第6話

俺はルシアに強制的に着いてくるように言われたのだが、二週間も寝ていた為身体を支えるための筋肉が落ちているし、まだお腹の傷が完全に治った訳では無く痛む為、自分で歩くのは厳しいと思い口を開く。


「今からですか…?それに歩きたくても歩けそうに無いんですが…」


「あぁ、すまないが緊急だ。移動に関しては問題ない。ラミア頼む」


「はい」


ラミアは俺のベットの脇まで来ると俺の身体の下に手を入れるとそのまま軽々と持ち上げる。

俗に言う"お姫様抱っこ"の体制で持ち上げられた俺は逆だろと物凄く反論したくなったが、そんな雰囲気でもないため諦める。


ラミアにお姫様抱っこの状態で病室から運ばれ現在は病院の廊下を歩いているのだが、十五歳位の少女にお姫様抱っこで運ばれる二十一歳の男と言う図はとても間抜けな訳で俺はその言われ用もない恥ずかしさから顔が赤くなるのを感じる。

この状態が恥ずかしいのはラミアも同じようで頬を赤く染めているのが目に入る。

そんな事を考えていると既に病院の駐車場に到着しておりルシアの車の後部座席に乗せられそのまま発進する。


車で走ること約一時間、どうやら目的の場所に到着したようでまたしてもラミアにお姫様抱っこで輸送される。

目に入った建物は物凄く近代的な形状をしており色も白で統一された研究施設の様な建物だった。

その予想は間違いではなかったようで近くの看板に『技術研究所』とそれだけ簡潔に書かれていた。


なすがままにラミアによって輸送され施設内の一室に連れてこられる。

そこには一人の白衣を着た妙齢の女性が椅子に腰掛け書類に目を通していた。

ラミアは近くにあったベットに俺を降ろすと 少し待っててください と言い残しルシアと共に白衣の女性の元へと向かって行った。


数分で彼女達の話が終わったようで三人ともこっちに向かって歩いてくる。


「初めましてぇ、私の名前はマミアよ。よろしくねぇナナシ君」


そう言うとマミアさんは俺の身体を下から上まで舐めまわすように見てくる。

マミアさんは恐らく俺よりも何歳か年上であることが伺える為さん付けで呼ぶ事にする。

マミアさんは白衣の上からでも分かる程の豊満な連峰を腕を組んで押し上げながら暫し考え込むと言った。


「うーん、やっぱり見ただけだと分からないわねぇ。後天性のサンプルはあまり居ないから少し気になったけどこれといった特徴はないのよねぇ」


後天性?サンプル?誰か説明プリーズ。

俺は良く分からないので説明して欲しくなりラミアの方を見る。

俺の視線に気が付いたようでラミアは俺に近づくと聞いてくる。


「どうかしましたか?」


「いや、この状況は何なのか説明して欲しいかな〜って…」


俺が最後まで言うよりも先に合点が行ったのか説明を始めてくれた。


「先程病室でアガペが奇妙な現象を起こした話をしましたよね?」


「あぁ、確か機密事項で説明出来ないとか言ってたな」


「ええ、確かに機密事項です。ですが関係者には話しても問題ありません。つまり、つい先程ナナシさんは関係者になってしまった訳です」


えぇ…なんか面倒事に巻き込まれた予感しかしないんだが。心当たりと言えば空が変だった事くらいしか無いんだが…


「アガペや私もルシアさんもそうなのですが私達は皆『見える者』と言う特異体質なんです」


「見える者?」


俺はその言葉に聞き覚えが無かった為聞き返してしまう。


「そうです。簡単に言えばナナシさんは先程空に写るもう一つの世界を見ましたよね?」


「あの変な景色の事か」


「そうです。私達と同じ特異体質を持つ方は例外なくあの光景を目にするんです。この特異体質には先天性の方と後天性の方がいるんです。先天性の方の方が圧倒的に多いんですが後天性の方もいる事にはいるんです」


え…何それ特異体質?全く心当たりが無いんだが。

それにラミアも特異体質?


