Ep.17 一歩
漫画なんて読むのはいつぶりだろう。中学の頃は漫画を読むのが好きでWeb漫画も含め、色んな作品を読みふけった。だけど、いつからだったか僕は漫画を読むことを止めた。
主人公はヒーローだった。異世界ファンタジー、冒険をしながら沢山のキャラを救って仲間になったりしながら世界の最果てを目指す、そんな物語。
蓮村さんは僕に「主人公になってください」と言ったし、主人公は僕みたいなやつなんだろうと思っていたけど――なんだ全然違うじゃないか。
お人好しで、誰かを助けるのに理由はいらない! みたいなことを言ってしまうようなカッコ良さも持ち合わせていて、だけど時々可愛い面もあるそんな主人公だった。蓮村さんには僕がこういう風に見えていたのだとしたら、僕はとんでもなく悪いやつだ。騙していたことになるんだから。
「……はぁ」
蓮村さんは凄い。涙目になりながら、僕は最新話の「休載」を読み切った。休載とは書かれているものの、一枚絵とコメントが載せられていて、漫画家なんだなと思い知らされた。こんな子が彼女だったのか。元々、蓮村さんは可愛いだけじゃなくて、ストーカーで時々かっこいいと思っていたけど、僕が知っていた蓮村さんはほんの一部だったんだと思い知らされる。
『いつも「世界の終わりには幸せな結末を。」を読んでくれてありがとう! ごめんね、来週は休載にします。
主人公君はもうすぐ世界の最果てにたどり着きそうだね! でもやっぱり悲しいこととか乗り越えなきゃいけないことも沢山あるから、私が力を貸そうと思う。ハッピーエンドなので、みなさん心配しないでね。主人公君は作者の私をも助けてくれたから、絶対私が幸せにする! これは決定事項なの。例え私の望む結末とは違っても主人公君にとって、ヒロイン、他のキャラにとっても最良の結末を。
では最後に一枚絵置いときます。再来週会いましょう!』
僕はいつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
夢を見た。
夢の中で帆乃は困ったように笑って僕を見つめていた。
「
また貴也君だ。帆乃も弥英も一体なにを心配しているんだろう。でも、そうだよな。僕は貴也君を避けていた。だけど本当は一番避けちゃいけない存在だったのかもしれない。
まずはここから。怖くても踏み出さなくちゃ。
学校を終えた僕は、貴也君に会いに行った。確か、貴也君は部活をやっていたはずだから校門前で待っていれば会える、そういう算段だった。案の定、貴也君は六時頃校門に現れた。
「貴也君」
声を掛けると、今まで楽しそうに周りの友達と笑いあっていた貴也君の表情が一変する。
しかし、周りに気を遣ったのだろう。貴也君は僕にも愛想良く「どうしたんですか、こんなところで」と怖いくらい普通に聞いてきた。
「ちょっと話があって」
「…………話ですか」
「貴也、俺たち先帰ってるから気にしなくて良いぜ」
僕と貴也君の事情なんてきっと知らないんだろう。明るい調子で友達の一人が言うと、貴也君は「サンキュ」と短く返した。
き、気まずい。自分から会いに来ておいてなんだけど、やっぱり自分を嫌っている相手に対してどう接すれば良いのか分からなかった。
「迷惑なんですけど」
「ごめんね、いきなりで。事前に連絡したら会ってくれないと思って」
「……この前のことなら謝りませんよ」
「うん、貴也君のせいじゃないから。今日は別の話をしに来たんだ」
貴也君があからさまに顔を顰めた。僕は苦笑いをこぼしつつ「手短に済ませるから」と近くのファーストフード店に誘った。
帆乃が生きている頃、僕は貴也君にどう接していたか思い出せない。だけど昔がどうだった、とか、帆乃がいないから、とか色んな理由を言い訳にして貴也君から逃げることはもうやめた。僕はマフラーのおくで歯を噛みしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます