魔王と少女’S


 我が名は、アーサー・ペンドラゴン。この世界を支配する魔王だ。皆ひれ伏すがいい。…………なーんて言ってみたり。

 僕の名前、本名は本田ほんだまこと。今はアーサー王からとってアーサー・ペンドラゴンと名乗っている。

 今から数年前。僕は22歳、日本のとある企業で働く普通の新卒サラリーマンだった。が、その就職した企業に問題があった。そこはブラック通り越して漆黒企業だった。新人だからと地獄のような残業。休みも奪われ低賃金。負けてたまるかと死にものぐるいで働いたら、入社から10ヶ月。本当に死んだ。あ、自殺じゃないですよ、布団で寝たままそれはもう気づかないうちに。死因は過労死だそうです。そして気がついたらこの世界に転生してました。

 スケルトンに。

 まさかスケルトンで転生するとは思ってなかった。転生って勇者とか特殊能力者とかもっとかっこいいもんだと思ってたのにスケルトンかよ!

 一応転生特典的なのはついてきた。それがステータスや情報を教えてくれる火の玉、ソウルくんと名付けた。ソウルくんは僕にしか見えなく、声も聞こえないらしい。え、見えない火の玉とか超強いじゃん!と最初は思っていたが、試したものの、ソウルくんの炎はダメージどころか火傷もしない優しい炎だった。出来たのは枝に火を付け焚き火をすることくらい。まぁ、これまでの事をまとめて、簡単に言うと、ライター付きハイスペックパソコンを異世界に持ってこれた。みたいなもんだ。

 よかったことが一つ、このスケルトンは僕だという事だ。どういうことかというとスケルトンになったものの、スケルトンと言う魔物に魂が入ったのでは無く。僕自身がスケルトンになったのだ。歩いてる感じや、掴む感じ、全てが日本にいた頃とまったく変わらない馴染みすぎてた。つまりこれは僕の体であり僕の骨なのだ。火葬されて、納骨されたあと、とばされたのかな。

 最後に問題点だが、これがめちゃめちゃ多い。

 一つ目、超不便なことに、スケルトンのくせに、食事が必要なようだ。腹も減るし、味覚もある。味覚があるのはよかった点かな。

 二つ目、何でもかんでも致命傷。骨折とかシャレにならん。よくある攻撃食らってバラバラになって、またくっついて復活。とかゲームであるけどそんなもんない。やってみようと手を引っ張ったけど痛いだけだから。身を守るために鎧とかを買ったりしなきゃいけないから意外と大変だし、変装して街で買ったりしても高くて金がかかる。これも不便。

 三つ目、これが一番の問題。ブラック企業でのことがトラウマになり、喋ったり、人(魔物とかも)付合いとかが超嫌!だから友好関係を築いてきたのはだいたい喋らない魔物。最近はましにはなってきた。

 四つ目、…………生きる目的がわかりません。せっかく転生したのに魔王倒したりとか目的がないじゃん!あっ、じゃもう、僕が魔王にでもなるか。と、無謀な事を考え、レベル上げたり、魔法覚えたり、特訓したり、強敵と戦ったり、また死にものぐるいで2年。



 なっちゃいました。



 魔王。



 そしてなったはいいものの、その後が大変だった。

 魔王といってもだだっ広い世界全部支配できるわけではない。ので魔王も何人もいる。毎週魔王会議に出席して、報告やら問題対処とかしなきゃいけないし、城で仕事しててもゲリラで勇者やら魔物やら攻めてくるから対処しなきゃいけなかったり意外とやる事がある。


 とまぁ、こんな感じで、僕は今、魔王生活を送っている。

 人付き合いが嫌いといっても、こんなでかい城に1人でいても特にやることもない。魔王規定によって、横、幅、高さ80メートル以上の城に住まなきゃいけない。デカすぎるって。そんな使わないって。

 最近の楽しみは自家菜園だ。全部1人でやってるが、まったく苦じゃない。むしろ毎日の楽しみだ。今朝も新しく使う畑を耕した。本当は種撒いたりしたかったのだけど、そろそろ勇者一行が城に着くだろうから準備をしておかなくちゃいけない。勇者が城に着いたら、魔王が畑仕事やってたなんて、気分だだ下がりだろう。城の見晴台から本でも読みながら待ってるとしよう。

 数時間経った頃、下から話し声が聞こえてきた。のぞいてみると、あ、いたいた、勇者一行だ。あれ、正面じゃ無くて横から攻めいるのか、おぉ、本格的な魔王城攻略みたいじゃ いーーやまてよ。そっち側、今朝耕した場所が。


勇者「行くぞ!」ダッ!


 まてまてまてまてまて!あぁ!せっかく耕したのに!


