第34話 別れ

 アルゴの追撃がないことを確認すると、ベルは愛実への憑依を解除した。ヴァネッサとベリアルが後からやってくる。

 「ありがとうございました。ベルさん」

ヴァネッサはベルに対して礼を述べた。

「あ? 何かした?」

彼女はきょとんとして訊き返した。

「何って、私とベリアルを助けてくれたではありませんか。あのまま逃げていれば確実に安全だったにも関わらず」

「あ、あー、そういえば」

「えっ、ベル、考えなしに突っ込んだの!?」

「う、悪かったよ」


 ヴァネッサは愛実に向きなおった。

「愛実さんも、ありがとうございました」

「え? 私こそ何もしてないんだけど」

「憑依は憑依を受ける者の許可なくてはできないもの。あなたも、ベルさんと一緒に戦ってくれました」

「つーか、お前は引っ張りすぎなんだよ」

ベルが口を挟む。

 「え? 引っ張った?」

「気づかなかったのかよ! 体の主導権はアタシにあるのにお前がぐいぐい行くから……何度も死ぬかと思ったわ!」

 言われてみれば、愛実は今まで戦っている自分を俯瞰していたのが、今回は自分の意思で剣を振るっていたような気がした。


 「愛実さん」

ヴァネッサが愛実を呼び止めた。

「愛実さん、まずは私があなたの好意を疑ったこと、謝ります。友人と呼んでくれてありがとうございました。」

「ええ、そんな」

「友人のあなたにだけお知らせしたいことがあります。アルゴ・ローゼンの目的について、私の知る限りを。私には彼が死んだとは思えない。場所を変えましょう、また攻撃をしかけてくるかもしれません」


 「知らなかった、こんな場所が……」

「今朝来るとき見つけたんです。折角ここに住んでるのに知らなかったなんてもったいないじゃないですか」

愛実とヴァネッサは本来の通路でない木々の生い茂る道を進み、森の入り口近くの、開けた場所にいた。そこは小規模な干潟となっており、野鳥が行き来したり水鳥がゆったりと泳いでいた。先ほどの惨劇があった場所の近くとは思えないほど、平和な空気に満ちていた。

 「愛実さん」

ヴァネッサが声色を変えた。

「彼の話をするまえに、まず彼の父親のいたテログループ、『神の剣』、そしてエリナ・ローゼンという司祭について話さなければなりません」

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