第7話 異臭騒ぎとおかしな決意
そこからは、おかしな義務感に支配されたライブとなった。
実習生のファン仲間はアタシの存在に驚きつつも、やけ酒をしようと誘ってくれたが、実習生はそれを断り、地元に戻ってから、下宿近くの定食屋にアタシを連れて行った。
きっと、アタシがいなければ深酒して適当に夜を明かし、翌日帰宅する事も出来ただろう。
こんな時に、また気を使わせてしまった。
「分かってるんだよ……本来は喜ぶべきなんだよなぁ……」
何とも言えない空気だった。
気持ちは分かりかねるが。
「俺なぁ、中学の頃なぁ、無気力でさぁ、でもあの声優知ってさぁ。同じ中学出身らしくてさぁ、すげー頑張る子なんだよぉ。それ見て出来る男になろうって思ってよぉ、あの子が通ってたって県立……俺達の高校だけどよぉ、レベルたっけぇのに死ぬ気で勉強して受かったんだよぉ……分かってんだよぉ……もうあの子も十七歳だけど三十過ぎてるしさぁ……」
「は? どっち?」
いや、あの肌ツヤは女子高生ではないか。十七歳までが芸名みたいなものと受け取るべきなんだろう。
三十過ぎかつデキ婚までしておいて二つ結びをしているのか。なかなかに凄い度胸だ。
「でもよぅ、せっかくレベル高い県立入ったのにお前と同じ苗字の輩どもにいじめられて学校いけなくてよぉ。先生に助けてもらってよぉ……」
「え? あ、ごめん……え? 泣いてるの?」
これがいわゆる泣き上戸か。
実習生はアタシの意味不明な謝罪に何の反応も示さず、ただ涙を流し続けていた。
「寒い……寒い」
「氷いっぱい入ったお酒ばっかり飲むからでしょ」
カウンターのポットから熱い緑茶を汲んで差し出したが、実習生はそれに手を付けてはくれなかった。
「お腹痛い……お腹痛いよぉ」
うわ言のようにつぶやいてから急に立ち上がると、会計をし、ふらふらと店の外へと出て行ってしまった。
「ちょ、っちょっと! 置いて行かないでよ! アタシの事そんなに嫌いなら言えよ!」
「違うんだよぉ……違うんだよぉ」
だったらなんだと言うんだ。ここまで泣いて突然店を後にして。
「なんでも違うって言うのは女子高生用の言葉なんだよ! 何が違うんだか聞いてんの! ……あ」
言われなくても分かってしまった。
酷い匂いが立ち込めてきた。まったくもう。
「だって、だってぇ……」
「何してんの! ほら! 座り込んでないで風呂入るよ! キリキリ歩け!」
普通に考えたら酷いもんだけど、アタシは何故か、今だと思った。
今初めて、この人の役に立てると。
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