第4話 日常の終わり
「ママ、お菓子」
大型ショッピングモールの食品売場で、活発そうな女の子が母親に頼んでいる。その隣には同じ年頃の男の子が、不安げな顔をして周囲に目を泳がせていた。
「最後にお菓子売場に行くからもう少し待ちなさい」女の子の母親、谷村香奈は娘に優しく言い聞かせた。
「無くなっちゃう」女の子は口を尖らせた。
「無くなっちゃう?」香奈は笑みを浮かべる。
「レンもお菓子買いたいよね?」女の子は隣に居るつまらなそうな顔をした男の子に訊いた。
「うん」男の子は不安そうな目を母親に向ける。
「ほら、そこのお醤油取って」香奈は話を聞き流して指示を出した。
二人の子供達は同時に動き出し、母親へ醤油を渡す合戦を始めた。
谷村家は毎週土曜日、昼前に家を出て、行きつけのファミリーレストランで昼食を取り、消耗した日用雑貨をまとめ買いするため、この大型ショッピングモールを訪れている。夫を除いた家族三人での、いつもの習わしだった。
施設に備え付けの立体駐車場三階にあるいつもの場所に自家用車のミニバンを停めて、買い物に勤しんでいた。
「それにしたら?」
二人の子供達は、母親にお菓子を一つだけど言われた為か、真剣な眼差しを浮かべながら選んでいる。まるで親の敵でも見まぐるかのように、小さなお菓子一つ一つを手にとっては眺める。
「レンはこれにしたら?」女の子が隣でお菓子を選んでいる男の子に訊いた。
「自分で選ぶ」目もくれず、自身のお菓子を選ぶ。
「ナナミはこれ買うから、レンこれ買ってお家で半分こ」女の子は諦めきれず、もう一度促した。
男の子は黙りを決め込み、お菓子を選んでいる。口元をへの字に曲げて、若干の不機嫌を表現していた。
女の子は諦めた様子で、両手に持っていた一つを棚に戻し、国民的アニメのヒロインキャラクターが描かれたチョコレートを買い物かごに入れた。
「レン、早くしなさい」女の子は自分が選び終わると同時に、早速母親の口調を真似る。
男の子は頬を膨らませて立ち上がった。納得いっていない表情を隠すことなく、怪獣が描かれたガムの様なお菓子を、買い物かごに放った。
香奈は子供達の一大イベントが終わったのを見届けて、レジに向かった。
子供達にも一袋ずつ持たせて、買い物を終えた香奈は立体駐車場へ向かう。
ミニバンのバッグドアを開けて、荷台にトイレットペーパーや安売りのティッシュペーパー、大量の食品や日用雑貨を入れ込んだ。
「谷村香奈さん、ですよね?」
子供達に注意を促しバッグドアを閉めたと同時に、声を掛けられた。香奈はその若い男性の声へ目線を向ける。
「ど、どうも」
相手を確認した香奈の表情には、若干の困惑が浮かんだ。
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