2014年12月 高校生会

 年に数回、ビーバーハウスでは不定期にセールをやる。ポイントカードを持っているお客様に告知のハガキが届き、それを毎回提示してもらうスタイル。最近はどのお店もラインに届く割引とかどこもやってると思うんだけど、いまだにハガキを送るのはちょっと古いんじゃないかなー。とはいえ、やっぱり十二月のセールは一年で一番忙しい。今月前半のセールも、怒涛の忙しさだった。


「今月も忙しかったですね」

「そうね。今回こそノーミスでいきたかったけど、やっぱ無理だったなぁ」

「そんなにミスあるんですか?」


 あたしはミス少ない方だから、体感的にはそんなにミスが多いとは思わなかったんだけど。


「結構多いよー。今回は入れ忘れとかもあったから、草野さんと届けに行ったりとかね」

「え? 届けに行ってるんですか?」

「そうだよー。みんなの知らないとこで苦労してるんだよ、これでも」


 追本さんはそう言って笑った。そっか。委託業務だから、そういうミスの対応とかも全部こっちでやるのか。自分達が知らないだけで、リーダー達はいわゆる尻拭いをやってくれている、ということだろう。


「なかでも、高校生のミスが今回目立ったねー」

「急に増えましたもんね、高校生」

「そうそう、珠奈たまなの紹介で五人ぐらい一気に入ったからね。そしたら今まで全然来なかった他の高校生からも、バンバン応募が来るようになるっていう不思議現象」


 うちチェックサービスのアルバイトで高校生と言ったらタマちゃん(珠奈ちゃんのことを追本さん以外はみんなそう呼んでる)と千鶴乃ちづのちゃんの二人だけだった。それがいつの間にか、十人ぐらいに増えていた。そうなると、どうしても社会経験の少ない高校生達のミスが際立ってくるのだろう。人のこと言えるほど、あたしも社会経験あるわけじゃないけど。


「そこで、だ。良い機会だから、高校生会やろうかなって」

「なんです?」

「ほら、大学生以上だと飲み会やってさ、みんな仲良くなれる機会ってあるじゃん? でも毎回高校生NGでかわいそうだなーって思ってたのよ」

「それは、確かに」


 チェックサービスのリーダー達はみんなまじめで、そのへんはしっかりしてた。あたしも誕生日三月でまだ二十歳になってないから、飲み会には行ってもアルコールは飲ませてもらえない。と言っても、そこまで飲みたいってわけじゃないから、全然大丈夫だけど。


「でしょ? 今までは二人だけだったから仕方ないかなーって思ってたけど、さすがに今の人数いたらなんかやってあげなきゃって思ったわけさ」

「それで、なにやるんです?」

「とりあえず、ご飯でも連れてってあげようかなと」


 うーん。高校生が果たしてそんなので喜ぶだろうか。


「まぁ、良いんじゃないですかね」

「ボーリングとかも考えたけど、じっくり話したいし」


 いやー。あたしだったら、おっさんとじっくり話すより、ボーリングでわいわいしたいな。でもそれはきっと傷つくだろうから、言わないでおこう。


「楽しんできてください」

「え? ケイロくんは行かないの?」

「だって、高校生会でしょ? あたし、もう大学生ですから」

「そっかー、残念。じゃ、おっさん頑張ってくるわ」


 あたしが追本さんをおっさんって思ってること、ばれてるのかなー。顔に出てるのかな……。気をつけよう。


  *  *  *  *  *


 今年もあと十日かぁ。ほんと、師走っていうぐらいあるね。高校生の頃は毎日があっという間で、毎日が忙しかったような気がする。でもあの頃とは、なんか違う。時間の経ち方も、将来のビジョンも……。高校生といえば、追本さんの開催したやつ、どうだったんだろう。今日はまた休憩時間かぶるから、聞いてあげるか。


「そういえば高校生会、どうでした?」


 いつものようにおにぎりを一個むしゃむしゃ食べる追本さんに話しかける。


「うーん」


 食べる手を止め、珍しく曇った表情を見せる追本さん。


「微妙だったんですか」

「まぁ、微妙といえば、そうかもね」


 なに? この煮えきらない返事。


「っていうか、みんな来たんですか?」

「んー、半分より多いくらいだったかな」

「結構集まったじゃないですか」

「そうなんだけどね。本当は全員来て欲しかったのと、もっとためになる話をしてあげたかったのになーって思って」


 なるほど。それで浮かぬ顔してたのか。


「それは高望みしすぎですよ、追本さん。ってか、バイト先の上司にご飯に誘われて来てくれる高校生がえらいと思いますけどね。あたしだったら――」

「行かない、と」

「はい。今だったら行けますけど。高校生の時って、バイト以外のことが忙しいでしょうし。実際あたしも忙しくてバイトできなかったですからね」


 追本さんは高校時代なんてもう何年も前のことで忘れてるかもしれないけど。


「いやー、僕高校の時、居酒屋でバイトしてたけど、先輩達にはすごくお世話になったし、いろいろ遊びに連れてってもらってたからなぁ」

「そうなんですか?」

「うん。宮島の初詣一緒に行って、外人さんが超騒いでたの、覚えてる」

「だから追本さん考え方が老けて……いや、豊かなんですね」


 おっと、危ない危ない。つい本音がもれそうになった。


「僕はさ、今までアルバイトしかしたことないけど、今の自分があるのって、アルバイトで出逢った人達のおかげだと思ってるんだ」

「そうなんですか。今までどれくらいバイトしてきたんです?」

「んー。三十くらいかな」

「さ、三十!?」


 どんだけバイトしてんの、この人……。


「だから、今度は僕が若い子達のためになるようなこと、言ってあげたくてね」


 うーん。良いこと言ってるんだろうけど、ほんとジジくさいというか、なんというか……。そういうのを、余計なお世話っていうんだと思うんだけどなー。


「どうやったら響くんだろうなぁ」

「考え過ぎですよ。そのうち、年取ったらみんな気づきますって」

「そうかなぁ」

「そうですって」

「そんなもんかなぁ」


 今日はいつにも増して、しつこい。


「確かに、珠奈はおもしろかったです、ありがとうございましたってラインくれたし。ま、やって良かったということにしとこう!」

「そうですよー。あたしも行けば良かったなー」

「よし、じゃあ今度二人で飲みに行くか!」

「あたしまだ飲めませんって」

「あ、そうだった」


 そう言うと、寂しそうにがくっと肩を落とす追本さん。なんか、娘に拒絶されたお父さんみたい。あたしの本当のお父さんも、一緒にお酒を飲める日を楽しみにしてるのかな。うちは全然そんな素振りしないから、わかんないけど。でも、年を取ると追本さんみたいに、若い子に絡みたくなるのかな。自分の若い頃の教訓を聞かせたくなるのかな? ただ、この人の場合、それがよからぬ方向に行かなきゃいいんだけど……。




【2014年12月接客ランキング結果】

49.25/Dランク

145位/160位(全社)


【結果考察】

 先月よりまた下がっちゃったけど、Eランクは3人。繁忙期の点数にしては、良かった方だと……思いたい。全然良くないけど。まだ目に見えて指導のようなことはしてないけど、追本さんは水面下でなにか進めているんだろうか。業務外ではいろいろやってはいるものの、なーんか実にならないようなことばっかりやってるように見える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る