第4話 リューシュの仲裁

 ケニーがなす術なく困惑した目を左右に往復させていると、ユーヴとリューが追いついてきた。

「みんな無事のようだね、何よりだ。……?」

 自分の声を無視されたユーヴはそれに慣れた様子で首を振ったが、事態を把握すると呆れた顔をした。

「その女性を助けるはずだったのに、何で君達が困らせとるのかね」

 なあ、リューシュ君? と話を横に振ると、リューシュは珍しく返答せずに二人に近づいていく。彼女の顔は穏やかだったが、ユーヴは危険を覚えたように距離をとった。君子危うきに近寄らずといった態で、進んでいくリューシュの背を見送る。

「あ……」

「わたくし達はその二人の仲間です。ご安心を」

 新たな人物達が現れたことで驚きと不安を見せたケニーへ優しく言い置いて、リューシュは口論に夢中な二人の脇に立った。

 直情径行型で口論の他の事柄は視野に入らなかったアグレイとキクでも、さすがに傍らの存在感には気がついた。横にいるリューシュを視界に捉えた途端、怯えた表情を硬直させる。さながら、喧嘩しているのを教師に咎められた生徒であった。

「お二人とも、何をなさっているの?」

「あ、悪いのはキクだぜ……」

「いや、アグレイが……」

 言い合いの責任をなすりつけ合うアグレイとキクを見やるリューシュの目は相変わらず穏やかだ。だが、その静けさが却って二人を萎縮させる。

 怒鳴られれば言い返すこともできるというもので、相手に黙っていられると文句を言うこともできない。

「「すいませんでした」」

 結局、数秒の沈黙を経てアグレイとキクは揃って頭を下げた。

「謝るのはわたくしにではないでしょう?」

 はい、と返事した二人はケニーに謝った。

「いえ! 私が助けられたのに謝られては……!」

 恐縮して首を横に振っているケニーの側にユーヴが歩み寄る。

 すっかり意気消沈したアグレイ達に代わって事情を聞こうというのである。

「や、僕はユーヴと申します。そうです、見た目に違わず詩人をしています。こちらの三人は私を慕ってついてくる知人達です。いやあ、彼女らも僕の詩に魅せられてしまって困ったものです。では、お近づきのしるしに一句吟じて差し上げましょう」

「ユーヴ、事情はわたくしから聞きますわ」

 ユーヴの長広舌を遮ってリューシュが進み出た。

「賑やかで申し訳ありません。宜しければ、なぜこのような場所を訪れたのかお聞かせ頂けませんこと? もしかすれば、何かお力になれるかもしれませんわ」

「ありがとうございます。それでは、せっかくですから私の家でお休みになられては如何でしょう。お礼もしたいことですし」

 ケニーの一言に俄然アグレイとキクが顔を上げた。

「休ませてくれるのか! ありがてえ」

「お言葉に甘えさせて頂きます!」

「それでは……」

 ケニーが遥か遠方を指差した。

「ここから一時間ほど歩くとそこに街があって、私の家もそこに」

 結局、一行はそれから歩き続けることになった。

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