第6話 人質



 谷村香奈と幼い双子、三人の両手足には手錠が填めらている。足の手錠からは鎖が延び、その先端は部屋の中心に設置された鉄の棒に巻かれていた。

 室内はコテージ風の広い洋室。至る所にレトルト食品や缶詰、飲料水が積み重なっている。その隙間にテレビや電子レンジ、そして狭い簡易トイレが設置されていた。

 壁には茶色のカーテンで閉め切られた大きな窓が二つ備え付けられていたが、鎖で繋がれた行動範囲では、近づくことすら出来そうになかった。

 

 香奈は子供達を布団の上で寝かせ付けた後、四つん這いでレトルト食品の空いた容器を片づける。重苦しさの漂う動きで一通り片づけを終えた後、子供達の横に座り込みテレビ画面に目を向けた。

 疲れ果てた無表情でクイズ番組をしばらく眺め、備え付けのリモコンでチャンネルを切り替えた。ニュースバラエティが流れ、画面の中ではいつものようにメインキャスターが世相を語っている。

 香奈は目線を子供達に移した。気持ちよさそうな寝息を立てている。その目元だけが、恐怖や混乱を物語るように赤みを帯びていた。二つの寝顔を何度も撫でる。香奈の目元があっという間に潤み、それが流れ出す前に拭う。

「大丈夫だからね」つぶやくと同時に涙は溢れだし、嗚咽を押さえつける様に口元を両手で覆った。

 何度も深呼吸をして自身を落ち着ける。表情を険しくさせて、足下の鎖から繋がる鉄の棒を睨みつけた。ゆっくりと手を伸ばして握り込む。どんなに力を加えても、鉄の棒は微動もしなかった。

 香奈は顔を上げて、部屋の片隅を睨みつけた。まるで全てを見透かすような監視カメラが、赤い点灯を続けていた。

 表情はそのままに、今度は室内を見回した。何かを探すように、目線を動かす。テレビや電子レンジを見つめながらしばらく考え込んだ後、表情の険しさを消した。そのまま力が抜けたように子供達の隣に寄り添い、ゆっくりと目を閉じた。




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