2015年11月 ストレングスファインダー

「え? 今からですか? まぁ、日曜なんで大丈夫ですけど」


 珍しく、日曜バイト休みだったのでたまにはゆっくりしようと思った矢先、追本さんから当日出勤依頼の電話がかかってきた。前日とかに、よく他の学生なんかは学校の予定が入って交代を探してるってことはしょっちゅうあるんだけど。当日ってことは、誰かコケたかな。

 あたしはバイトでも学校でも、決まったことはやり通す。というより、前もって決めていた予定をキャンセルするなんて(後に決まった予定がよっぽど重要なら話は別だけど)無責任なこと、したくない。考えられない。


  *  *  *


「ありがとう! ケイロくん、助かったよ」

「いえいえ。たまたま用事なかったんで。家でゴロゴロするぐらいなら稼ぎますよ」

「た、頼もしいぜ……!」


 追本さんはそう言って親指をぐっと突き立てた。


「っていうか、誰か突発で休んだんですか?」

「そう。二人も。しかも連絡なし。一人分はどうにか回せそうだったんだけど、さすがにもう一人分は無理でね。いつも日曜出てくれてるケイロくんが珍しく休みだったから、速攻連絡したってわけ」

「なるほど」


 その二人というのはいつもつるんでいる女子大生二人組だった。それって、二人で遊びに行くために休んでるよね、絶対。しかも無断欠勤なんて。そういうの、一番許せない。


「今日終わった後、お礼にご飯おごるよ!」

「いや、悪いですよ」

「良いって良いって! そんじゃ今日もよろしく!」


 普通に追本さんと二人っきりってのが嫌だったんだけど、断りきれなかった。仕方ない。


  *  *  *


「いやー、今日は本当に助かったよ」

「別に大丈夫ですよ。あたしも稼げましたし。ってか、あの二人って絶対サボりですよね」

「恐らくね。今までも似たようなことはあったけど、無断欠勤は初めてだったなぁ」


 近くのラーメン屋さんで注文をした追本さんは、そう言いながら笑っていた。


「笑い事じゃないですよ! どうかしてますよ、その二人」

「ふむふむ」


 ?? 追本さんは妙に納得したような顔をしてうなづき始めた。


「なんですか、突然」

「いやね、最近ストレングスファインダーっていうのやったんだけど」

「なんですか、その必殺技みたいなの」

「……確かに必殺技っぽい名前だけども。これはね、ギャラップ社ってとこが提唱してる『三十四の強み』のことだね」


 なんだかますます技っぽくなってますけど。好きそうだもんなー、追本さんそういうの。


「で、それがどうかしたんですか?」

「いや、たぶんケイロくんは『責任感』の才能が強いんだろうなって思ったんだよね」

「『責任感』ですか」


 自分では自覚はしたことない。あ、ラーメン来た。


「今回みたいに、急な要請にも応えてくれるし、基本バイト休むことないし。それに何より、今日ドタキャンした二人に対して怒りを覚えたね?」

「当たり前じゃないですか」

「でも、ケイロくんに被害があったわけじゃないし、結果的に誰も傷つかなかったよね」

「そうですけど、無責任じゃないですか。ドタキャンって、ありえなくないですか?!」

「ふっふっふー。ふぉれだよ、ふぉれ」


 追本さんはラーメンをすすりながら、そう言った。


「それって、どれですか?」

「つまり、その無責任さが許せないってことだよ」


 ?? そんなの、当たり前過ぎて、才能となんの関係があるのかわからなかった。才能ってもっとこう、誰かのために役立てたり、お金を稼ぐ上で必要だったりするスキルのことじゃないの?