「え、でも俺は今まで空があんな風に見えた事無いから後天性なのは分かるけど、そんな事になる心当たりが全く無いんだが?」


「後天性の方が『見える者』になるきっかけは人それぞれなんです。恐らくナナシさんの場合はアガペの攻撃で生死を彷徨ったのが原因ではないかと」


あー確かに思い当たるのはそれくらいしかないなぁ。


「アガペも特異体質だったみたいだけど、車を浮かしたりしてたのってその特異体質が原因なの?」


「そうです。特異体質の方には例外なく 『フラグメント』と言う特殊な能力が備わるんです。いえ、備わるというより最初からあったものを引き出す事が可能になるって感じです」


なんじゃそら、フラグメント?特殊な能力?なんか俺の封印したはずの中二な部分が震えてくるんだが。


「えっと、じゃあアガペのフラグメントは何だったの?あの車が飛んだりしてたやつ」


「今尋問中なんですが、恐らくあれはフラグメントではなく『祝福』かと。しかも結構強力な。まぁあれは俗に言う念力の様な物だと思ってください」


おぉ!念力!えっとつまりあれか!動かなくても物を取ったり出来るし、スカートをバレずに捲ることも出来るってことか!なんて羨ましい能力なんだ!

てか、祝福?なんだそれ?まぁフラグメントみたいなものか。


「ナナシさん、今変な事考えてませんでしたか?」


いかんいかん、少し顔に出てしまったようだな。

ふぅー落ち着け俺。大丈夫だ俺。沈まれ俺。


「いや、別に何も。ただそんな事が本当に存在するとはなって思って」


俺は平然を装いそう言う。

ラミアは少し疑いの目で見てくるが俺には通用せん。


まだそのフラグメントや祝福とやらについて質問したかったがマミアさんが話に割って入ってくる事によってそれは中断される。


「それじゃナナシ君少し採血するから、好きな方の腕を出してちょうだい」


「え?」


採血…?血…抜いちゃうの?て事は注射…

マミアさんが右手に持ってるのは紛れもなく…注射器。


「はい、こっちの腕でお願いします」


俺はそう言うと近くに立っていたラミアの腕をマミアさんの前に差し出す。

すまんなラミア…俺の代わりに刺されてくれ。


「ちょっ何やってるんですかナナシさん!私の腕を出してどうするんですか!」


「え?だって好きな方の腕を出して良いって言うから」


「いけません。さぁ早く腕を出してくださいナナシさん!」


ラミアはそう言って俺の腕をマミアさんの前に差し出そうとしてくるが俺は必死に抵抗する。


「いやいやいや、注射とか無理ですから痛いのいやささー!」


俺はベットに敷いてあった布団に包まり防御体制をとるがその抵抗すら呆気なく破られる。


馬鹿なっ!?


俺の布団というA〇フィールドをラミアが容易く引き剥がし、マミアさんが俺の上に跨る。そしてさりげなくルシアさんが俺の肩を押さえており、俺は反抗虚しく取り押さえられる。


「もぅナナシ君じっとしてぇ。あぁんっ」


俺が拘束から抜け出そうと、もがいていると俺の上に跨るマミアさんが妖艶な声を出し始める。


「えいっ!」


俺がマミアさんの大人の色香に当てられドキリとした瞬間を見逃さず、マミアさんは俺の右腕へと注射器と言う名の最強兵器を突き刺して来る。


「あう…」


おのれ孔明、何という奇策…完敗である。


俺は注射器を刺されたことにより鎮静化する。

少しして採血が終わったのか針を抜くとルシアと共に採血した血を調べる為に何処かに行ってしまった。


「うぅ、痛い…」


俺がベットで項垂れていると部屋に残っていたラミアが頭を撫でて慰めてくれる。


「よしよし、痛かったですねナナシちゃん」


と思ったら全然そんな事は無く止めを刺してくる。

ちゃん付けはよしてくれ…!

