Ep.12 完璧な彼女
冬休みが終わって久しぶりに学校に行くと、僕と蓮村さんの噂のほとぼりも冷めていた。
教室に着くと伊菜々ちゃんが僕の席に座る亮と何やら楽しそうに話していた。
「おっ! やっと来たな。重役出勤か 」
挨拶も無しに亮がにやりと笑う。
「おっ! じゃない。そこ僕の席だぞ」
「知ってるさ。だがな座るのは自由だ」
やれやれ、とため息を付きながら机の上に鞄を置く。すると、伊菜々ちゃんが申し訳なさそうに両手を合わせた。
「八尋君、亮君がごめんね〜」
「いや、いつもの事だからもう慣れたよ」
「えっ! いつもこんななの?」
「こんな、とは失礼な!」
「もう、亮君!!」
反省しない亮に伊菜々ちゃんが頬を膨らませる。
「そうだ八尋、今度ダブルデートしないか?」
突然の提案に僕は眉根を寄せる。
「……それ亮が蓮村さんに会いたいだけだろ?」
「バレたか」
そう肩を落とす亮にひどい剣幕の伊奈々ちゃんが詰め寄る。
「ちょっと亮君!?」
ほら見ろ。
「なっ、八尋〜!!」
「僕に助けを求められても」
軽く笑ってあしらう。
「……っすいませんでしたぁ!」
「……潔いいから許す」
「さすがマイハニー伊奈々だぜぃ!」
「良かったな亮」
落ち込んだり叫んだり喜んだり、忙しいやつだ。
「とりあえずダブルデートの事は白雪姫ちゃんに話しといて貰える? 私も仲良くなりたいし」
「まぁ、伊奈々ちゃんが言うなら」
僕は意外に思いながら、承諾する。
思っていたよりもこの二人はお互いが好きなのかもしれない。
放課後、蓮村さんにダブルデートの件を話してみると即OKだった。
「本当は藤先輩と二人きりが良かった、なんて言ったら怒りますか?」
駅まで向かう帰路の途中で、蓮村さんが控えめに僕を見上げた。
「怒らないけど、蓮村さんは僕と二人で楽しいのかなって思ったり」
「楽しいですよ、もちろん」
困ったように笑う蓮村さんの横顔に、何だか無理をさせているような気がしてしまう。この前、帆乃の墓参りに行ってから、僕は元々なかった自信をさらに喪失していた。
「僕、蓮村さんがそんなに好きになってくれるほど良い人間じゃないよ」
さらっと、そんなことが口をつく。
「……そんな事無いです」
蓮村さんの声が強ばる。僕が帆乃を殺した事を知ったら、蓮村さんはきっと。
「……僕に幻滅すると思う」
「……しないですよ、幻滅なんて」
あからさまな作り笑いが僕に向く。無理をして口角を上げているのが分かった。
「蓮村さん、」
「そうやって……藤先輩はいつか私に別れようって言うんですか?」
蓮村さんが穏やかな声でそう問い掛ける。もう笑えないのか、その表情に笑みはない。
「例えそうでも、私は別れません。別れるわけないじゃないですか。生まれてきて藤先輩に出会えた、この出会いを自分から
だんだんと声が小さくなっていく。蓮村さんの想いが痛かった。なんでここまで想われてるのか分からないだけに、怖い。
「僕が酷い人間でも?」
「それでも私は……っ」
蓮村さんが声を上げる。
「…………」
「…………言わせるんですか?」
何度でも言ってくれないと、安心出来ないのだ。どれだけそこに想いがあろうと、信じられないのだ。
「ごめんね、僕は酷い人間だから」
俯きかけた顔を上げる。
瞬間、蓮村さんの瞳が潤んだ気がした。
「……先輩ずるいです。……っそれでも私は先輩がこの世界で一番好きで、大好きで、堪らないんです」
安堵と一緒に、自分の最低さに嫌気がさした。僕は最悪だ。蓮村さんの好意をいいことにそれに甘えて、頼って、ここまで言わせた。
僕は自嘲的な笑みをこぼした。
「いつか、話すよ。蓮村さんに言えてないこと」
「はい、待ってます」
「ありがとう、蓮村さん」
――ピ。
「ほら、そんな優しい声で言うから、録音しちゃったじゃないですか」
そう微笑んで、ボイスレコーダーを僕に向ける。
「え! 撮られた」
「撮っちゃいました。永久保存版です」
「くく……ぁははは。そんな自信満々に言うこと?」
こうやって、僕を笑わせてくれたり、空気を読んでくれたり、どこまでも蓮村さんは彼女として完璧だ。可愛くて、素直で、面白くて、どこまでも純粋だ。
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