第11話
ドアを潜り不意に疑問の思った事をラミアに質問する。
「にしても、東西南北に『どこでも帰る君』を配置してるって事はそれぞれ方角ごとに役割とかあるのか?」
俺がそう質問すると待ってましたとばかりにラミアは説明を始めた。
ラミアは人に説明をするのが好きなようだ。
毎回ドヤ顔で説明している姿は見ていて可愛い。
まぁそんな事本人に言うと痛い目をみそうなので言わないが。
「それはですね、大まかにですが北は居住区 南は事務局 東が訓練所と食堂 西が医療所と出撃ゲートって感じで施設が分けられているんです。その他細々した施設もあるにはあるんですけどね」
その後ラミアに居住区へ案内されながら、道すがら本部の施設について聞いて分かったのは、
まず北は居住区でそのまま此処で働く人たちの住む場所となっているらしい。次に東の訓練所は仮想空間を使った擬似的な敵との戦闘を経験したり対人練習や魔法の試射施設になっているらしい。
食堂はお昼にお邪魔したので知っているが、かなり広い食堂だった。それに出される料理もメニューも多いし味もとても良いと凄くいい場所だった。
俺は普段自炊はしない、いや出来ない派なので助かる。
次に南の事務局は非戦闘員達が研究をしたりなんか色々事務的な事をしているらしい。
ちなみにテオのいた部屋も事務局にあるらしい。
最後に西の出撃ゲートだがこれはこの建物から外に出る為の場所で、まぁ玄関的な感じだそうだ。
それで西に医療所があるのは外で怪我を負った人を直ぐに治療できるようにする為らしい。
どうやらなかなかに考えられた構造になっているみたいだ。
説明を聞き終わって俺が一人感心していると丁度居住区に到着した様だ。
「此処が私達の住んでいる居住区です!」
そう言ってラミアが自信満々に紹介してくれるが、目の前に見えるのは先程までの通っていた廊下の壁の両側に数十枚のドアがズラリと等間隔で並んでいる異質な光景だ。
そう、異質なのだ。まずドアの間隔がとても短い。それに組織の殆どの人が此処に住んでいると言っていたのに、この数というのもおかしい。
「なぁ、此処に暮らしてるのって何人くらいなんだ?」
俺は疑問に思いそう聞いてみる。
「えーと詳しい数は覚えてませんが関係者含め約七万人くらいですよ?」
ま、まじか…結構規模でかいんだな。
確か現在のアバンの総人口が十五億位だから…んー?
一つの組織で七万もいるのって相当多い事なんだろうけどイマイチどのくらいかっていうのが伝わりにくいな。
ま、いいか。取り敢えず多い事は分かったし、組織全体の七割って事は…えっと計算めんどいから無視して、それでもこの数十枚のドアだと余裕で足りないな。
「えっと、明らかに部屋足りてなくない?」
「あ、まだナナシさんには説明してませんでしたね。丁度部屋の人達が戻ってきたみたいなので見ていてください」
そう言ってラミアの見る方向に視線を向けると、この組織に所属している面々らしき人々が会話をしながら食堂から戻って来ている所だった。
何が丁度いいのかと思い何も言わずに見ていると沢山のドア前でそれぞれ挨拶をして別々のドアへと向かって行く。
見ると全員別々の部屋に行くのではなく部屋の前に三人並んでいるドアや二人並んでいるドアがある。
同棲しているのか?とも思ったが一人ずつ部屋に入っておりその度に「また後でな」等と挨拶をしていることに疑問が沸く。
「なんか、同じ部屋に何人も入っていったんだけど?同棲しているのか?」
「ふふっ、これは意地悪な問題でしたね。あのドアは『どこでも帰る君』に似た構造になっているらしくて、此処にある二十八色のドアの数だけ違った内装と環境の部屋があるんです。そして同じドアに先程みたいに何人も入ってもそれぞれの『カード君』ごとにチャンネルの様な物が違うらしく一人一人のプライベート空間が存在するんです」
ま、まじか…この組織まじハイスペック過ぎんよ。
「でも、その原理で部屋が沢山用意出来てもドアの数がこれっぽっちだと渋滞するんじゃないのか?」
「安心してください、何も居住区画はここだけではありませんから。この二十八枚のドアを一セットとして、えーと何セットあるのか忘れましたけど沢山ありますから!」
忘れたんかい、とりあえず渋滞の心配がない事が分かって安心だ。
「そ、それは凄いな。にしてもラミアも原理とかその辺は詳しく理解はしてないんだな」
「それがですね。この『自室君』や『どこでも帰る君』なんかの技術や原理等についてはアクセスキーのrankが最低でも4以上じゃないと閲覧権限が下りないんです」
まじか!rank4って相当高いな。
て事は、このドアや帰る君は相当な機密情報って事なのか。なんか壊したりしたら相当やばそうだから気を付けよう。
「へぇ、ならその情報を知らないって事はラミアはアクセスキーのrankは4以下って事なの?」
俺がそう聞くとラミアは少し不機嫌そうになる。
「む、私はこう見えても序列2719位rankは7でそこそこ強い方なんですよ!」
ラミアは腰に手を当て無い胸を張っている。うん可愛い。
それはさておき七万人の内三千以内という事は確かに結構上位だな。
まぁ銀行強盗と戦っている際に油断して怪我をしかけていたがそれを引いても、アガぺという体格差のある男性に対して圧倒していた事から強い事は分かっていたが…でもまぁ実際他の人が戦ってる所とか見た事無いからよく分かんねぇな。
「わー!すごーい!つよーい!」
痛っ!
