Ep.5 主人公になってください!①
選んでもらった服は、あ〜こういう服着たやついる!! みたいな感じの無難だけど良い感じの服でさすがリア充は違うんだなと思い知らされた。
夕飯を
味噌汁もご飯も美味い。
食べながら弥英が何か言いたげにちらちらと僕を見てくるので僕は「なに?」とわざとらしく言った。
「兄貴が告ったの?」
「ゴボォッ、ゴホゴホゴホ……!! ……っいきなり過ぎないか? むせちゃったよ!!」
「気になるじゃん」
何が楽しくて妹と恋バナ♡をしなきゃならないのか……。
「……向こうから」
「…………っぷ、ぅはははは、あははは!!! は〜おかしい! やばいな、嘘でしょ、やっば〜!!」
「笑うなよ!! ていうか嘘じゃないからな!?」
言っても笑い止まない弥英にそろそろ我慢の限界で僕はその日、悶死した。
デート当日。約束の時間の30分前に、僕は駅に着いた。蓮村さんの事だから早めに着いてそうだし、と思っていたのだが、さすがに30分前にはいなかった。
今のうちに今日の予定を確認しておこう。妙に緊張しながら、ふぅ、と息をつく。
まずは映画館。その後、昼をどこかで食べて……蓮村さんの行きたいお店に行く。
映画館があるショッピングモールは、店の数も多いし行く場所には困らないはずだ!
「…………」
妙にそわそわしてしまって意味もなくスマホを触る。蓮村さんからの連絡はない。約束の時間まで後15分だ。
「……っどーん!!」
いきなり背中に衝撃が走った。力は強くないけど突然だったこともあって、僕はつい声を上げた。
「うわっ!」
「驚きましたかっ? せーんぱいっ」
そう顔を覗かせたのは、蓮村さんだ。15分前。やっぱり早い。
「うん、びっくりした〜。おはよう蓮村さん」
ていうか可愛い! 可愛さにもびっくりした。
「藤先輩、早いですね」
「蓮村さんも早くない?」
「私は通常運転なので。それよりも行きましょう、先輩!」
制服の蓮村さんも良いけど、私服の蓮村さんはもっと良い。ダッフルコートからふわりと広がるスカートが伸びて、短いブーツが軽い足音を鳴らした。
改札を通ってホームに降りる。人のあまりいないホームで僕はほんのり赤くなった蓮村さんの指先が目に入った。ゆっくりとその手に手を伸ばす。
僕の指先が蓮村さんの手に触れた。
瞬間、凄まじい勢いで蓮村さんが手を引き、胸の前でその手を固く握りしめた。
「っ……し、しし心臓が持ちません!!!」
手を繋ごうとして避けられてしまった僕がショックを受ける暇も無く、蓮村さんが叫ぶ。
「ええぇ……!!」
嬉しいような残念なような……。
それから間もなく、電車が冷たい風を連れて駅に到着した。
「あ、乗らないと!」
僕が一歩前に出ると、コートの袖が後ろに引かれた。
「あの……ちょっとだけなら……」
振り返ると俯いた蓮村さんがコートの袖口を掴んでいた。
電車が出るといけないと、とりあえずそのまま電車には乗ったけど――蓮村さんの耳が赤いのは寒さのせいなのか、どっちなんだろうか。
急に心臓の鼓動が早くなった気がした。
ショッピングモールのある駅に着くと、土曜日ということもあり、人も一気に降りた。
「結構降りるんですね」
「そうだねぇ……」
ショッピングモールなんて、なかなか来ない僕はへぇー、と関心してしまう。
「蓮村さん、映画好きって言ってたけど何か見たいのある?」
駅から直通になっているショッピングモールへ、人の流れを追いながら向かう。
「えーっと今やっているのだと『世界が終わる前の一分間』って、映画が気になってます! 小説が原作で、噂だとすっごく感動するらしいです!!」
一気に声のトーンが明るくなる。本当に好きなんだな、と思った。
「じゃあ、それ見てみようよ!」
僕の提案に蓮村さんは「でも……」と口ごもる。
「先輩は良いんですか?」
「え、どうして? 全然大丈夫だよ」
蓮村さんは変なことを聞くんだな。
「藤先輩って、何か優しいです」
「えっ!? 本当に? そんな事言ってくれるの蓮村さんだけだよ……」
冗談半分でそう落ち込んで見せると、蓮村さんがおかしそうに微笑んだ。
映画館でチケットを買うと、映画の時間までは少しあった。ポップコーンのキャラメル味と飲み物を二つ買う。僕が麦茶で蓮村さんがストレートティーだ。
程なくして、映画館が開場され僕達は座席に付いた。
「あの、藤先輩。実は私、集合場所の駅に約束の一時間前からいたんです」
突然に蓮村さんが申し訳なさそうに言う。
「ええ!? 全然気が付かなかったぁ!!」
一時間前という事は、僕が着いた時間よりも大分早い。
「……せっかく藤先輩とお付き合い出来てるのに、隠すのも変かなって思って……。でもちょっと怖くて」
「怖い?」
「はい。だって、嫌われたらって思って……」
「一時間前から来てると何か駄目なの? 確かに、この時期は寒いしちょっと心配にはなるけど」
腕を組んで考えていると、蓮村さんがちらり、と僕に目配せした。
「……じゃあ、待ってる先輩を全部写真に撮ってたって言っても……ダメじゃないですか?」
「……ぜ、全部?」
「だ、大丈夫です、50枚位なので!」
あ、以外と少ないかも。
って違う!!!
「うーん、ダメって言うか恥ずかしいかも。僕、そんな格好良く無いしなぁ」
苦く笑う。僕の顔からして蓮村さんはイケメンが好き! っていうわけじゃないのは分かるんだけど。
「――……藤先輩は、私からしたらこれ以上無いくらい格好良いです」
小さく呟くのが聞こえた。瞬間、場内の明かりが消えた。映画が始まる。
僕はそう言ってくれた蓮村さんに、何て言葉を返せば良いか分からなかった。嬉しい反面、その言葉を真っ直ぐ受け止められない自分に暗闇の中で静かに嘲笑を漏らした。
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