Ep.14 ダブルデート②


 ベンチに座って一旦休憩を挟む。

 亮が自動販売機で飲み物を買ってきてくれた。 


「おいおい、一発目だぜ?」


 魂が抜けかけた僕たちに向かって苦笑いをこぼす。


「ごめんね二人とも。絶叫系苦手でも乗れば大丈夫かと思って」

「いえ、先輩のせいじゃないですよ」

「そうそう、伊奈々ちゃんは全然悪くないから」

「おうおう、俺と対応が違くないですか!?」


 メガネをぐいっと上げて僕に顔を近づける亮を片手で押し返す。

 水を飲むと少しは落ち着いた。

 亮は反省したのか、マップをみながら唸っている。


「この劇場型アトラクションってやつは? 今、待ち時間少ないみたい」


 スマートフォンを操作していた伊奈々ちゃんが亮のマップを覗き込む。


「確かにそれなら大丈夫そうです! 藤先輩はどうですか?」

「うん、大丈夫かな」

「じゃあ、そろそろ行きましょうか?」


 元気を取り戻した蓮村さんが反動をつけて立ち上がる。僕の手を引いた。


「逆じゃない?」


 僕が聞くと、蓮村さんは「たまには有りです」と鼻を鳴らした。



 亮と伊奈々ちゃんに連れられてアトラクションを回っていく。なかなか混んでいる。絶叫系のアトラクションの前を通ると210分待ちと出ていて若干引いた。

 僕はこういうエンターテインメント施設に来ることはほぼ無い。だから、見るもの聞くもの全てが新鮮だった。


 昼時になって、僕たちは近くにあった店に入ることにした。


「うっわ〜、時間も時間だしすっごい込み具合。私ちょっと中見てくるよ!」


 ドアから溢れ出す人混みに四人して顔を歪める。伊奈々ちゃんが「ちょっとここで待ってて」と中を見に行ってくれることになった。

 その間にというわけでもないけど、僕もトイレに行っておくことにした。足の向きを変えると、「トイレか?」と亮が聞く。


「すぐ戻るよ」

「オーケー、いっといれ!」


 ハイテンション極まって、酷い。

 僕は「うるさい」と一蹴して蓮村さんと亮に背をむけた。


 トイレを済ませ、二人の元に戻ろうとすると植物の影から何やら深刻に話し込んでいるのが見えた。特に亮がこのタイミングで、あんな真面目な顔をするとは思えなかった。


「まさか、告白……?」


 口に出して、いやいや……と思う。伊奈々ちゃんという彼女がありながらそれは無いか。

 僕が一歩ずつ近づくとある程度の所で会話が聞こえた。


「へぇ。八尋も愛されてるねぇ」

「はい!」

「でもあいつは結構大変だと思うよ? 俺は知らんけど色々背負ってるみたいだし」


 僕の話だった。足を止める。

 亮は僕が何も言わないことに気がついていたのか。気づいても聞いてこないところが、亮の優しいところだ。

 蓮村さんは「大変?」と亮に聞き返す。


「戦わなきゃかもね、色んなものと」


 意味有りげに言う亮に蓮村さんは笑い声を漏らした。

 「なんだ、そんな事ですか」と続ける。

 

「私は――先輩を笑顔にする為なら何だってします、なにとだって戦えます。私がその苦しみの連鎖から救います! 藤先輩が幸せになれない未来なんて許しません」


 僕は手の平で口元を覆った。


「またあの子は……格好いい事を……」


 蓮村さんには叶わない。

 すると直後、ふははははは! と腹の底からの笑い声が聞こえてきた。亮だ。


「くっそ〜、あんなやつがこんなに想われてるなんて! 羨ましいなこの野郎」


 気がつくと亮のテンションがまた元通りに戻っていた。


「あれ八尋君?」


 後ろから声が掛かる。


「席取れたよ?」

「あ、本当? ありがとう伊奈々ちゃん。二人に伝えてくるよ」


 僕は小走りに二人の前に姿を現した。


「席取れたって」


 そして座っている蓮村さんに、今度は僕が手を引いた。


「伊奈々ちゃんが向こうで待ってる。行こう」


 蓮村さんは一度驚いたような顔をしたあとで、くしゃっと笑った。


「……はいッ」


「あのさ、俺もいるんだけど」


 気まずそうに小さく挙手する亮に、僕は一気に恥ずかしくなった。

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