほどな。ここに来て二日ならそういう事もありえるな。基本食堂とか居住区は武装を解消した状態の奴らしか居ないからな」


聞けばゲートの方向に行けば殆どの人は武装状態らしく、そっちに行けばもっと沢山の人が武装しているらしい。

ちなみにガイさん達は今から本部の外に行ってイリーガルの討伐だそうだ。

でも実際に武装した人達を見ると本当に戦っているんだと実感が湧くな。


「へぇ俺も戦闘訓練が終わったら実践に出ると思うのでその時はお願いします」


「おう!兄ちゃんも頑張んな!俺の名前はガイだ!困った事があったら何時でも頼ってくれよ!」


「ナナシです、その時は是非お願いします」


ほかの三人とも挨拶を交わし俺は事務局へと向かうため再び足を進める。

ガイさんか、厳つい人だったから絡まれるかなって思ったけど案外新人を気遣う心優しい人だったな。

今度会うことがあったら外の話しとか色々と聞いてみるのもありかもしれないな。


その後もちらほらとだが武装した人達が目に入り、その度に物珍しさからこっそりと観察した。


先程見た右の腰に長剣を差し左のホルスターに自動拳銃を差し込んでいた剣士を見て、かっこいいなぁ と思っていると、どうやら事務局に既に着いていた様で正面に案内カウンターらしき場所が見えて来た。

案内カウンターに近づいていくと見知った顔が見えてくる。

どうやら此処は二日前に組織の登録と『カード君』の発行をしてくれた受付の様だ。


「おはようミーナ」


「あ、おはようございますナナシさん!」


ミーナは前に見た時同様、ころころとした人懐っこい笑顔で挨拶を返してくれる。

今日は胸元の開いた服を着ており、ミーナは椅子に座り俺は受付の前に立っているため見下ろす位置関係になっている。


ミーナはどうやら着痩せするタイプのようだ。

うん、実にけしからん。

俺は一切目線は外さず目的を伝える。


「ルシアに事務局で座学を受けるように言われたんだが何処に行けばいいんだ?」


「えーとですね、新人の座学部屋はそこの曲がり角を右に曲がってすぐの部屋です」


「お、案外すぐそこだったな。ありがとうミーナ」


「えぇ、どういたしまして。お勉強頑張ってくださいね」


「善処するよ」


ミーナからの激励に肩を竦めながらそう言うとそのまま座学部屋へと向かう。

ミーナに教えて貰った通りに通路を右に曲がるとすぐに目的の部屋が見つかった。

受付にあった時計を見た時にはまだ八時四十五分頃だったので遅刻しなかった事に安心しながらドアを開ける。

中に入ると視界に机や椅子が映る。見た感じ学校なんかの教室と同じ感じだった。


うっ、俺の灰色の思い出が!!

沈まれ俺のメモリー!!


「やぁ、君が話に聞いていた新人くんだね」


俺が脳内で遊んでいると教室の隅の方から男性の声が聞こえてくる。

人が既にいた事に若干驚きながらも平然を装い、声の方へと視線を向ける。

そこには端正の整った顔立ちをした茶髪の男性が教室に並べてある席の内の一つに座っていた。

急に話しかけられたことに少し動揺したせいで返事を返していない事に気が付き急いで返す。


「あ、はい 初めまして。つい先日『NEST』に所属したナナシと言います」


「初めましてナナシ君。僕はアイザック、今日の座学を担当する事になったからよろしく」


アイザックは席から立ち上がると俺の元まで歩み寄ると握手を求めてくる。

俺も片手を出し軽く握手を交わす。


こうして間近で見ると本当にイケメンだな。

これでリア充だと爆破しないと…


「じゃあ、早速勉強を始めようか。適当に近くの席に座ってくれたら良いよ」


「はい」


アイザックが教室の前方にある、教卓らしき大きな机に向かっていたので俺は教卓のすぐ前の席へと座る。

アイザックがそのまま教卓の前で停止するのかと思っていたのだが、アイザックは教卓を素通りすると俺の席の隣へと着席する。

そして、俺のいる方向へ座り直し口を開いた。


「では、勉強を始めます」


俺はてっきり教卓を使うものだと思い前を向いていたのでアイザックの方へ向き直る。


おいおい、勉強っていうから教師と生徒って感じの位置関係かと思ってたが、これだと授業中に堂々とお喋りに興じる女子生徒の図じゃねぇか。

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