驚異のレトロパソコン 第3話


 驚異のレトロパソコン 第3話


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 ――2002年10月


「BASICは、独自開発でしたよね?」

「ええ」

「CPUボード毎に開発するのは大変ではなかったですか?」

「新市がZ80と6809を私が8086を担当したのですが、半年くらいで作成できました。会社員時代にZ80のBASICを8086に移植するプロジェクトに参加したことがあります。退職したので、期間は少しだけでしたが、要領は解っていました」

「なるほど、流石ですね」

「いえ、GC-BASICは、シンプルなBASICですから」

「ああ、確かコマンドが凄く少ないんですよね?」

「はい、グラフィックボードやサウンドボードの操作など、大半のことをAPI文を使ってG-OSのコマンドを呼び出す設計ですから」


 PC-16用のCPUボードに搭載されたBASICは、GC-BASICと呼ばれる独自開発のものだった。

 当初は、外注する予定だったのだが、試作機が意外と早く完成したため、そのテストも兼ねてBASICの開発を行ったのだ。

 PC-16は、簡易OSであるG-OS環境下でRAMディスクとテキストエディタが使えるため、当時としては非常に快適な開発環境だった。

 ソースファイルを8インチフロッピーディスクに保存し、同一CPUの他機種のアセンブラを使いGC-BASICは作成された。


 GC-BASICの最大の特徴は、シンプルなことだ。

 基本的に整数BASICでマルチステートメントにも対応していなかった。実数を扱うときには、型宣言が必要なのだ。

 基本コマンドは、制御構造関連以外では、PRINT文やINPUT文などのコンソール関連のコマンドや文字列操作や数学の組み込み関数しか存在しない。

 そもそも、PC-16には、グラフィックボードやサウンドボードなども外付けなのだ。そういったものを利用するときには、API文で記述する必要がある。

 API文は、それぞれのハードウェアのROMに書き込んであるG-OS用のコマンドを直接記述するためのコマンドだ。元々、こういった使い方をするために一般的なBASICと似た構文にしてあった。また、G-OSのコマンドを直接書くこともできるため、ファイル操作などにも使えた。

 また、BASICのプログラムは、トークン化されてメモリに格納される仕組みだった。


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 例)


 API("line (0,0)-(100,100),1")

 API("copy /ramd0/test.txt /fdd0/")


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「1982年12月にジェネシス PC-16が発売されたわけですが、売れ行きのほうはどうでしたか?」

「価格が高かったため、売れ行きは芳しくありませんでした。広告はパソコン雑誌のモノクロページに載せていましたが、販路が無いため、大都市のパソコンショップ頼みだったのですが……」

「それで、どうされたのですか?」

「どうすることもできませんでした。しかし、あるパソコン雑誌で紹介されてから一部のパソコンマニアの人たちに売れたようで注文が増えました。PC-16は、発売から2年で生産した5千台の殆どが出荷されました」

「大ヒットというほどではなかったのですよね?」

「ええ、大ヒットではありませんでしたが、何とか借金を完済して次への手応えを感じました」

「増産はされなかったのですか?」

「はい。コストダウンした新型の開発に着手しておりましたので……」

「確か、株式会社化されたのも、この頃でしたよね?」

「1984年の4月に株式会社化しました。この後は、急激に会社が大きくなりました」

「そういえば、仲元氏は、いつ正式に入社されたのですか?」

「1981年でした。あと半年で卒業だったのに就職すると言い出しまして。あと半年で卒業なのだから、大学くらい出ておけと説得したのですが……。後から聞いた話では、単位が全然足りていなかったようで、半年で卒業は無理だったようです」

「ハハハ、それは大変でしたね」

「ええ、仲元にもよく恨み言を言われましたよ」


 渡部は、話題を変える。


「そして、いよいよ1984年にジェネシス PC-80が発売するわけですね」

「ええ、ホビー向けにコストダウンしたモデルで、ウチの製品の中では一番売れたモデルです」


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 ――1984年12月14日(金)


 佐藤たちは、この2年、PC-16のコストダウンに注力した。

 たまたま、雑誌で紹介されて一部のマニアに売れたことで何とかなったが、やはり価格が高いことは相当なネックとなっていることが分かったのだ。良いものを作れば売れるというわけではなかった。知名度もブランド力もない弱小パソコンメーカーが生き残るためには、大手の製品よりも安くて良いものを販売しなければ太刀打ちできない。

 その結果、半導体価格がここ2年で下落したこともあって、ジェネシス・コンピュータの製品は一般の人にも買い求めやすい価格になった。


 そして、この日、新たなラインナップでジェネシス・コンピュータの新製品が発売された――。


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◆ジェネシス PC-16mk2(本体・キーボード) ¥99800-

 ・CPU : GOSプロセッサ(8MHz)

 ・ROM : 32KB

 ・RAM : 32KB

 ・RAMディスク : 64KB

 ・キャラクタROM : 8KB

 ・キャラクタRAM : 6KB

 ・テキストVRAM : 8KB

 ・アドレスバス : 20ビット

 ・データバス : 16ビット

 ・拡張バススロット : 8本


◆ジェネシス PC-80(本体・キーボード) ¥198000-

 ・CPU : GOSプロセッサ(8MHz)

 ・ROM : 32KB

 ・RAM : 32KB

 ・RAMディスク : 64KB

 ・キャラクタROM : 8KB

 ・キャラクタRAM : 6KB

 ・テキストVRAM : 8KB

 ・アドレスバス : 20ビット

 ・データバス : 16ビット

 ・拡張バススロット : 4本

 ・漢字ROM : 256KB(JIS第一・第二水準)、VRAM:8KB

 ・CPU : Z80A(4MHz)

