セックスワーカー

しほ

第1話 愛を勘違いしている

「ねぇ、君、1人?」

「え?…あ、はい」


都内の駅前でぼうっとただ人々の流れを見つめる私に40代くらいの中肉中背のオジサンが話しかける。


来た!


私は何処にでもいる普通の女だ。

地味で化粧っ気なんかない。

むしろ普通より劣ってさえいるだろう。

だけどそういう子がオジサンは好きだってことは19歳の春に知った。


あくまで私は遊びにきただけの女の子。

ここで正しい反応は戸惑いの表情で若干の上目遣い。


「君可愛いね!お小遣いあげるからさ、お茶しようよ」

「え、でも」

オジサンが私の肩に手を置いて、汚い笑み

を浮かべる。

互いの顔が近すぎてオジサンの口からは口臭消し用のミント味のガムの臭いがする。

私はこれが苦手だ。

しかしあからさまなナンパだ、わかりやすい。

「良いじゃん、1時間くらいでいいからさ」

「でも……」

身を少し捩り距離をとろうとすると

さらに引き寄せられる。

「どうせ、暇なんでしょ?」

「……はい」

「なら行こうか」

「はい……」

オジサンは私の腕を引っ張り歩きだす。

私も引きずられるように歩き出した。

行先はお察しの通りもちろん喫茶店なんかじゃない。


ああ、今日も声を掛けて貰えた。


心は喜びに震える。

しかしその裏でイケナイことを

している自覚があるのか言い訳をする。


ねえ、私は断らなかったんじゃない、

断れなかったの。


ハジメテを知らないオジサンにあげてしまってからずっと繰り返している言い訳だ。


オジサンに手を引かれながらなんとなく上を見上げた。

視界にはビルの隙間からのぞく曇ってもいない、晴れてもいない都会の濁った夜空が広がっている。


私は周囲が明るすぎるが故に見えやしない星に問いかける。


ねぇ、私は間違ってないよね?

ねぇ、私は此処にいるよね?

ねぇ、私は愛されてるよね?

ねぇ、私、これでいいんだよね?

ねぇ、私、セックスは最大の愛情表現なんでしょう?


そう、声を掛けられてついていくというのを何度もやっている内に気付けば私は身体を売ってでしか愛を感じれなくなっていたのだ。



私の価値は1万円

安いのか高いのかは知らない


でもお金なんかどうだっていい

私をその瞬間必要としてくれれば

私だけを見てくれれば


今だけ愛してくれれば、それでいい。


私は愛を勘違いしている。


そんなこと分かっている。

でもこれでしか生きてる実感すら出来ないから。


だから私は、名前すら知らないオジサンと

今日も夜の街へと消えていくのだ。

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セックスワーカー しほ @Shihonyasuke0130

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