取り敢えず褒めとけば大丈夫だと思い褒めてみたのだが横腹を抓られてしまった。
「まぁまだナナシさんは戦闘経験が無いから仕方ありません。きっとそのうち私を褒めたくなるはずです」
そうやって自慢げに話すラミアも実に可愛いのだがそろそろ部屋とやらを選ぶ為、話を本題に戻す。
「ラミア、その話は取り敢えず後にしてまずは部屋を選ばないか?」
その言葉に無い胸を張っていたラミアは「そうでした」と言うと一番手前にあるドアの元まで近寄る。
「ドアは先程も説明しましたが全部で二十八枚のあります。そして二十八枚全てが違う環境と内装になっているんです。一度部屋を決めて登録してしまうと事務局に行き手続きをして貰わないと他の部屋には移れません。取り敢えず全ての部屋を見て回っても良いんですが、ナナシさんは環境や内装に希望なんかはありますか?」
「その、内装ってのは分かるんだが環境ってのはどういう事なんだ?」
「まずこのドアの先は箱庭のようになっていて家と一緒に一定範囲の庭が付いてくるんです。それで環境というのは暑いという環境が希望なら真夏の様な暑さの庭が付いた家、夜を希望するなら常に外は夜の状態の家、勿論一般的な普通の家もあります。つまりは家の周囲の環境の事です」
なるほどなるほど。それは凄いな。
部屋がタダで借りれるだけでも凄いのに庭付きの家を提供するとか…どんだけ資金潤沢なんだよ。
組織に関心するのは取り敢えず置いておいて、まずはどのような環境が良いか考える。
ん〜やっぱ寒い環境が良いな。外が寒いなか家の中で暖房なんかを焚いてぬくぬくとした環境で、敢えて寒い食べ物を…
うむ、我ながら素晴らしいアイデアだな。よし決めた。
「ならラミア、俺は寒い環境の家が良い」
「それはまた珍しいですね」
俺の回答に少し驚いた表情でラミアは言う。
「そうなのか?」
「ええ、皆さんは大抵常に気温の安定した環境だったり庭に大きなプールがある環境なんかを好んで選びますから。暑い環境や寒い環境を選ぶ人は珍しいといえば珍しいですね」
「へぇ、それでさっき部屋によって並ぶ人数が違ったのか」
俺はそう一人で納得する。
「それで寒い環境といっても二種類あるんです。まず一つ目が氷点下五度位の環境です。そして二つ目は更に寒くなって氷点下二十五度くらいですね」
ふむ…
「なら、二つ目の方で」
俺は対して考えずにそう決める。
「ナナシさんはそんなに寒いのが好きなんですか?」
ラミアが俺を少し変な物を見る目で見てくる。
あ、やばいそんな目で見られると開けちゃいけない扉を開いてしまいそうだ。
「いや、寒い場所で暖まりながら鍋とかアイスとかを食べるのが好きなんだよ」
「なるほど、それは一理ありますね」
どうやらラミアもコタツでアイスを食べたりするあの至福を知っているようだ。
「それならすぐに部屋を見に行きましょう。ドアは二十三番のドアです。まだナナシさんの『カード君』はどこの部屋にも登録していないので開くはずなので使って開けてみてください」
俺は言われた通り二十三番のドアの前まで行くとドアノブの上に付いているカードの差し込み口にカードを入れる。
ピー という電子音がした後 ガチャリ と鍵が解錠された様な音が聞こえた。
俺は少し逸る気持ちを抑えながらドアをゆっくりと開く。
「おぉ…」
ドアの先に広がるのは廊下で、その両側の壁は全体的にクリーム色で塗装されており床は暖かみのある色合いの木製のフローリング。
どうやら構造的に此処は玄関の様だ。
「さぁ早く中に入って」
俺が部屋の中を見て感嘆の声を上げていると後ろからラミアに押され中へと押し込まれる。
後ろからドアの閉まる音が聞こえたので振り返りドアを開く。
そこの先には先程までの廊下ではなく白銀の大地があった。
「わぉ寒っむ!」
「ちょっと寒いじゃない!早く閉めて下さい!」
俺がまたしてもその光景に見とれているとラミアに強引にドアノブを奪われドアを閉められる。
