第9話

ルシアに車椅子を押してもらい受付まで戻るとミーナと呼ばれていた女性が受付に座り満面の笑みを浮かべていた。


「いや〜先程は申し訳ありません。怪我は無いですか?」


反省はあまりしてなさそうだが一応心配はしてくれているのかそんな事を聞いてくる。


「あぁ怪我は別にしてないから大丈夫だ。それと俺の名前はナナシだ。よろしく頼む」


「なら良かったです。私の名前はミーナ。ここの受付嬢をやってます。こちらこそよろしくお願いします」


そう言う彼女は明るい茶髪をしている事と、ころころとした人懐っこい笑みが相まって活発そうに見える。

見た目も若くまだ成人はしてなさそうで俺よりは年下に見える。


「それはそうと皆さんこんな時間にどうなさったんですか?」


挨拶もそこそこにミーナの言葉に本来の目的を思い出す。


「今日はナナシ君が新しく『NEST』に加入したからその登録に来たんだよ」


ルシアがそう説明するとミーナは納得が言ったようで直ぐに受付の机の下から一枚の書類を取り出した。


「では登録をしますのでこの書類に記入をお願いします」


「あいよ」


そう言ってミーナが俺に渡して来た書類とペンを受け取り、内容に目を通す。

書類の内容は就職の際に書く履歴書の様に性別や名前など基本的なものが多かった。


全ての項目に記入を終え顔を上げると丁度ミーナが机の下をガサゴソと漁り何かを取り出す所であった。


「ミーナ取り敢えず記入は全て終わったぞ」


そう言って俺は手にしていたペンと書類を手渡す。

ミーナはその書類に目を通し問題ない事を確認すると書類を机の下に仕舞い込んだ。


「はい記入漏れもミスも無かったです。では次に身分証明用のカードを発行しますね」


そう言うと彼女は俺の前に先程机の下から取り出した物体を持ってくる。

見た目は青い立方体の箱のような物だ。

俺はこれが何なのか分からず内心首を捻っているとミーナが説明をしてくれる。


「まずマナの存在は既に知っていると思うので説明は省きますが、マナには指紋のように誰一人として同じものがないんです。そしてこの機械は指紋ではなくマナを読み取る機械なんです。そしてそのマナを認証コードとしたカードを発行する訳です」


へぇマナって本人確認にも使えるとか便利だな。

つまり保険証的な物を今から発行する訳か。


俺は納得するとミーナに教えられた通りに青色の立方体の上に手を置く。


すると立方体が淡く光り始める。

少し驚いたが手を離すことは無くしばし待つ。


「もう大丈夫か?」


数秒で光が消え、確認の為に手を離す前に聞く。


「えぇ、もう大丈夫です。直ぐにカードが出来ますので少々お待ちください」


ミーナが箱型の青い機械を少し弄ると チンッ と言う音がして立方体の上の面の部分から一枚のカードが飛び出してくる。


突然の音に少し驚いたが、それよりも箱型の機械が音といい形といいパンを焼いてトーストが飛び出してくるあの機械にしか見えなくなって来た。


「はい、出来上がりました。再発行には多少ですが費用がかかりますので無くさないようにしてくださいね」


そう言われてカードを受け取る。

まぁ身分証明のカードなんか紛失したら再発行に金がかかるのは普通か。

ちなみにこのカード名前は『カード君』と言うらしい。

このカード君の製作者は『どこでも帰る君』を作った奴と同じなんだろうなと思いつつカードに目を通す。


えっと、なになに?



『名前 天晶ナナシ』

『性別 男』

『序列 ──』

『アクセスキー rank15』


ふむ?上二つは基本情報だから気にはならないが下二つに関しては気になるな。


「なぁ、この序列とアクセスキーってのは?」


その質問に回答してくれたのはミーナであった。


「序列はこの『NEST』の中でどの辺の立場かを表すものなの。戦闘能力が高いと序列は高くなっていくわ。一応非戦闘員にも序列は存在するけどやはり序列は戦闘力を基準に比例するの。そしてアクセスキーはこの『NEST』内に保存されている機密情報へのアクセスキーでrankの高さによって見る事の出来る情報量が変わってくるの。rank15だと見えるのは殆ど常識的な事だけね」


ほーなるほどなるほど。シークレットな内容が見たければ強くなれと。ふむふむでも別に俺機密情報とか言われても知りたい事とか無いわー

あんまやる気には繋がらないな。

と、思いつつ一応気になったことを聞く。


「ちなみに機密情報ってどんな情報なんだ?」


「んーそうですねー例えば歴史の真実とかそんな感じですね。実はあの時の事件の真相はあーだったとかこーだった見たいな感じです」


はぇ〜なるほど。まぁ暇つぶしに目を通す位なら楽しめそうだな。もしかするとオカルトとか宇宙人の秘密とかもあるかもしれん。


「大体理解したよ、ありがとう。それでこのカード君はいつ使えばいいんだ?」


「まず自分の身分を証明する時に使えますね。『カード君』に記録されたマナとその人のマナを調べて本人確認が出来ます。次にその『カード君』を持っていれば『どこでも帰る君』や『調べる君』等の装置を使う事が出来ます。後は自室の鍵として使う感じですね」


なるほど、『どこでも帰る君』は知っているが『調べる君』は知らんな。どちらにせよ酷いネーミングセンスだとは思うが、取り敢えず調べる装置だという事は分かったのでスルーする。


「おっけー理解したよ。取り敢えず鍵みたいな物だな」


「はい、そういう認識で問題ありません。これで登録作業は終了です。お疲れ様でした」


ミーナがそう言うと今まで静かだったルシアが口を開く。


「さて、ナナシ君の登録は終わった事だしそろそろ休む事にしようか。ナナシ君を今から地上に連れていくのは流石に骨が折れるから今日はこっちに泊まってもらうけど良いかい?」