十五歳位の少女にちゃん付けで慰められる二十一歳歳ってどうなのさ。凄く…滑稽です。

だが此処は俺も流れに乗っておくことにする。


「うわーん!痛かったよーマミー!」


俺はそう言ってラミアの腹部に抱き着いたつもりだったが狙いが逸れたようでラミアの残念な胸部に顔を埋めてしまう。


「ありゃ…?」


恐る恐る顔を上げるとそこには顔を真っ赤にしてプルプルと震え今にも泣き出しそうなラミアの顔があった。


「いや〜これは事故っていうか?災害?って奴かな〜なんて…」


「死ねぇぇ!」


そんな俺の言い訳も虚しく胸倉を掴まれると対面の壁まで投げ飛ばされる。


「うげっ」


背中から壁に叩きつけられ肺の中の空気が外へと押し出され全身に激痛が走る。

くそぅ、抱きつくならマミアさん見たいな豊満な連峰に抱き着きたかった…

そのまま重力に従い、床へと墜落し更なる激痛が俺を襲う。


「まじ…すんませんでした…」


俺はそれだけを言うと地面へと突っ伏す。

もう立ち上がるだけの元気がありません。



しばらくするとラミアがまたしてもお姫様抱っこでベットへと運んでくれる。


「つ…次やったら本当に許しませんからね!」


まだ若干頬が赤いが必死に怒った風を装うラミアはとても可愛らしかった。


「はい、大変深く反省しております」


俺はそう言って謝罪の意を示す。

余所から見れば全く反省している様には見えないだろうが、今のラミアは混乱しているため気付かなかった。


そんな出来事があってから数分すると入口が開いてルシアとマミアさんが戻ってくる。


「お待たせナナシ君。結果が出たわよぉ」


「はぁ、結果ですか?何の結果なんですか?」


俺は一概に結果と言われても何の事か分からず聞き返す。


「まぁまず、ナナシ君が『見える者』と言う後天性の特異体質者という事は確定したわ」


「はぁ、その特異体質者になったら何か身体に変化とかあるんですか?なんか指の間から金属の刃とかが出たりとか」


「ふふっ、ナナシ君は映画の見過ぎよ。でもあながち間違いではないわぁ。身体に変化をもたらすタイプの特異体質のもいるわ。でもナナシ君はそう言うタイプじゃなかったわ」


へぇ身体が変化するタイプの人もいるのか、にしても変身か…憧れるなぁ。


「えっと、て事は俺のタイプとやらも分かってるんですか?」


「えぇ、分かってるわよぉ。ナナシ君は基本系ね」


基本系?なんか普通そう。それに、いまいちピンと来ないな。


「んーと、その基本系ってのはどんなのなんですか?」


その質問に答えたのはマミアさんではなくラミアだった。


「いいですかナナシさん。特異体質者のフラグメントはそれぞれ三系統に別れています。その三系統は『基本系』『変異系』『補助系』の三種類です。まず変異系は身体の構造を作り替えて強力な力を宿したりする事が出来ます。次に補助系はその名の通り回復や支援系の効果を相手に付与したりする事が出来ます。そしてナナシさんの基本系ですが簡単に言うと魔法の様な感じです。火を飛ばしたり水を出したり風を起こしたりする事が出来ます」


おぉ…魔法…!なんと素晴らしい響きなんだろうか。

男なら必ず一度は魔法を使ってみたいと憧れるものである。

俺も例外ではなく魔法が使えると聞いて心が踊る。

ごめんよ基本系、普通そうなんて名称で判断しちまって。


「この系統は必ず一人につき一つしか所有出来ないという性質があるんです。変異系の方は魔法を使う事は出来ませんし逆に基本系の方は変異する事は出来ないんです」


へぇ〜そういう物なのか。変身とかもしてみたいというのが本音だが出来ないのならしょうがない。


「それと、ここからが重要なんですけど。いずれの系統にしてもその能力を使うにはSFM値と言う数値が関係してくるんです」


SFM?聞いたことが無いな。


「ちなみにナナシ君のSFM値は18019よぉ」


SすっごいFふしだらなMマミアさん

うん、これで間違いない。


それをラミアは訂正してくる。


「随分高いですね…。それとナナシさん、何を考えているかは分かりませんがSFM値はsoulflagmentの略称です」


うぐっ、またしても顔に出ていたか。


「えっとそのSFM値ってのは魔法にどう関係してくるんだ?」


「まずSFM値と言うのは器の大きさと言う感じです。特異体質者というのはこのSFM値が一定以上ある人の事なんです。そして魔法はその器の中に入ったマナを使って発動できるんです。そしてそのマナを多く消費すればするほど威力の高い魔法が使えたりする仕組みです。当然器に入った水を使えば使う程減っていきます。器の中の水が全てなくなると魔法が使えなくなる仕組みです」