  ・RAM : 64KB

  ・ROM : 8KB(G-OSコマンド)

  ・BASIC ROM : 16KB

 ・カラーグラフィック

  ・表示能力 : 640×400ドット・カラー1画面(またはモノクロ3画面)

  ・グラフィックVRAM : 96KB

  ・ROM : 16KB(G-OSコマンド)

 ・サウンド : FM音源

 ・FDD : 内蔵5インチ2Dフロッピーディスクドライブ(1ドライブ)

 ・インタフェース : パラレルプリンタポート、RS-232Cシリアルポート


◆Z80・CPUボード ¥19800-

 ・CPU : Z80A(4MHz)

 ・RAM : 64KB

 ・ROM : 8KB(G-OSコマンド)

 ・BASIC ROM : 16KB


◆MC6809・CPUボード ¥29800-

 ・CPU : MC68B09E(2MHz)

 ・RAM : 64KB

 ・ROM : 8KB(G-OSコマンド)

 ・BASIC ROM : 16KB


◆i8086・CPUボード ¥69800-

 ・CPU : i8086-2(8MHz)

 ・RAM : 128KB

 ・ROM : 8KB(G-OSコマンド)

 ・BASIC ROM : 24KB


◆モノクログラフィックボード ¥9800-

 ・表示能力 : 640×400ドット・モノクロ1画面

 ・グラフィックVRAM : 32KB

 ・ROM : 8KB(G-OSコマンド)


◆カラーグラフィックボード ¥29800-

 ・表示能力 : 640×400ドット・カラー1画面(またはモノクロ3画面)

 ・グラフィックVRAM : 96KB

 ・ROM : 16KB(G-OSコマンド)


◆サウンドボード ¥6800-

 ・サウンド能力 : 8オクターブ矩形波3音+ノイズ1音(PSG互換)

 ・内蔵モノラルスピーカー搭載


◆FM音源サウンドボード ¥19800-

 ・サウンド能力 : FM音源3音+8オクターブ矩形波3音+ノイズ1音(SSG)

 ・内蔵モノラルスピーカー搭載


◆漢字ROMボード ¥19800-

 ・ROM : 256KB(JIS第一・第二水準)

 ・漢字VRAM:8KB


◆パラレルプリンタインタフェースボード ¥6800-


◆RS-232Cシリアルインタフェースボード ¥6800-


◆GPIBインタフェースボード ¥6800-


◆ジョイスティックインタフェースボード(ATARI準拠、2ポート) ¥6800-


◆5インチ2Dフロッピーディスクインタフェースボード ¥6800-


◆データレコーダ(I/Fボード付き) ¥12800-


◆外付け8インチフロッピーディスクドライブ(I/Fボード付き、2ドライブ) ¥398000-


◆外付け5インチ2Dフロッピーディスクドライブ(I/Fボード付き、2ドライブ) ¥99800-


◆内蔵5インチ2Dフロッピーディスクドライブ(1ドライブ) ¥39800-


◆14インチモノクロモニタ ¥29800-


◆15インチカラーモニタ ¥99800-


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 今回のモデルチェンジの目玉は、何と言っても「ジェネシス PC-80」だろう。

 拡張バススロットは、半分の4本に減っているが、基盤上の多くのチップがシュリンクされカスタムチップとなり部品点数が減ったメイン基盤にZ80・CPUボード、カラーグラフィックボード、FM音源サウンドボード、漢字ROMボード、パラレルプリンタインタフェースボード、RS-232Cシリアルインタフェースボード、5インチ2Dフロッピーディスクインタフェースボードの機能と内蔵5インチ2DFDD1基が搭載されて198000円という低価格を実現した。

 薄利多売へ方針転換したことで、1台当たりの利益を大幅に減らすことでこの価格が可能となったのだ。


 PC-80は、サイズ的にはPC-16と変わらないが、ケースはかなりコストダウンされて、金属ケースから、黒のプラスチックケースとなっている。

 ケース前面には、内蔵5インチ2DFDD1基が搭載されており、更に1基を増設可能となっていた。FDDは、通常2基搭載されていないと、いろいろ面倒なのだが、64KBのRAMディスクを利用できるため、利便性は悪くはなかった。むしろ、RAMディスクにファイルをコピーすることで高速な動作が可能になるソフトもあったくらいだ。

 RAMディスクは、数年後に流行したパソコン通信でも威力を発揮した。


「ジェネシス PC-16mk2」は、その名の通り、PC-16をコストダウンしたモデルだ。

 同じ性能で、ほぼ半額になっている。

 ケースには、PC-80と同じように2基の5インチFDD用のスロットが前面パネルにあった。ケースの色は、黒い筐体のPC-80と違ってPC-16と同じグレーだ。


 PC-80に比べるとコストパフォーマンスでは敵わないが、拡張バススロットが8本あるため拡張性は高い。

 しかし、PC-16mk2にZ80・CPUボード、モノクログラフィックボード、5インチ2Dフロッピーディスクインタフェースボード、内蔵5インチ2Dフロッピーディスクドライブといったモノクロの最小構成でも176000円となるため、新規ユーザーよりもPC-16の買い換えや既にいくつかのボードを持っている人向けの製品と言えた。

 ちなみにPC-16mk2をPC-80と同じ構成で購入すると、249200円になる。


 その他、CPUボードや各種オプション類も価格が安くなった。

 これは、この頃の他メーカーでも同じ現象が起きていた。

 半導体価格が安くなったり、技術の進歩で製造コストが削減されたりしたためだ。


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