2013年10月 数秘リーディング
「え? すうひリーディング……ですか?」
今日も追本さんと同じ休憩時間だ。顔を合わすなり、なんとなくむかつくホクホク顔を向けてきながら、話かけてきた。
「そう! 銀座でね、見てもらってきたんだよー」
「で、何なんですか? その、すう……ひ……」
「数秘リーディングね。銀座でね」
銀座に行ったこと、おしてくるなー。
「名前と生年月日の数から、その人の一生のサイクルと本質がわかるんだって」
「……それで、追本さんはどうだったんですか?」
「……知りたい?」
……正直、聞きたくなくなった。なんでかって? 理屈ではない、本能的にイラッとくるあのホクホク笑顔。むかつく笑顔って、あるんだ。めっちゃ聞いて欲しそうにこっち見てる。でも誤って聞きたいスイッチを押したのはあたしだから、その責任はとらなきゃいけない。それに断ったら、もっとめんどくさいことになりそうだし。
「……お願いします」
「じゃあお話しよう。僕はね、実はね、三十四歳までは『第一ピナクル』らしいんだ」
「なんですか、その……第一ピクルス?」
「そう。ハンバーガーに入ってる、アレね。結構嫌いな人多いんだけど、アレ無しで食べてみ? 肉汁ばっかりが主張して……って違う違う! ピ・ナ・ク・ル!」
「……で、何なんですか?」
「いや、僕もよくわからんけど」
うん。どうしてくれよう。
「わからんけど、子どもの時期なんだって」
「確かに、追本さんはまだ子どもですねー」
「でしょ? 純粋無垢な、少年なわけよ」
うん。どうしてくれよう。
「ま、よーするに、まだ武器を持っていない時期なわけ。裸一貫、徒手空拳ってわけなのだよ、ワトソンくん」
「いや、私出雲です」
「あぁ、間違えた」
あー。あたし、暴力は大嫌いだけど、この世の中にはこんなにも殴りたくなる人っているんだ。大発見。そしてやっぱりホームズ気分だったのね。
「それでね、九年周期のサイクルがあって、最初の『種まき』の時期にシンガーソングライターとしての活動を始めてたんだ。『創造』の時期には日本一周してるし、『安定』の時期には就職するために訓練校に通い始めたし、『変化』の時期にやっぱり就職することを諦めてる。めっちゃ当たってて、目からウロコだったよ」
「そうなんですか」
なんかいろいろと気になるワードが出てきたけど、話が長くなりそうなので、突っ込まずにおこう。
「それで今は『内観』の時期なんだって」
「内観って、なんですか?」
「己を見つめ直せってことだよ、ケイロくん」
そう言いながら、追本さんは鼻の孔をひくひくさせた。うん。いつの間にか下の名前で呼ばれてるし。それは別に良いとして、ピッタリじゃん。もっと自分を見つめ直そうか、おっさん。
「それで、今追本さんは自分をどう見つめ直してるんですか?」
「いやね、僕音楽やってるでしょ? 果たして本当にこのまま続けていっていいものか、日々自分と対話してるんだよね」
「はぁ……。自分と対話を」
何言ってるんだろう……この人。
「そんな中、実は先日! まさに運命としか言いようのない出来事があってね」
そう言うと、追本さんは祈るようなポーズをし、神妙な顔つきになった。
「音楽事務所に所属しないかっていう話が来たんだ」
【2013年10月接客ランキング結果】
60.27/Cランク
96位/130位(全社)
【結果考察】
再び60点台に浮上。それでもEランク取得者は必ずいるみたい。今月は4人。というか、今までEランク取得者0人をずっと目標にしてるみたいだけど、一度も達成したことはないらしい。だから、いつまで経っても平均点が上がらないということに気づいているのだろうか。
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