第7話
そんな訳で俺は『NEST』なる組織に入る事になったが、まだ具体的に何をするのか、空に見えるあの景色は何なのか聞いていないことに気づく。
あ…そういえばどんな仕事するのか聞いてないやん。
これで白くて食べるとハッピーハッピーになれる粉を運ぶ簡単なお仕事だよ なんて言われたらどうしよう。
今更断るなんて言ったら…やべぇな。
ま、まぁ皆いい人そうに見えるし大丈夫!多分…
俺が今更焦って色々と心配になっているとルシアが口を開いた。
「さて、ナナシ君が我々の仲間に加わった訳だからまずはその事を本部兼我々の我が家に行き報告しないとな」
「えーとて事は俺は自分のアパートに帰れば良いんですかね?」
「うーん、もう随分夜遅いから帰らせてはあげたいんだけどね。報告の際は本人も着いて来て貰わないといけないんだ」
「へぇ、そういう事なら仕方ないですね。ちなみにその本部は遠いんですか?」
本部と聞きでっかい建物を想像したがこの辺に『NEST』なる組織が使っている建物なんて存在したかと内心首を捻る。
「案外すぐに着くよ、それに君も目にした事のある場所だよ」
ルシアさんはそう悪戯っぽく言う。
ふむ、案外近く?来る時にそんな建物は見なかったけどな?
「ならそろそろ行こうか。"上に"報告しにね」
ルシアの出した謎掛けの様な発言に悩んでいるとそう言われる。
と、言う事で現在お馴染みのラミアによるお姫様抱っこにより俺は出荷されています。
今はこの何の施設か分からないが置いてある機材から何らかの研究はしてそうな施設の廊下をルシアとラミアと共に歩いている。
施設の構造は迷路の様に複雑で俺は最初の方で、来た道を覚えるという考えは諦めた。
不意に暇だったので視線をラミアの顔の方に向けると睨まれてしまいゆっくりと前へ視線を戻す。
五分ほど廊下を歩き到着したのは白いドアの付いた部屋の前だった。
「本部兼我が家」と言っていたがこの施設が本部だったってことか?それならなかなかに引っ掛け問題だ。
そう思っているとルシアは白いドアを開け中に入っていく。
ラミアと俺もその後に続き中へと入る。
「おい、これはどういう事だ?」
部屋に入った俺は怪訝な表情でルシアへと問う。
何故なら、部屋に入るとそこは十数メートル四方の正方形の形をしている一室であり室内の中心に木製のドアが置いてあるだけで他には何も置かれていない。
その異質な光景を疑問に思った事も含め、ここがどう見ても本部にも我が家にも見えない為だ。
「ふふ、まぁそんなに焦らなくても大丈夫だよナナシ君。部屋の中心にドアがあるだろ?あれが本部に続くドアだよ」
そう言われてもう一度部屋の中心にあるドアを見るがどう見ても壁に埋め込まれる前段階のドアである。
うーんあのドアが本部に続いているとは俄には信じ難い。
だがつい先程、超能力や魔法みたいな事は存在すると言われたばかりなので一概に嘘とも思えない。
「まぁ見た方が早いよ。じゃあ開けるね」
そう言ってルシアはドアに近づくとドアノブを回しドアを開ける。
そこには部屋の反対側の壁…ではなく見た事の無い部屋が見えていた。
「なっ…!?どうなってんだ…」
「ふふ、驚いているねナナシ君。まぁ無理も無いよ、ラミアも最初にこれを見た時は君以上に驚いていたからね」
ルシアは悪戯が成功した子供のように上機嫌にそう言うとラミアの暴露を始める。
「なっ!?それは昔の話です!」
それを聞いたラミアは相変わらずの反応をしてルシアと俺を楽しませてくれる。
「このドアの名前は『どこでも帰る君』と言って、このドアを使えばどこに居ても本部に帰ることが出来る転移装置だよ」
ええぇぇぇ……どう考えてもあの青いロボットのポケットの中から出てくるピンク色のドアのパクリじゃねぇか。
しかも転移装置とかなんかハイテクノロジーだな。
「まじっすか…かなり文明の差を感じるんですが…」
その言葉に反応したのはラミアだった。
その質問を待っていたかの様な早さで食いついてくる。
「それはですね!現代の文明はすべ…」
水を得た魚の様に得意げに説明し始めたラミアだったが、その言葉にルシアが言葉を被せてくる。
「ラミアまずは報告だ。その話は後でしてやるといい」
