Ep.13 ダブルデート①
ダブルデート当日はあっという間にやってきた。電車で小一時間ほど行った所にある遊園地の入口には既に蓮村さんと亮が待っていた。
珍しい組み合わせだ。意外にも楽しそうに笑う二人を前に「八尋君!」と伊奈々ちゃんが僕の肩を叩いた。
「おはよ〜。やっぱり休みの日だから、結構混んでるねぇ……」
「おはよ。まぁその辺はしょうがないよ」
混んでいると言っていた割りには、あまり嫌そうじゃない伊奈々ちゃんを一応なだめておく。
「あれ、もしかして亮君たちもう来てる?」
伊奈々ちゃんが目を細めながら問う。
「来てるよ」
僕は指を指す。今日に限っては伊奈々ちゃんの目が悪くて、良かったかもしれない。
「なんだと!? 亮君のくせに早いな! 八尋君行こ!!」
「行こって、ええ!? 走るの?」
「ダァッシュ!」
伊奈々ちゃんが力強く走り出す。なんて言うか、パワフルだ。
やれやれ、と笑いながら僕もその背中を追う。
「やあ、お二人さん。おはよう!」
「藤先輩、息が切れてても素敵ですねっ」
「私は?」
伊奈々ちゃんがいらずらっぽく尋ねる。
蓮村さんは一瞬だけ目を丸くして、
「はい、もちろん先輩もです」
と微笑んだ。
「わーんっ! ありがとう胡麦ちゃん!」
伊奈々ちゃんが蓮村さんに抱きつく。
「なんか、すいません。独り占め」
困ったように蓮村さんが謝ると、亮は「いや!」と首を振る。
「ごちそうさまです。な!」
同意を求めるな。
僕は顔を顰めた。
開演時刻。僕達はそれぞれ事前に買っておいた前売り券で、遊園地の中に入った。
ジェットコースターから、体験型アトラクションまで幅広いアトラクションがある。僕と蓮村さんは絶叫系があまり得意ではなくて、亮と伊奈々ちゃんは絶叫系が大好物だと言っていた。
蓮村さんと二人で乗らされないようにしよう、と笑い合う。
もし乗らされそうになったら逃げてしまえ。
「そういえば蓮村さん、仕事の方はどう?」
「先輩が主人公のやつですか?」
したり顔で僕の顔をのぞき込む。
「どこ行こうかー?」とパンフレットを広げながら前を行く亮と伊奈々ちゃんの後を追いながら、僕は続く言葉を待つ。
「はい、結構人気です。さすが藤先輩。ちょっと妬いてしまうくらいです」
「僕、人気なんだ?」
蓮村さんの描く漫画が凄いんだろうな、とは思うけど蓮村さんに合わせて「僕」が人気という事にしておく。
「当然の結果です! ……先輩、私絶対幸せな結末にしますね」
意気込む蓮村さんに僕は聞き返す。
「絶対?」
「私の物語は絶対ハッピーエンドなんです。だから、先輩にも幸せになってもらいます。……これは義務ですよ?」
義務か。
少し驚いたけど、蓮村さんらしい気もする。
「義務なら、しょうがないね」
蓮村さんが嬉しそうに笑う。
「はい」
そんな僕らを、意味あり気な表情で振り返った亮と伊奈々ちゃんは衝撃的な一言を発した。
「行くぜっ」
「ジェットコースター!」
二人とも満面の笑みである。
「ジェ、ジェットコースターですか?」
「いや一発目からそれは……」
「四の五の言わずに、乗っちゃえば楽しーから!」
「聞き分けの無い男は嫌われるぞ、八尋」
二人が強引に僕と蓮村さんの腕を引く。
「いや待った、本当にまずい」
「う、うぅぅ、冗談ですよね?」
しかし抵抗も虚しく、あっという間に並ばされ、あっという間に乗せられる。顔面蒼白、口から魂が出そうだ。
「せ、せ、先輩」
「どどど、どうしたの蓮村さん」
動き出したジェットコースターの上で頼りない声が言う。
と、しかしジェットコースターはついに頂上付近に到達。
「あの、手を、握っても……」
あ、落ちる。
僕の顔が引き攣るのが分かった。
「良いですかあぁぁぁぁーーー!!!! 無理無理むりむり、無理ですーーーーっ!!!! いやぁーーーーー!」
隣で蓮村さんの絶叫が聞こえるも、今の僕に返事をする余裕は無い。
急降下、急上昇、また急降下。
心臓が浮きっぱなしだ。風が顔面に吹き付ける。
そしてさらなる急降下……。
あ、もう駄目だ。
「お疲れ様でしたー!」
キャストの人が明るい笑顔を向けてくる。
ガタン――、とジェットコースターが止まる。
や、やっと終わった。
気がつくと僕と蓮村さんはいつの間にか手を繋いでいて、未だに手がぎゅっと固定されている。お互い、物凄い力で握っていたらしい。
気の抜けた蓮村さんに「降りようか」と、疲れ切った声を掛ける。
全く、僕たち二人とも格好悪い。
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