Ep.3 デート?

「あのさ蓮村さん……」

「おはようございますっ、藤先輩」


 家から出てきた僕を蓮村さんは笑顔でて迎えた。


「家知ってるのもびっくりだけど、僕が家を出る時間も分からないのに、いつからそこに?」

「えっと〜、朝の六時ですかねぇ」

「っ……寒いじゃん!!」


 一応手袋とマフラーはしているみたいだけど鼻と耳が赤い。

 しかし蓮村さんは僕の心配など気にも止めず、両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。


「怒った先輩も良い! 〜〜っ、しかも優しいっ!!」


 ストレート!! 超ストレート!! 

 少し恥ずかしい気もしながら、僕は蓮村さんの横に並び立った。


「……行こうか? 学校」

「はいっ」


 蓮村さんは付き合ってみると、想像していたよりも明るくて想像していたよりも僕が好きで、想像していたよりも可愛かった。


 でも、付き合うって何したら良いんだ? デートとか? 女の子と付き合ったことがない僕には全く分からない世界の話だ。

 でも男としてリードしたいよなぁ、ここは。


 とりあえず《初デート 場所 おすすめ》でググッてみる。

「……映画館、水族館、動物園……なるほどなるほど」


「なーに、一人でぶつぶつ言ってるんだよ?」


 亮だ。


「別に、ちょっとな」

「そういえば八尋、白雪姫と付き合うことにしたんだな! 朝からその話題で持ち切りだぜ」

「マジで……?」


 し、知らなかった。そうか、今朝一緒に登校したから。

 亮がにやにやと気持ち悪い笑みを浮かべる。


「良かったな、八尋」

「冷やかしなら帰れ〜」

「でも白雪姫かぁ。どうするんだ? デートとか!」


 ただ今絶賛悩み中だよ!!

 僕としては、亮にはあまり相談したくないんだよなぁ……。絶対調子に乗られるし。


「別に普通だよ」


 短く答える。


「おお、そっか。まぁ、何かあったら先輩として? 恋愛の先輩として? アドバイスしてやんよ!」

「ふっ。うん、そん時は宜しく」


 デートについて一日考えた結果、映画館がいいんじゃないかって結論に至った。王道中の王道! 映画館なら、電車で少し行った所にあるし。

 僕は放課後になるなり、蓮村さんのクラスに行った。一緒に帰って、その時にデートに誘おう。


「あれ……もう帰っちゃったのかな」


 教室を見回しても、蓮村さんの姿は見当たらなかった。やっぱり学年が違うクラスに行くと目立つ。さっきから、後輩にじろじろと見られて落ち着かない。僕はしょうがないか、と今日は諦めることにして昇降口へ向かう。


「ちょっと残念だな」


 マフラーを巻き直し、コートのポケットに両手を入れた。

 昇降口に差し掛かり、俯きかけていた顔を上げる。すると靴棚に背を預け、大人しく本を持つ蓮村さんが目に入る。

 入れ違いでお互いがお互いを探したり待っていたりした事が嬉しい気がして、僕は急いで蓮村さんの側に駆け寄った。


「蓮村さん」

「藤先輩!」


 蓮村さんが嬉しそうに顔を上げた。


「えへへ、一緒に帰ろうと思って待ってました」

「連絡してくれれば良かったのに」


 靴を履き替えながらそう言うと、蓮村さんは小さく笑った。


「私、先輩を待ってる時間が好きなので。今日も先輩驚くかなって思って、結構わくわくしてました」


 何だか分かる気がして僕も顔が綻んでしまう。蓮村さんに連絡しないで教室に探しに行った時、どんな顔するかな、驚くかな、って考えて少しわくわくした。



 どうしよう、蓮村さんが凄い好きだ。


「蓮村さん、デート行こうか?」


「――へ?」

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