「むむむ、分かりました」
俺は話の続きが気になったがいずれ教えてくれるというなら問題ない為何も言わないでおく。
ルシアが最初にドアをくぐっていく。続いて俺達の番だが、なんだかちょっとばかしワクワクする。
なんというか転移装置なんていう架空上の話でしか聞いたことの無い装置を自分が使うとなるとこう童心が…
等と考えていたがラミアによってお姫様抱っこの状態で普通にくぐらされた為なんだか…うぅ…なんだかな…
「おぉ…!」
どうやら転移装置と言うのは本当だったようで、ドアを通った先は先程までの薄暗い部屋とは違い何らかの光源により十分な明るさのある部屋だった。
室内の壁や床は白く石のような素材で作られており見た感じシンプルで近代的な造りになっている。
これといって豪華絢爛な装飾がされている訳では無いので実用性重視で造られているようだ。
「ここが本部なのか?」
それでも一応、ただの中継地点である場合も考えられるので聞いてみる。
「ええ、そうよ。ここが人類最後の砦であり我々『NEST』の本部でもあるわ」
ん…?何やねん人類最後の砦って。
そんな肩書きはルシアさんの悪戯だろうと思い努めて気にしないようにする。
「はぁ…なるほど」
その後、ルシアに案内され本部の中を進んでいく。
廊下を進んで何処かに向かっているのだが、時間が時間でもある為か誰一人すれ違う事無く目的の部屋に到着した。
「元帥、ルシアですが今、お時間よろしいでしょうか?」
ルシアは目の前の黒塗りの扉をノックして元帥なる人物に確認をとる。
「んー?なんだルシアか。入って良いよ~」
「失礼します」
そう言ってルシアが部屋の中へと入って行き、俺とラミアもその後に続く。
あれ?これからお偉いさんに会うんだよな…?今俺ってお姫様抱っこ…
そんな俺の不安に気付くこともなくラミアは中へとすんなり入ってしまう。
室内は先程まで通っていた廊下や転移してきた部屋とは違いしっかりとした内装が施してあり、両側には大きな本棚床には絨毯、部屋の中心にはソファーが二対になっておりその真ん中にはテーブルが置いてある。
部屋の奥には大きな机が置いてあり机の上には大量の書類が積み上げられていてその奥に背もたれの付いたレザーチェアいわゆる社長椅子的な感じのものが鎮座していた。
元帥は何処だと俺が部屋の中をキョロキョロ見回していると社長椅子の方から声が聞こえてくる。
「あれ?ルシアが来たって事はアガペの件での報告だと思ったんだけどな?随分と面白い青年を連れてきたものだね。 ぷぷっ…十五歳の少女にお姫様抱っこされる成人男性、これは傑作だねっ!」
ぐぬぬぬ…やっぱり馬鹿にされてる…!
何か言ってやりたかったがこれから俺の上司になるかもしれないわけだから黙っておく。
俺は直ぐにでも下ろしてもらうためラミアへと懇願の視線を送る。
ラミアもラミアで元帥とやらに馬鹿にされたことが恥ずかしかったのか顔が赤くなっており言うまでもなく近くのソファへと投げ捨てられる。
「ぐはっ」
もっと優しく下ろしてくれよと思ったが口には出さずソファに座り直す。
ルシアとラミアも俺の座っているソファに腰掛ける。
そういえば先程から元帥の言葉は聞こえていたが本人が見えないとキョロキョロと探してみる。
「元帥、今回はアガペの報告は勿論のことですが、それに加えて新たに後天性の特異体質者が生まれました」
ルシアがそう言うと書類で埋まった机の方から元帥の声が聞こえてくる。どうやら元帥は書類の山に埋もれていて見えなかったようだ。
「ほう!ほうほうほう!そうかそうか後天性が生まれたんだね!という事は彼がそうなのかい?」
そう言うと机の上の書類の山が崩れ始める。
そして社長椅子が動き スタッ と物音がすると元帥らしき足音がこちらに向かってくるのが聞こえる。
しかし元帥が立ち上がったのなら見えるはずなのだが一向に見当たらないので不思議に思い上半身を動かし音のする机の側面を覗き込む。
すると、丁度机の横から出てきた子供と目が合う。
「あれ?」
俺は思わず疑問に思い口に出してしまう。