「あぁ、問題ないけど」


俺としても別に枕が変わったら寝れないなんて事も無いので了承する。


「なら客人用の部屋に案内するよ。それじゃミーナ、夜遅くに失礼したね」


ルシアはそう言うと近くでまだフリーズしたままのラミアを脇に抱え俺の車椅子を押しながら進み始めた。

力持ちだな、ラミアだけじゃなくルシアにもお姫様抱っこしてもらえばよかった。

そして、俺はルシアに連れられて客室へと案内された。

ものの数分で到着し、室内にあったベットへとそっと運ばれる。


「ありがとうルシア」


俺はここまで運んでくれたルシアにお礼を言う。


「問題ないさ、それよりも今は疲れているんだから早く休むといいよ」


ルシアは俺の頭をそっと一撫ですると「おやすみ」と一言だけ言ってラミアを担いで部屋の外へと向かう。


「あぁ、おやすみ」


俺は頭を撫でられたことに内心ドキッとしたが平然を装い返事を返す。


あ、ていうかラミア完全にフリーズしてたな。

まぁラミアなら明日には元気になってるだろう。多分。


それにしても今日は色々あったなぁ…ていうか色々あり過ぎたなぁ。

弄られ過ぎなラミアに弄り過ぎなルシア、それに妖艶なマミアさんや謎のお偉いショタ、なかなかに濃い人達とも知り合ったし、なんか知らない間に特異体質者なんぞになっとるわ、本当に色々だなぁ。

まぁこれからの生活に多少不安がある事にはあるが、それ以上に魔法や特殊能力なんかに興味津々なんだよな。

はぁ〜ロマンだなぁ。魔法バンバン使いてぇ。


俺は頭の中で魔法を使って怪物と戦う妄想などをしていると次第に意識は微睡んでゆく。





次の日と言うよりその日だが、部屋のカーテンから差し込む日の光と何者かに身体を揺すられることで意識が覚醒する。

疲れていたせいもあってか、いつもより重い瞼をやっとの事で開くとそこにはラミアの姿があった。


「あ、やっと起きたんですねナナシさん!ほら起きてくださいもうお昼ですよ!」


そう言ってラミアが俺を揺すってくるが如何せん眠い。


「ん…マミーあと五分プリーズ」


俺はそれだけ言うと再び枕に顔を埋め寝息を立てるが直ぐに彼女によって妨害される。


「誰がマミーですかっ!」


ラミアはそう言って俺の寝ていたベットのシーツを力一杯に引き抜く。

そのせいで俺はラミアの反対側へ転がり落ちる。


「ぐほっ!?…痛っつ朝からなんなんだ?もう少し出来れば夜まで寝させてくれてもいーじゃねーか」


「寝過ぎです」


俺の愚痴を華麗にスルーしてラミアはベットを整え始める。俺が"立ち上がる"と、隣の机の上に俺の着替えらしき物が、一式揃えられており今更ながら自分が病衣のままであることに気づく。


あぁ、そういえば病院からそのまま来たんだったな。

そんで此処は上の世界か…夢じゃなかったんだな。

ん?というか俺昨日まで筋肉ゆるゆるで立てなかったのに今は普通に立ってね?


取り敢えず困った時はラミアに聞くのが一番なので聞いてみる。


「なぁラミア何か知らん間に立てるようになってるんだけど?」


「あ、そうでした。いつまで経ってもナナシさんが起きないので本当は起きてからするつもりだったんですけど、回復魔法の使える方にお願いして身体に残っていた傷と衰えた筋肉の回復をして貰ったんです」


「へぇ〜回復魔法なんてあるんだな。早く起きてれば魔法使うところ見えたのか〜早く起きれば良かったかな?」


「悪いのはお寝坊さんなナナシさんですよ」


ラミアは半眼でそう言ってくる。ま、俺の三大欲求は『睡眠』『宝石』『飴』で埋まってるからな。

そうそうな事では俺は起きないぜ。

ちなみに三大欲求に飴が入っているのは俺が大の飴好きだからだ。普段もよく口に飴を入れている為食事の際にうっかり飴を舐めっぱなしでご飯が甘いなんて日常茶飯事なのだ。


ま、その話は置いておいて気になったことをラミアに聞く。


「なぁラミア、回復魔法なんて便利な物があったんなら病室で俺が寝てた時に使ってくれてたら一発だったんじゃないか?」


俺がそう聞くとラミアは少し俯きながら話し始めた。


「その…まず私は回復魔法は使えないんです。だからナナシさんが傷ついた時すぐに直せなかったんです。それと病室だと医者や看護師が様態を見ていて回復魔法を使うなんて事をすれば騒ぎになるのは間違い無かったから…すみません」


「あ〜なるほどな。確かに医者が回復魔法なんて存在知ったら裸足で逃げ出すだろうな。それと俺の怪我の件だがそんな気にしなくて良いんだよ。俺は今こうしてばっちり生きてる訳だし、なんか知らんが魔法も使えるようになったみたいだし何も不満はない。むしろ感謝してるくらいだぜ?助けてくれてありがとうなラミア」


俺はそう言って自分より背の低いラミアの頭を強引に撫で回す。整えられていた綺麗なプラチナブロンドの金髪はボサボサになるが、ラミアは下を向いたままなすがままになる。


「むぅ、不服です」


口ではそう言っているが口の端は地味に釣り上がっているあたりを見るにまだまだ子供だな。なんて思ったが痛い目に会いたくは無いので触れないでおく。

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