2014年1月 有人レジの意味

 年末年始は実家の広島に帰っていた。一応一人娘なわけだし、一年目くらいはちゃんと親に元気な姿を見せないとね。……というのは口実で、実際はほとんど彼氏と過ごしたわけだけど。まぁ、あたしのことはこの辺で。

 埼玉に戻ってきてからの前半は大学のテスト勉強でバイトにはほとんど出られず、気づいたら一月も後半に差しかかっていた。


「お! ケイロくん、久しぶり! 実家に戻ってたの?」

「はい。割とすぐ埼玉こっちには戻ってきてたんですけど、テストだったんで」

「なるほど」


 今あたしはレジに入っているのだが、追本さんはサッカー(商品を袋に詰める業務)ですぐ隣にいる。ビーバーハウスは普段なら常にお客さんが並んでいて、休憩以外ではこんなに話す時間はないんだけど。今日は珍しく暇らしい。


「追本さんは実家、戻らないんですか?」

「僕はまぁ、四月に広島行くつもりだから、正月は帰省しなかったよ。というか、ここ何年も正月には帰ってないよ」

「なんでですか?」

「うちは雪国だからね。正月は帰りたくないんだよね」


 追本さんの実家はあたしと同じ広島とはいえ、県北の山間で結構離れてる。冬はビックリするぐらい雪が降るそうだ。話聞いてると、本当に同郷なの? ってぐらい違う。


「あ、お客さんだ。いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませ」


 あたしはさっとお客さんの方を向き、お辞儀をする。角度は30度。うん。バッチリ! ――と思ったら、あれ? あたしが接客するはずのお客さんは、いつの間にか追本さんの近くに行って話しこんでいる。


「オイモトさん、昨日休みだったでしょ?」


 紫色のシャレたハットを被ったおばあちゃんはニコニコしながらそう言った。


「あら、よくご存じで。そうなんですよー。休みでした」

「やっぱりね! 昨日探したけど、いなかったもの」

「あらら、昨日も来られてたんですねー。いつもありがとうございます」

「そう。あなたに会いにね。今日はいてくれて良かったわ、オイモトさん」

「あららら、それは恐縮です。欲しい商品は見つかりましたか?」

「まぁね。それじゃまた、オイモトさん」

「ありがとうございました。またお越しくださいませ!」


 え? なに? 名残惜しそうにおばあちゃんは帰っていったけど……。


「知り合いなんですか? さっきのおばあちゃん」

「いーや。ただのお客さん」

「え? でも名前呼ばれてませんでした?」

「あぁ……。それなら、ほら」


 そう言って追本さんは胸元の名札をちらつかせた。


「あ、あぁ……。そういうことですか」

「レジってさ、こういうのが大事だと思うんだよね」

「こういうの?」

「人間らしい会話さ。たわいのない、こういうやりとりができることが今の時代には必要だと思うんだよね」


 今の時代って……。どの時代?


「今の時代は、せわし過ぎるとは思わないかね、ケイロくん」


 そう言われてみると確かに、今日は暇だけど、いつもはレジに来るお客さんが途切れることがない。ゆっくり会話をすることもなく、定型文のようなチェッカー用語でお会計をするだけ。いつの間にか、そういうものだと納得しきっていた。


「確かに、言われてみれば」

「僕たちはロボットじゃない。決まりきったやりとりで良いなら、ロボットにやらせれば良い。でも、そうじゃないっしょ。僕らがレジをやる意味って」


 追本さんはそう言って、他のレジのサッカーに向かった。

 あたし達がレジをやる意味、かぁ。そんなこと、考えたこともなかったかも。アルバイトって、意味でやるものではなく、お給料をもらうため。ずっとそう思っていたから。そもそもアルバイトで、意味を求めても良いんだろうか。追本さんは、どういう『意味』を見出しているんだろうか。少しだけ、そのことが引っかかりながらいつも通りレジ打ちを続けた。




【2014年1月接客ランキング結果】

43.78/E

134位/141位


【結果考察】

 あたしがここでバイトを始めてから初めて、全体Eランクに下がった。Eランク取得者は18人のうち7人だって。そりゃそうなるよね。追本さんの元カノさんも10点のEランクだったうえに、お客さんからクレームをもらったらしい。なーんか、新年早々、良い雰囲気ではない。

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