第12話 拳戟
「はあぁっ!」
ベリアルの連撃が繰り出されるたび、ビフロンの肉体に拳の焼き印が刻まれる。ビフロンはそれに応戦し、体中を甲羅のような鎧で覆ったが、鉄拳の威力そのもので打ち砕かれる。そしてダメ押しとばかりに回し蹴りを見舞った。ビフロンはその巨体を崩し、転倒した。ベリアルは追い打ちをかけようとしたが、闇の中から飛び出した鞭状の物体に両腕を縛られる。ビフロンが生み出した舌か触手によるものであろう。
「それが限界か」
ベリアルの余裕の笑みは消えない。両腕に力をこめて発火させ、彼を縛る枷を焼き切ってみせた。
塀に手をかけ跳びあがり、勢いのついた、全体重をかけた一撃を怪物に見舞う。肉の焦げるような不快な臭いを発しながら、ビフロンは地へと伏した。
ベリアルは力なく横たわる怪物に近づいて腰を落としてみせた。そして躊躇することなく拳を首筋に打ち込む。一発。二発。三発。一撃ごとに地響きが起こる。怪物はものの数分で、無残な焼死体へと変貌を遂げた。
「は、茶番にも程遠いな」
怪物を屠ってみせた悪魔は怠そうに立ち上がり、消滅しつつある亡骸に唾を吐いて契約者に振り返った。ヴァネッサは一歩も下がることなく、ベリアルの殺戮の全てを見ていた。顔がすすで汚れている。
「……どうした? 何か言ってみろ」
「何か、とは? 私の武器として、これしきのことで増長するのですか?」
ベリアルは面食らったあと、一本取られた、という具合に笑い始めた。
「ふ、ふはははははッ! そうか、私もお前を見誤っていたようだ……いいだろう、今はお前の道具に甘んじるとしよう。お前が絶望に慟哭するまで……私がそれを見届けるまで! 命は預けておく」
「無理な相談ですね、ベリアル。私はたとえ死しても望みは捨てない。あなたの目論見は無意味です」
「良いぞ、ヴァネッサ。強き獲物ほどその肉は美味だ。十分に腹を空かせて待っているとしよう」
朝がきた。二人の戦いが、静かに始まった。
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