Ep.4 恋に恋して積もるもの
「蓮村さん、デート行こうか?」
「……へ?」
急激に蓮村さんの顔が赤く染まる。
「……デートって、あのデートですか?」
「え? うん、そうだよ?」
あんまり、照れるイメージは無かったけど僕の方から恋人っぽい事をされるのは想定外なのかな? 蓮村さんが珍しく照れている気がした。
「いき、たいです。デート、連れてって下さい」
かっ、可愛いぃぃ!!
何だろう、この小動物感!
蓮村さんが僕の顔を見ようとした時の上目遣いは反則級だ。
僕は照れ隠しもあって、歩き始める。
「いつが空いてる?」
「藤先輩とお出掛け出来るなら空けますよ。学校あってもサボります」
「それはダメじゃない?」
「ダメですか」
蓮村さんは「うーん」と小さく唸りながら考える。
「じゃあ、今週の土曜日はどうですか?」
「良いね! それで土曜日、映画館に行こうと思うんだけどどうかな?」
「……っ良いです! 私、映画凄い好きなんです!」
映画にして正解だった。
駅の改札を通りながら「映画好きなんだ?」と蓮村さんを振り返る。
「藤先輩は映画好きですか?」
「僕? ん〜、考えてみたこと無かったけど……結構好きかも」
ピロン、と音が鳴る。もしや、と思って見ると蓮村さんがスマホを構えていた。
と、撮られた!!
「……えーと、急にどうしたの?」
「えっと……その、ときめいてしまいまして、つい」
ええぇぇぇ!?
ほんっと、恥ずかしいなこの子!!
ときめいたの? 僕、何もしてないよ!?
蓮村さんの照れ笑いに釣られて僕も照れ笑いをしてしまう。
「あ〜ダメだ、超恥ずかしい……」
僕は意識的に、顔を蓮村さんから背ける。
「ふふ、ふふふ」
蓮村さんが口元を抑えながら、気色満面に笑みを零した。
「蓮村さん?」
「何か、夢みたいで、嬉しくて」
「うん?」
「私、本当に藤先輩の彼女なんだなぁって思いまして」
駅は冬の風が時々吹き抜けて寒いのに、蓮村さんと一緒にいると、寒いどころか暖かかった。
「あ、そろそろ電車来ますね」
電車の到着時刻が書かれた電光掲示板を見上げると、僕が乗る電車が来るまでにはまだ時間があった。でも反対方向の電車は2分後で、もしかして蓮村さんは僕と家の方向が逆なのかな、って事を今更に思った。
――あれ、じゃあ今朝は……。
「先輩、また明日です!」
ホームに向かいながらそう言った蓮村さんに、僕は慌てて手を振った。
……今朝、蓮村さんはわざわざこの駅を素通りして僕の家まで来たことになる。
なんて子だ。
「あ〜、もう本当に!」
小さく呟く。ホームに降りると、ちょうど反対側の電車が来ていた。
「あ……」
蓮村さんだ。電車の中から、僕を見つけて控えめに手を振っている。
やっぱりだ。蓮村さんを見ると、どんなに寒くても寒くない。
僕が手を振り返すと、蓮村さんは何故か反対方向を向いてしまった。そして反対方向を向いてしまった事に気づいた時には電車も発進していて「ああ、電車が動いたのか」と合点した。
デート当日の集合場所は、僕の家まで来ると言った蓮村さんを押し切って、何とか蓮村さんの最寄りの駅で、という事になった。時間は10時。デートはいよいよ明日に迫っていた。
「デートなんてした事ないしなぁ」
僕はセーター片手にため息を着いた。
ぜっったい、蓮村さんは可愛いだろうし……。デートってなったら何百倍も可愛さ発揮しそうだし……。
隣にいる僕がダサい格好をして、蓮村さんに恥ずかしい思いをさせるのも駄目だしなぁ。
「何着たら良いんだ!!」
蓮村さん、どんな服を着てる男の人が良いんだろう。考えれば考えるほど迷走してしまう。
「兄貴〜ご飯出来た〜!」
夕飯を作っていた妹の
「うおうっ、どうしたこの惨状は!」
長い黒髪のポニーテールが左右に揺れる。
「あれれ〜、あれれぇ? もしかしてデートォ!?」
「〜〜っ、あ〜、もう! だったら何だよ、弥英!!」
「わぁ、素直! 兄貴、私が服を選んでやろうか?」
楽しそうな弥英に、服選びを頼むか言い淀んでいると弥英が衝撃的な一言を発した。
「私も彼氏いるしな」
「え? 待って、中三だよね?」
「そうだけど?」
特に僕を気にすることなく、さらりとそう言う弥英に僕は肩を落とした。
「中三で彼氏いるとか……」
我が妹ながら、早くないか!?
「どうするの? やらなくて良いの?」
痺れを切らした弥英が仁王立ちで腕を組む。
「……お、お願いします」
「よろしい」
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