「一度この部屋に入ってドアを閉めると『カード君』を使ってこのドアを開けない限りはさっきの廊下に繋がらないんです。つまり普通に開ければ外に出れるってことです」
「へぇ凄いんだな〜」
その後、部屋の内装を一通り確認して回った。
まず一階は玄関を入ってすぐリビングがあり、リビングにキッチンも備わっていた。それと凄いことに棚や机椅子等の家具は既に一通り揃っており、更には家電製品も備え付けなのだ。五十インチ程のテレビも備え付けだから俺はもう唖然とするしかなかった。
そしてテレビの下には暖炉があり、その前には俺の大好きな コタツ様 があり、コタツ様を挟む形でソファが置いてある。
玄関があった方向とは逆側にリビングの半分ほどの部屋があり、そこはトイレとお風呂になっていた。
お風呂も一人で入るには十分過ぎる大きさだ。
一階だけでも凄いのになんと二階と地下室もあるそうだ。
二階は主に寝室となっているようで大きめのベットが置いてある部屋が一部屋と、もう少しここより小さめの部屋が一部屋、そして物を置いておく為の部屋なのか何も置かれていない空き部屋があった。
トイレはどうやら二階にもあるみたいだ。空き部屋の隣の部屋がそうだった。
最後に地下室へと向かう。
地下室への入口は玄関に入ってすぐの廊下の壁にドアが付いており、開けてみると下へと続く階段があった。
なんか地下室ってわくわくするなー なんて考えながら降りて行く。
地下室の壁と床は石造りになっており少し大きめの机と椅子が置いてあるだけで他には特に何も置かれていなかった。
まぁ使い道としては食材を此処で保管したり倉庫替わりとかに使うのだろう。
そうして家の中をすべて見て回った俺達は現在リビングへと戻っている。
「それでどう?この家は気に入った?」
「あぁ、凄くいい。俺はもうここに住むことに決めたよ」
「分かった。なら登録を済ませましょ」
そう言ってラミアは立ち上がるとリビングの隅へと向かっていく。
俺は方向から大体どこへ向かっているのか察する。
「これが『調べる君』といってアクセスキーを使う事で色々な情報を引き出す事が出来る装置よ。本部にも沢山あるけど自室にも必ず一つ配備されているの。部屋の登録はここからする事が出来るの」
なるほどこれが昨日話に聞いた『調べる君』か。
部屋を見ている際に目に入り薄々感ずいてはいたがやはりこれが『調べる君』か。
『調べる君』の形状は、一メートル四方程の長方形が上へと伸びており高さはおよそ俺の腰の辺り。
素材は何らかの金属製の様でシルバー色に輝いている。
上の面の下半分にキーボードが取り付けられており上半分がモニターの様になっている。
見た感じは平面化されたパソコンの様だ。
うーんやはり装置としてはデザイン共に性能が近代的で凄いのに名前がなぁ…
まぁ名前に関してはもう諦めたので置いておく。
「それで登録はどうすれば良いんだ?」
「まず『カード君』をパネルの部分に当ててください」
俺は言われた通りに『カード君』を上の面へと当てる。
すると突然パネルに「welcome」という文字が表示される。
そしてすぐにパネルの表示は変わり今はこう項目が表示されている。
『情報へのアクセス』
『NESTショッピング』
『メッセージ 0件』
『申請』
『自宅の登録』
上の四つも気にはなるが今は取り敢えずラミアに言われる通りに『自宅の登録』を選択する。
『自宅の登録』を選択すると今度はパネルに注意事項が表示され 『同意しますか?』と表示されている。
取り敢えず注意事項を流し読みして分かったのは、魔法や能力を使うのは極力控えろとの事。更にもしこの家を破壊してしまった場合はそれなりの処分があるとの事だ。
その他は別にこれといった事は書かれていない。
ラミアが言うには同意を押せば登録が完了らしい。
そして俺は同意を選択し、晴れてこの家の家主となった。
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