「才能って、今のケイロくんみたいに、無自覚な場合が多いんだよね」

「なぜです?」

から、だよ」


 またいつものように、まるで心の中を透かしたようなことを言ってくる追本さん。それはともかくとして、そんなのが才能なの? なんかもっとすごいことだと期待してたのに。もっとこう、必殺技とか奥義とか、そんな感じだと思ったのになんか、肩透かし。


「ケイロくんがもし『責任感』っていう才能を持っていたとしたら、それが当たり前過ぎて、みんなも当たり前に持ってるもんだと思うわけ」

「いや、みんな持ってますよね」

「それがなー。みんながみんな、持ってるわけじゃないんだなー」

「そうなんですか」


 今までそんなこと、考えたこともなかった。だって、責任感とか、社会に出る上で必要不可欠なものだと思ってたし。


「ま、ちなみに僕は五つの才能の一つが『責任感』だから、ケイロくんの気持ちはすっごくわかるけどね」

「五つ?」

「そう。僕の才能は『学習欲』『達成欲』『収集心』『責任感』『戦略性』の五つだね」


 うん。追本さんっぽい。しかもちょっとなんか、五つの才能とかかっこいいとか思ってしまった自分がいる。


「あたしにも五つあるんですか?」

「あるよー。誰にも五つ。まぁ、厳密には誰でも三十四の強みを持ってるけど、その上位五つを特に際立った才能だって定義してるみたいだけどね」

「でも、それを知ることで良いことってなにかあるんですか?」


 あたしがそう聞くと、追本さんはラーメンの汁を全部飲み干して、鼻の頭をテッカテカにしながら言った。


「武器になる」

「武器?」

「そう。自分が持ってる武器も、それがどういうものなのか知ってるのか知らないのかで、かなり違ってくるんだよね。例えば、僕はもともとコミュニケーション能力が低い方だったんだけど――」


 嘘だー。ビーバーハウスのチェッカーリーダーのテラさんが前に言ってたんだけど、追本さんはだって。つまり、ここのチェックサービスに入った人は、まず追本さんとのやり取りをして、職場に馴染んでいくって。あたしもそう思ってる。あたしも同郷だってことを差し引いても、これだけ話せる年上の人、身近にいない。そんな追本さんにコミュニケーション能力がないなんて、太陽には熱がないですって言ってるようなもんじゃん。あり得ない。


「今、あり得ないって思ったでしょ?」

「いえ……別に……」

「わかる人にはわかるみたいなんだけどね。コミュニケーション能力というか、共感力がないんだよね、僕。だから、『学習欲』っていう才能を使って、学んでるわけ。先月も共感力のセミナー、行ってきたばっかだし」

「そうなんですか」


 ってか、そんなセミナーどこから見つけてくるんだろう。


「そう。上位五つの才能は、知ってみれば使い勝手が良くってさ。『学習欲』で『収集』したものを『戦略的』に使って、『責任感』をもって目標を『達成』する。こうすることで、無理なく自分を活かせるってことね、僕の場合は」


 確かに、その言葉には説得力があった。まさに追本さんって感じがする。


「ないものを追いかけるんじゃなくて、長所で補うことができるってわかったら、ずいぶん気が楽になったよ。ぜひ、ケイロくんもやってみることをオススメするね」

「そうですね。機会があればやってみます」


 自分の長所、かぁ。追本さんの言う通り、自覚のないものが才能だとするなら、思いもしないものなのかもしれない。無理して自分を作る必要もなくなるってことなのかな。ただ、今の自分が本当の自分なのか、作っている自分なのかすらまだわからない。自分の武器を手にするのは、それからでも良いかな……と、少しだけのびたラーメンをすすりながら思った。




【2015年11月接客ランキング結果】

59.72/Cランク

169位/190位(全社)


【結果考察】

 今月はEランク取得者5人。でも、今までずっとEランクだった郷道さんっていう女の人が初めて70点のBランクを取ったらしい! 追本さん達はすっごく喜んでた。本社にも呼び出され、お客さんからクレームももらって、何度指導しても変わらなかった郷道さんが……って。やっと指導の成果が出てきたんだって喜んだのも束の間。その70点を取った翌週にもう一度当たり、再びEランクになってしまっていた。あたしもそうだったけど、高得点を取った後こそ、気を引き締めないといけないのよね。さぁ、次の指導はどうやっていくのやら。


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