 魔王は物凄いスピードで勇者一行の前に飛び降りた。

 しまった。勢いで降りてきてしまった。ここは魔王規定通り、魔王っぽく、威厳をもって。


アーサー「問おう。そなたらが、噂に聞くこのガルシュド王国最強の勇者一行か。」


勇者「あぁ、そして、お前を倒す者たちだ。顔、覚えとけ。」ザッ!


アーサー「そうか…」

 アーサー(こーらお前踏み荒らすんじゃねぇ。怒るぞー。流石に怒るぞ。)


 アーサーはため息を着いた。


アーサー「……失せろ……」


 勇者一行がバタバタと倒れていく。

 ふんっ!見たか!我が威圧スキル!攻撃食らったら致命傷だったから初期ガン上げしたもんねっ!近づく前になんとかすれば攻撃は食らわない! さて、倒れたこいつらを、うーん、鎧からしてガルシュド王国だな。

アーサー「テレポーテーション」

 よし、これでオッケー。

 あーあ、また耕さなきゃ、防護魔法貼っとくべきだったなぁ。


 夕方。食事の準備も僕がやっている。まぁ部下とかいるんだが、みんな食事を必要としない魔物だから自分で用意している。部下はやると言ってくれてるだが料理は好きだからね、自分でやる。

 野菜を切っていると、ソウルくんが飛んできた。


ソウルくん「シロマエニ、キシダン、ナニカヲケンセツシテイマス。アト、ナベガフキコボレソウデス。」

アーサー「おっとー、ありがと。ったく、今日は忙しいなぁ。」


 火を止め、手を洗い、着替えて城門へ向かう。

 ったくなにがあるんだよ。ん、なんだあれ?祭壇かなんかか?なんでそんなもの。


大臣「魔王よ!我々ガルシュド王国は、貴殿へ敬意を評し生贄を用意した!我々は貴殿にはもう手は出さない!必要ならばまた生贄を用意する!だから!我々の国への進行を止めてはいただけないだろうか!」


 生贄⁉︎そんなもの要らないよ。食べないよ。進行なんかしてないよ。国襲ってる魔物とか知らないよ。うーん、でもこれは受け取らないと帰ってくれないだろうな。この子たちはあとで送り帰そう。なら魔物対策に国に防護魔法でもはっとくか。よっと。


アーサー「プロテクションマジック:キングダムドーム」

 これでよし。あとは、


アーサー「そなたらの行い、気に入った。ガルシュド王国に防護魔法をかけた。これで魔物からの脅威は無くなるだろう。」

 おおぉ!と派遣隊の全員から歓喜の声が上がる。よしよし。


大臣「ありがとうござい「そして」

 これ以上話したくないし、また生贄持ってこられても困るので。


アーサー「もう。生贄も要らぬ。十分だ。二度と城に近づくな。今すぐ立ち去れ。」

 兵士たちが逃げていく。もーくんなよー。

 さてと、この子たちをどーするか。とりあえず暗くなってきたし中に入れるか。


アーサー「ついてこい。」





 よし、座らせたものの、みんな怯えてるなー。怖いよね。僕。 しかしみんな幼いな、年齢ばらばらだけど、一番上の子で小学4、5年生ぐらいか、そしてみんなかわいいな。あ、ロリコンでは無いですよ。安心してください。そういう意味じゃ無くて、みんな顔が整ってるな。

 さて、ただ帰すと不審がられたり、契約を破棄されたと思われたりするから、王国あてと、この子たちの親御さんあてに手紙でも書きますかな。サラリーマンやってたからな、挨拶の手紙くらいちょちょいのちょいよ。あっ、名前。


アーサー「あぁ…」

 ビクッと5人が震え上がる。


 ごめんねそんなつもりはないんだけどなぁ。そんなに怖いかなぁ。はぁ。


アーサー「そなたらをとって食おうという気などない。今書いているのもそなたらの両親への手紙だ。国に返してやる。名前を順番に言え。」


 僕の言葉に驚いたがそれとともに皆んな困惑した。そして1人が震えた声で答えた。


黒髪の少女「も、も、申し訳ありません。その質問を、私たちには、お答えできましぇん。」


 えっ、な、なんで?


アーサー「それは何故だ?手紙に名前を書きたいだけなのだが。何かを問題があるのか?」

 5人はそっと顔を見合わせていた。


黒髪の少女「え、えっと、その、わ、私たちは、皆、親も名前も無く生きてきたので、手紙に書いていただく名前も、か、返していただく場所も無いので、ど、どう答えたらいいのか、わ、わからなくて、ご、ごめんなさい!」



 えっ。



 じゃあ、こんな子たちが、1人でこの世界を生きてきたのか。

 よく見ると、生贄のためか、身体は綺麗に洗われているが、傷がいくつもある。

 この子達は、この子達の人生は、、、


 そんな事を考えてたら目の前が良く見えなくなった。





 この子達は僕が守らなきゃ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る