へぇなるほど。つまりゲームなんかでよくあるMP的な概念って事か。


「減ったマナはどうやったら増えるんだ?」


「睡眠を取るかリラックスする事で徐々に回復しますよ。ちなみにナナシさんのSFM値は18019とかなり高いです。特異体質者の一般平均は5000〜6000なのでかなり高いです」


おぉなんか嬉しいな。

テストにしろ何にしろ平均より上だと嬉しいと思うのは当然だろう。


「なるほど。分かり易い説明をありがとう」


「いえ、どういたしまして」


「マミアさんもう終わりですか?」


他にも分かったことがあるのではないかと思い聞いてみる。


「あるわよぉ。最後にナナシ君の祝福なんだけど『鉱物創造・支配』だそうよぉ」


「聞いた事の無い祝福ですね」


鉱物創造・支配?それに祝福?なんかさっきアガペの念力が祝福とか言ってたがさっぱり分からん。困った時は取り敢えずラミアの方を見る。

俺の言いたい事を察したのかラミアは口を開く。


「祝福っていうのは、うーん説明が難しいですが、まず祝福は特異体質者なら誰でも持っている訳では無いんです。祝福保持者は全体の約一割程度ですが一応いる事にはいます」


俺はその説明の途中、ふと気になった事があり聞いてみる。


「さっきフラグメントは一人につき一系統しか所有出来ないって言ってたけど祝福と俺の基本系なんかは別物って事なのか?」


「その通りです。ナナシさんの基本系がメインウェポンだとすれば祝福はサブウェポンになる訳です。それぞれ枠が違うので同時に所有出来るんです」


はぁ〜なるほど。メインウェポンを二つは持てないけどサブウェポンなら持てるってことか。


「ありがとう。おかげで理解出来たよ」


俺はラミアに感謝を伝えるとマミアさんの方を向くと問う。


「あの〜取り敢えずその『見える者』とかいう特異体質者については分かったんだけど、俺はこれからどうなる訳?」


それに反応したのはマミアさんではなくルシアだった。


「ナナシ君には現在三つの選択肢が用意されている。まず一つ目は、我々に監視され続けながら元の日常へと戻る事。そして二つ目は我々の側へと来る事。最後はあまりオススメは出来ないがマミアさんお手製の危ないお薬をお注射して記憶消去の道だよ」


えぇ…なんかどれも嫌だな。一つ目は監視付きっていうのが嫌だし、二つ目はなんか危なそうだし、三つ目なんかもっと危なそうだし。むしろ俺がマミアさんにお注射したい。

取り敢えず俺はそれだけだと判断材料に欠ける為もう一つの質問をする。


「ちなみに二つ目を選択した場合具体的にはどうなるんですか?」


「そうだね、簡単に言うと同じ特異体質者達の集まる会社の様な所があってそこで君も働くようになるって事かな」


へぇ~会社って事はちゃんと給金も支払われるって事か。それはなかなか好条件だな。

という事は迷うな。今の会社は人間関係はあまり上手くいっているとは思わないし、主に課長の事だが。

それに給料も安月給なんだよなぁ。

それならいっその事転職するのもありかも知れないな。

よし、そうしよう。別に課長にこれ以上小言を言われたくないだなんて理由が無い事も無いが、実際今の会社に飽きていたと言う理由もある。

まぁ同僚には少し悪いかなーとは思うがコレも彼の成長の為を思っての事だと思えば問題ない。

そういった訳で心機一転新しい仕事を得るつもりで二つ目の選択肢を選ぶ。


その事をルシアに伝えるとルシアは笑みを浮かべて言った。


「君のような優秀な人材が来てくれるなんて実に嬉しいよナナシ君、我々は君を『NEST』に歓迎するよ」


「あぁこちらこそ宜しく頼む」

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