何故なら元帥なんて聞いていたから髭をもじゃもじゃに生やした威厳のある禿げた爺さんを思い浮かべていたからだ。しかし、実際目に映るのは先程まで元帥の使っていた机より少し高いくらいの背丈で、少しくすんだ金髪の美少年だったからだ。
「君のイメージとは随分と違うようで申し訳ないけど僕が元帥で間違いないよ」
そう言って俺達の座っているソファの対面に深く腰掛けた。
「まずは初めましてだね。僕の名前はテオドール・ケディ元帥、三元帥の内の一人だよ。よろしくね!テオって呼んでくれると嬉しいな」
随分とフレンドリーな挨拶をしてくれた元帥はどうやらテオドール・ケディと言うそうだ。
三元帥って事は同じ階級の人があと二人いるってことなんだろうけどここには居ないようなので触れないでおこう。
取り敢えず本人がテオって呼んで欲しいらしいのでそう呼ぶ事にする。
「あぁ、こちらこそ初めまして。俺の名前は天晶ナナシ、ナナシって呼んでくれて構わない。なんかよく分からないけど特異体質者ってのになったみたいで、なし崩し的に『NEST』に入る事になったから、よろしくなテオ」
「はははっ!やっぱり君は面白いねナナシ。うんうん僕も君が『NEST』に入る事に異論は無いよ」
取り敢えずテオの笑うツボがよく分からんが、どうやら俺の参加に異論は無いらしい。
「まぁ、取り敢えずは今回の事件の報告から聞こうか。ルシアお願い」
「はい、今回のアガペの人質事件ですが───」
ルシアの報告を聞き終わったテオは腕を組み少し難しい顔をしている。
まぁその様子はテオの容姿からすると、ただ子供が拗ねている様にしか見えないんだけど。
「まずはナナシに謝るべきだね。我々の不手際で君を危険な目に合わせてしまった。それにラミアを助けてくれてありがとう」
テオは本当に済まなそうな顔をして頭を下げる。
元帥というかなり高い地位にいるのに俺みたいなついさっき加入が決まったばかりの奴に簡単に頭を下げて良いものなのかと思ったが素直に受け取っておく。
「いえいえ、どう致しまして。まぁ俺が勝手にやった事なんであまり気になさらず」
でも、だからといって上手に出るのも違うと思うのでフォローは入れておく。
我ながら完璧な返答。二年間の会社務めで培った目上の人が下手に出た場合の対処法が役に立ったぜ。
「ありがとう、そう言ってもらえるとこちらとしても安心だよ。まぁ僕達の組織に加入するって事だから組織の方から多少は手当てが降りると思うから期待しておくといいよ。こう見えて僕達の組織は資金は潤沢だからね。人材は少し不足してるけど」
ほぅ!資金が潤沢!素晴らしいじゃないか!俺の前の会社なんてトータルで赤字続きで給料はガリガリ削られるは時間外労働は当然だし─── あれ?よくよく考えたら最悪やん俺の居た会社…
「あ、そういえば俺まだ此処でどんな仕事するのか聞いてなかったんですけど、どんな事するのか聞いてもいいですか?」
そう、重要な事を聞き忘れていたのだ。丁度聞けそうなタイミングだったので逃さず質問を入れる。
「あれ?ルシアから説明されて無かったんだ」
「すみません忘れてました。報告が先だと急いでいたもので」
どうやらルシアさんのミスだったようだ。まぁ組織に加入しますかって問うて何をするのか言わないのは確かに変だしな。
「そっかそっか、じゃあ僕の方から説明するよ。まずは僕達の組織には大きく分けて三つの仕事があるんだ。まずはラミアが今回やっていた仕事なんだけど、特異体質者が関与する犯罪や事件の解決。そして二つ目はこの世界の何処かで産まれる特異体質者の保護。最後は一番重要な仕事なんだ。先に上げた二つの仕事よりも優先して行わなければならない」
そこでテオは言葉を一度区切った。そして机の上にいつの間にか用意されていたお茶を飲んで口の中を潤している。
にしても一つ目は警察みたいだな。ただ専門にしているのが特異体質者の逮捕って所か。
二つ目は…うーん保護か、なんで保護するんだろ?後で聞いてみよう。
「それで最後は?」
俺は最後の一番重要だという仕事の内容が気になり続きを急かす。
テオはお茶をゆっくりと机に置くと真剣な面持ちで口を開いた。
「戦争だよ」
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